七
「秋鹿蒼真っていう、魂の名前と、その身体のミーナって女の子の名前、二つ名前があるのよ」
「この身体って、俺の夢とか幻想とか想像とかそういうものじゃないのか?」
「違うわよ」
「死ぬ予定じゃなかったあなたを死なせてしまって、とりあえず何とかしなきゃって思っていたら、丁度この世界で自らの魂を殺しちゃった魂の無い身体があったのよ」
「え? じゃあ、この身体って……」
俺の妄想とか夢とかじゃなくて実態……?
「そう。あなたは、元の世界では死んでいるけど、この世界ではちゃんと生きている」
「あの……。女の子の身体じゃなくて、もっとこう勇者とか賢者とか魔王とか無かったの?」
俺の質問に、アナトが溜息を吐いた。
「あぁ、そういえば、超イケメンの身体が空いてたわね……」
「え? じゃあ、そっちで!」
まだ、なんとなく夢とかそんな感じがする。現実感がないというのか……。というよりも、夢にしたい俺がいると言った方がいいのか……。
「半漁人だけど、そっちがいい?」
「半漁人?」
「身体が魚で、人間の手足がそれに付いている感じね」
「……」
「とってもぴちぴちしてるわよ」
「え? じゃあ、こっちでいいです」
「っていうか、なんか人ごと? 普通なら、自分が死んだとか聞いたらもっと落ち込んだり、信じられない! って騒いだり、泣き崩れたりするんじゃないの?」
「あーうん……。ごめん、まだなんか現実感がないっていうか……。なんだか、アニメを見てるとかラノベを読んでいるとか、そんな感じなんだ」
「まぁ、いきなり死んだって言われても、この状況じゃ確かにね……」
それもあるけど、俺、これからどうすればいいのか分かんないってのもある。これがアニメやラノベなら、なんか魔王を倒しに行くとか、とりあえず冒険とあるんだろうけど……。俺の今の状況って、応急処置? そんな感じなんだろう?
「とりあえず、今日のところは帰るわ」
「え? 帰る? 俺、どうすれば?」
「普通に過ごしてればいいんじゃない?」
「普通って言われても……。俺、この子のこと何も知らないし……」
未だに現実感もないし、このままじゃどうしていいんだか……。
「明日、また来るわ」
「……」
「そろそろ、限界だしね」
「限界?」
「そう。この部屋だけ、別の次元の扱いになってるのよ。あなたと話すのを邪魔されないようにしたかったし……。それに、場合によっては色々と……ね?」
ね? って何? なんか嫌な感じがするのは気のせいだろうか?