第1羽 速水チーム① -5/6-
そして、翌日。
「まさか本当にエステとはなぁ~」
うつぶせのレオンが、仮面付きの男性に背中をマッサージされつつ、心地良さそうな声を出した。
「ホント、まさかな……」
隣でマッサージされている速水も、目を閉じて微笑み、同じ様子だ。
二人が連れて来られたのは、ベス及びクイーンが定期的に連れて来られるエステ用の場所。
ここは、速水達が収容されている建物の――中か外か。とにかく近い。
内装は意外に上品で、ベスに聞いた通り、それなりに高級感がある。
ここに初めて来て、目隠しを外された速水は首を傾げた。これはまるで総合レジャー施設だ。そこで二人は何だかサッパリよく分からないが、代わる代わるの仮面エステティシャン達に磨かれている。もちろんエステティシャンは全員男性。
速水とレオンは、午前中は顔面にあやしい緑色のパックを塗られたり、足裏マッサージやO脚矯正を受けて悲鳴を上げたりしていた。昼飯はよく分からないスムージーだった。
ベスの話が確かなら、このあとサウナとジャグジー。そしてヨガ。
エステティシャン達は間違い無くその道のプロ。心地よすぎて、速水はうとうとして来た。レオンも、今はたまたま速水の方を向いて、同じく眠そうにしている……。
「そうだ……そういえばお前等どうしてんだ?ノアと言い、脇とかスネとかツルツルだろ」
レオンが言った。
そう言えば午前中、レオンは不思議そうに速水の足を見ていた。
「え?あ、俺は永久――いったた!」
「お客様、肩、凝ってますね」
「痛った……そうかな……?ノアも部屋でやってるだろ。見てなかったか?」
「そうだったか?――あ、そういや……」
そんな感じでマッサージが終わり、速水は簡易ベッドに起き上がった。
速水は腰のタオルを巻き直した。バスタオルで色は濃い青。私服は来てすぐに持って行かれたままだ。午前はエステ用のガウンがあったが、午後からそれはどこかへ消えた。
少し伸びをし、速水は立ち上がる。
マッサージオイルでベタベタして気持ち悪いが、やっぱりたまにはこんなのも良いなと思う。デトックスと言った所か。……少々やり過ぎ感はある。速水は逆に疲れてきた。
「次は軽くシャワー、その後にサウナとなっております」
速水達にかけれていたタオルを畳みつつ、仮面エステティシャンが言った。
「お疲れ様です。あちらへどうぞ」
もう一人もかしこまって、レオンを先へと促す。
レオンも立ち上がる。
「じゃあ、行くか。悪くは無いが…さっさと終わらせたいしな」
「そうだな。……サウナっているのか?」
レオンと速水は案内に従って部屋を出ようとした。
そこで仮面が。
「あ、そうでした」
と言った。
■ ■ ■
「では、こちらのバスタオルを二、三枚、お持ちになって入って下さい。十分ほど入り、その後で隣の水風呂、その後またサウナに十分。二セットで終了です」
軽いシャワーの後、速水はサウナルームに案内された。レオンはワックス脱毛らしい。
小さな脱衣所に、ごく簡単なロッカーが設置してある。
サウナだし、タオルは脱ぐ必要は無い。速水は床に敷くためのタオルを二枚取った。
速水は一つ目の引き戸を開けて中に入って、そして閉めた。
少しスペースがあって、その次にもう一枚の引き戸。熱が逃げないように、二重になっている。扉は木肌を生かした丈夫な木製。磨りガラスはない。速水は引き戸を久しぶりに見た。
――今ごろレオンは大変な思いをしているだろう。
速水は今は亡き祖母、そしてジャックと、その妹で元弟のリサの教えを守り、脱毛は欠かしてしていなかった。
用意してくれたエリックにも感謝しないとな。
……やはりサウナは熱気が凄い。
構造は日本とあまり変わらない。広さは六~八畳ほど。奥は階段状になっていてその部分も木でできている。
床は黒の石材で、正方形、一メートルくらいの間隔の白い筋が入っている。奥の階段のすぐ下にはすのこが並べてあったりして結構立派。タオルを敷いて数名が寝そべる事ができそうなスペースもある……。まさしくお洒落なサウナだ。
確か、サウナは階段の上に行くほど暑かったはず。上級者はさらなる熱気を求め、階段を登っていく……。
「あつい……」
速水は奥の一段目にタオルを敷いて座り、しばらくダラダラと汗を掻く。
十分か……。レッスンという扱いのせいか、いちいち細かい。
ハッキリ言って苦行。だが耐えるしかない。
ダンサーになる為に、これが本当に必要なのか?と、少々疑問を持たないでも無い。
上に設置された時計は結露していてよく見えない。その下に温度計がある。
今何度くらいだろう?
速水は立ち上がった。
■ ■ ■
レオンは死にそうな思いをした。
「死ぬかと思った……マジで脱毛は大切だな……ここアンダーでも。いや、昔はしてたが……」
フラフラと色々押さえながら歩く。
「次はシャワーとサウナか、ん?案内いないな?」
周囲を見ると、誰もいない。
確か、さっき終わる時に「次は隣の部屋へどうぞ」と言っていた。
レオンは特に疑問も持たず、次の扉を開けて、七つ並、スポーツジムのようなパーテーションで区切られた簡易シャワーを使った。
サッパリして出てみると、正面、つまり先程入って来た壁の真ん中あたりに、分かりやすく『サウナルーム →』と書かれた案内がある。その先がサウナだった。
レオンはサウナルーム前の脱衣所、その扉を少し開けて熱気に驚いた。
「うお。まあこんなもんか」
もやもやと、煙のような白い蒸気がただよっていて。そして。
――脱衣所の床に、速水が倒れている。
「っ!?おいハヤミ!?」
レオンは慌てて駆け寄った。
うつぶせ、汗だくでタオル一枚。抱えて起こすと、がくんと首が反って、重たい。
「ハヤミ?!おいしっかりしろ」
レオンは速水の頰を叩いた。
反応がない。
レオンは一瞬、愕然とした。
「……おいっ!?おい!」
我に返り、また何度か強めに叩いたが。全く反応が無い。
顔も体も真っ赤だ。完全にのぼせている!?
レオンはすぐに抱え上げシャワールームへ走った。
シャワースペースの扉を体で開け速水を下ろし、シャワーの蛇口をひねり冷水をぶっかけた。
上部からのシャワーが速水にザァッと注ぐ。
レオンは膝をついて、ぐにゃりと倒れていた速水を起こし揺さ振った。すると少し目を開けすぐだらりと崩れた。
「おいしっかりしろ!」
その後全く反応が無く、意識が混濁している。
「誰か!!いないのか!」