九
「く、くるしい……」
「あ、ごめーん」
柔らかい殺人兵器から逃れた俺は、深呼吸をして酸素のありがたみを味わう。
「もう、嬉しすぎて……つい……」
それにしても、この身体の元の持ち主ってどんなだったんだろう? なんか友達がいなさそうみたいだが……。でも、こんなに心配してくれるお姉さんがいるから、俺のところみたいに家族仲が悪いってわけでもないよな? というか、俺の家は俺のせいなんだから自業自得ってやつかな……。
「あ、あのね」
何か真面目な顔でナーナさんが話しかけてきた。
「え? なに?」
少し、緊張した感じで答える。
「お……」
「お?」
ナーナさん、深呼吸。なんだろう? 何かヤバイことかな?
「お姉ちゃんって呼んでくれる?」
「お姉ちゃん?」
そう答えると、ナーナさんの表情が一瞬、固まる。その後すぐに、また抱き寄せられて柔らか殺人兵器を味わうことになる。
「くる……しい……」
「あ……」
ナーナさんが慌てて俺を離す。そして、涙を浮かべながらとても嬉しそうな笑みを俺に向けた。
「ありがとう。これで夢が叶ったわ」
夢が叶うって……。お姉ちゃんって呼ぶのが、そんなに凄いことなんだろうか?
「あ、そうそう。お父さん達も心配してるから、早く顔を見せてあげようよ」
そう言い、ナーナさんは俺の手をつかむとドアへ向かって歩き出した。いいのか? 未だによく分かってないけど、このまま家族? に合っていいのか? 何の情報も無いし、ボロが出たらどうするんだ?
「あ、あの、お姉ちゃん……」
俺の言葉に、ナーナさんは立ち止まると振り向いた。急に立ち止まったので、俺は勢いでぶつかってしまった。
「なに? どうしたの?」
嬉しそうに目を輝かせて、ナーナさんは俺を見た。
「あ、あの……なんだかまだ、体調が……」
「え? つらい? そうだよね。死んでたんだし……」
そういえば、俺というかこの身体の持ち主も死んでたんだっけ……」
「分かった。じゃあ、父さん達には後でこっそり見に行くように言っておく。だから、ミーナは横になってて」
今度は、ベッドに向かって俺の手を引いていく。別に体調は何ともないんだけど、なんだかまだ状況が分からないのであまり多くの人とは接触しないほうがいい気がする。
「ありがとう」
ベッドに横たわりながら、感謝を伝えた。すると、ナーナさんは、また驚いたような顔で俺を見る。もしかして、元の人って礼も言わないとかだったのかな?
「ゆっくり休んでね。後でご飯を持ってくるから」
「うん……」
ナーナさんは、何度か振り返りながらドアへと向い、ゆっくりと部屋から出て行った。