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JACK+ リベンジ  作者: sungen
JACK+ 復讐-リベンジ- 本編
5/11

第1羽 速水チーム① -1/6-


「ボーカルトレーニング?」

端末を見下ろし、速水は聞き返した。


「そう、ハヤミ、歌、超好きだろ?」

ノアが笑った。


ノアは金髪碧眼。

巻き毛を肩が過ぎるくらいまで伸ばし、首の後ろで一括りに結んでいる。

ノアは速水の一つ下、今は十七歳だが、やや子供っぽく見える。


…レオンとベスは召集が掛かって出て行ったらしい。

ノアは速水が起きるのを待っていたようだ。テーブルの上に何冊か雑誌と、その上に日本語の書き取りノートがある。


今日のノアは白のTシャツ。これは『NOAH』…つまりノアというブランドのシャツで、胸にノアと書かれ、その下にプラスみたいな形の赤い十字架がある。

あとは迷彩柄のカーゴパンツ。同色系のごつめの、黒ラインの沢山入った限定スニーカー。カラフルな紐のブレスレットを適当に巻いている。

当然だが、全て世話役のエリックが持って来た物だ。

ノアはカトリック教徒なので胸にクルス。


ここでも信仰の自由くらいはある。


「ここ」はアンダー。文字通りの地下。

地下組織の…、という意味の地下だ。


…この部屋が本当に地下なのかは、窓が無いので分からない。

だがショーへ行く時は目隠しのまま階段を上がる。




速水朔、彼は今十八歳。

速水は去年の九月に誘拐され、この組織に連れて来られた。

今日は五月二十四日。


――速水はここしばらく、とても体調が悪かった。

その為、ウルフレッドに代打を頼み一月半ほど休養していた。


座っているのはいつもの位置。

右に速水、左にノア。クイーン用の個室を背に横並び。


現在時刻は午後四時十四分。一応、端末の片隅で時刻は見られるし、窓の無い壁際には背の低い棚があって、その上にも小さなデジタル時計がある…。

その他棚の上にあるのは、速水のサイフォン――これは新しい物。追加された小型のエスプレッソマシン。ラジカセ、ヘッドフォン。棚の中には定期的に届けられるダンス関連雑誌。ファッション雑誌。

ファッション雑誌は男性雑誌と女性雑誌。


雑誌…こんな所にも金が動いているのかと、速水はたまに呆れる。


この組織の正式名称は『グローバルネットワーク』

馬鹿みたいな名前だがそうなのだから仕方無い。GAN(ガン)と略されることもある。


彼等の目的は世界征服――ではなくて、『ダンスで世界平和!』というとても馬鹿馬鹿しい代物だ。

だがネットワークは世界平和に大いに本気だ。


最低だ、と速水は常々思っていた。

世界平和自体は実現すればまあ、良い事だが…ネットワークの方向性は大いに間違っている。


速水朔、彼は誘拐された事をまだ恨んでいる。

速水は自分の誘拐を指示したという、この組織のトップ『ジョーカー』…ソイツを見つけたら殺す気でいる。


なぜならソイツが速水のブレイクダンスの師匠である、『先代ジャック』ことジョン・ホーキングを殺したからだ。

…たぶん。

まだ確証は無いが、外に出たら前後関係を洗い出し、必ず…!


凱旋ステージ天井の崩落血まみれのジョン。


あれが事故で無いなら。

俺は死刑でも構わない。


「…どうしたの?具合悪い?」

「いや?」

ノアに言われて苦笑した。どうやら目つきがきつかったらしい。


…速水は、目つきのきつい男だった。


顔立ちはひどく整っているが、普通にしていても怒っているの?と聞かれる。


今日も速水は全身黒色だった。黒の半袖。長ズボン。黒い靴。

愛用の黒くてつばの裏が赤いキャップは、ベッドの横の棚、一番上に置いてある。


最近はずっとパジャマとか入院着、そして裸足だったが、昨日、そろそろ良いかも、と言う言葉を聞いたエリックが嬉しげに持って来た。

世話役の彼は、速水の世話に心血を注いでいる。


ついでにネックレス、バングル。アクセサリーも。別の帽子も。

速水は「ピアスはどうですか?」と、新品のピアッサー片手に聞かれもちろん断った。


服はいつも二、三日分、まとめてエリックが持って来て、洗濯物は毎日、レッスン中に回収される。

つまり、この部屋にはいつも必要分しか置かれない。ベッド脇の棚で事足りる。


「で、俺と、合同レッスンだって!珍しいよな」

ノアの声は弾んでいる。


「……」

速水は黙り込んだ。少し困った様な顔をする。


「あ、大丈夫。俺がフォローするから!ハヤミ歌は上手いし何とかなるって。歌は一週間の集中レッスンで、その間リハビリも兼ねて少しずつ踊るってさ。その後は週に二回くらい?わからないけど。また、今度そういうステージがあるのかな?楽しみだね、あ、ベス達がソレ聞いてるのかな?」

ノアはとても楽しげだ。笑っている。


「??」

速水は首を傾げた。


ノアと俺は、いつからこんなに打ち解けたのだろう…?



ノアは続ける。

「――でね、ベスもそろそろ出産だから、もう来週頭から速水のフレンドの医者が来るって。どんな人だろう?ハヤミはゆっくりで良いから、リハビリしなよ。運営にもしっかり言っといたから。絶っ対、無理はするなよ」

ノアは微妙に苦笑している。


「??分かった。早く調子戻さないとな」

速水は頷いた。…とても気を遣われているのは分かる。…まあ、いいか。


「だから焦らないで。普通でいいよ。――いや、ハヤミ的にはゆっくりで。レオンまだかな?あー暇!ベスはどうだろ。トランプ…」


―と、立ち上がろうとしたノアがドアを見た。

「あ、来たね」

言われた速水も足音に気が付いた。


ガチャと扉が開き、レオンとベスが入って来た。帰って来たと言うべきか。

ガスマスクが目隠しと手錠を外して出て行く。


「二人ともおかえり!」

「ああ」

帰って来たレオンが返事をする。隣にはベス。

レオンの表情は少し微妙だった。


「あらハヤミ、もういいの?」

ベスが大きな腹を抱えて言った。

「ああ、そろそろ普通」

言いつつ、速水は申し訳無くなった。


療養中のことは…時々、覚えていない。

だが妊婦であるベスの個室を占領し、追い出し、迷惑を掛けたのは間違い無い。

個室から解放された後も、皆に色々気を遣わせた…。

よく分からないが、ノアも運営と良く話をしたらしい?後で礼を言っておこう。

それにしても、妊婦のベスまで呼び出されるとは…一体何だろう?


「ベス、具合は?」

速水は聞いた。

「ええ、貴方は?」

苦笑で返されてしまっては仕方無い。

「もう大丈夫」

速水は笑った。


速水はベスの為に椅子を引いて、ベスがそこに座る。


「それ俺の…、まあ…」

ベスの恋人のノアが少し言いかけたが、ノアはやはり機嫌が良いらしい。

それぞれ席に着く。


「で、レオン?何?」

ノアが聞く。

「ああ。――少し先になるんだが」


レオンは、一枚の紙をテーブルに置いた。


その紙には。


『世界平和の為の、海外公演』

そう書かれていた。


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