四
「それ、何?」
俺は疑問を口にするが、アナトは紙を見せてくれない。
「いいから、サインして!」
「ふっ……」
「な、なによ! その顔!」
「内容も分からないのにサインする馬鹿がいるか?」
そう、ここは夢の中だ。普段なら言えないことも、スラスラと言えてしまう。リアルの俺なら、何も言い返せずに黙って言われたとおりにサインしただろう。だが、今は違う。
「べ、別に変な内容じゃないわよ」
「じゃあ、見せて」
俺は、ベッドから降りるとアナトに近づいた。アナトは、紙を後ろに隠したまま後ずさる。俺が前に進むと、アナトが後ろに下がる。それを何度か繰り返して、アナトはついに壁にぶち当たる。リアルの俺なら、こんな強気な行動って出来ないよな。夢ってやっぱ凄いわ。
「もう、今日はいいわ」
そう言い、後ろに紙を隠したまま、壁に沿ってアナトは横移動を始める。
「明日、また来るから!」
「ちょっと待って」
ドアに向かうアナトに向かって、通称、壁ドンをする。イケメンのみが許される、超必殺技だ。一回ぐらいやってみたいと思っていたけど、俺、今は女の子みたいだし……なんだか微妙? でもまぁ、夢だしこれでもいいか。
「な、なによ?」
「その紙、見せて」
普段なら絶対に女の子の身体に触れるなんて出来ない。でも、今は夢の中だし俺はなぜか女の子だし大丈夫だよな? そう自分を納得させてアナトの身体に手を回す。アナトの背中よりも少し下を目ざして手を動かす。
「ちょっ! どこ触ってんのよ!」
もぞもぞと身体を動かすアナトの動きに合わせて、俺の手は丸みを帯びた柔らかなところへたどり着いた。ヤベっ……すげー柔らかくて触り心地がいい……。さっきの巨乳美少女の胸とはまた違う、少し弾力のある柔らかさ。
「やめてよ! ヘンタイ!」
「いや、俺は今、女だし」
それにしても、やけにはっきりとした夢だよな。触感とかもう、本当に触っているみたいだもんな。このまま、夢が覚めなければいいのにって考えてしまう……。そんなことを考えていると、指先に何か別の感触が当たった。ガサって音とこの感触は紙だよね? 指先に触れたものをしっかりと掴み、思いっきり引き上げる。
「あっ!」
アナトの声と共に、隠されていた紙が俺の前に出てきた。
「やめて! 返して!」
必死に、アナトが紙に向かって手を伸ばしてくる。俺は、かまわずに紙を見る。ん? なんだこれ? 思わず首をひねる。すぐ側では、うるさいぐらいにアナトが騒いでいる。
「これ、何……?」