マヤ神聖文字殺人事件 その一
『 マヤ神聖文字殺人事件 』
プロローグ
見掛けはいろいろとあるように思われるが、殺人の形態は実質的に分類すれば、九種類に止まると言われている。
射殺、刺殺、撲殺、焼殺、感電、毒殺、爆殺、窒息死、餓死の九種類である。
この分類に従えば、絞殺とか扼殺は窒息死に分類されるであろうか。
射殺は日本では珍しいが、基本的には銃社会と言える米国ではありふれた殺人方法である。
縊死は日本に多い自殺の方法であるが、自分を殺すということでは、一種の殺人と言え、分類としては窒息死に分類される。
但し、瞬間的な頚部圧迫により、呼吸はともかく、血液が脳に流れなくなり、瞬間的に意識も失われることから、比較的楽な死に方と言えそうだ。
キリスト教では、自殺が厳然として禁止されていることは言うまでも無いことであるが、古来のマヤでは、自殺は果たしてどのように考えられていたのであろうか?
『イシュタブ』と言う名の自殺の女神を崇めていたという事実がある。
イシュタブは自殺者を天国に導く女神で、像も首を吊った姿をしている。
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古代マヤでは自殺を奨励していたのであろうか。
ちなみに、マヤ世界における信仰では、死後にそのまま天国に行ける者は聖職者、生贄となって死んだ者、戦死者、お産で死んだ女性、そして、首を吊って死んだ者に限られていた。
それ以外の理由で死んだ者は『シバルバ』と呼ばれる地底の地獄にいったん落ちて、数々の苦難に満ちた修行をしなければ天国には行けないと信じられていたのである。
一般の庶民で、通常の死に方をした者は先ず地獄に落ちなければならぬ、ということだ。
一方、首を吊って自殺した者は『イシュタブ』に祝福されて天国に導かれる。
十月一日(月曜日)、第一の殺人予告の手紙が日墨交流協会事務局に届いた
「三枝先生。こんなおかしな字の手紙が着いていますよ」
大学の事務員があたふたと近寄り、急ぎ足で研究室に向かって歩いていた三枝美智子に一通の手紙を手渡した。
本当に美味しくないカレーライスだったこと、と食堂で食べたカレーの不味さを忌々しく思いながら、憤然と歩いていた美智子は手紙の宛名書きを見て、びっくりして目を見張った。
宛名書きには、大学と美智子が所属する協会の名前が書いてあったが、全ての字が直線で書かれていたのであった。
『 東京都千代田区 明智大学内 日墨交流協会 』と云う宛名書きだった。
字は全て直線の定規を使って書かれたように見えた。
どこにも丸みを持った曲線は見受けられなかった。
全ての字は長めの直線或いは短めの直線から構成されていた。
少し、胸騒ぎがした。
封筒を開けると、中に長方形の紙片が二枚入っていた。
一枚には、三個の小さな○と二本の棒が描かれてあった。
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そして、もう一枚の紙片には、妙な絵模様のような図形が描かれてあった。
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二枚の紙片のみで、他のものは入っていなかった。
それらの二枚の紙片を三枝美智子は縦にしたり横にしたりして暫く眺めた。
やがて、溜息を吐いて、首をかしげながら、二枚の紙片を封筒に戻し、自分の机の引出の中に入れた。