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稽古不足を幕は待たんぞな! - 2

 …………

 …………



 riot :(集団による)暴動 【法律】 騒擾(罪)

 現代日本に住んでいる限り、そうそう出会うはずもない体験でした。

「まさかこんなことに……」

 悠弐子さんのパフォーマンスは文字通り、火に油を注ぐ大炎上となり……いえ、実際に焼いたのは観客のアフロヘアだけですが。パーリーピーポーの自己顕示アイテム、ドラえもん級の巨大デコレーションウイッグ、そりゃあもうよく燃えましてね。巨大な火球となってフロアは大混乱、当然のように火災警報器が作動して大騒ぎとなってしまいました。

 ま、建物へ延焼することがなかったのは不幸中の幸いでしたが……結局ライブは主催者判断で打ち切りが決定。通報によってパトカーや消防車が大挙駆けつけたところで強制解散と相成った。

 前座の途中で幕を告げられたら、そりゃ観客の皆さんは収まりがつかないですよね。ほとんどのお客はメインのバンドを目当てにチケットを買っているんですから。

 ライブハウスの店員へ詰め寄る客、警察や消防にカエレコールしてる客、果ては客同士で小競り合いまで始まってます。これが本当の「あーもうメチャクチャだよ!」状態です。なんだなんだと野次馬まで集まってきて収集つきません。これじゃ中止が妥当です。

「正義は勝つ!」

 翻ってこちら。

「わっはっは!」

 煤けた顔で満面の笑み。

「大勝利!」

 戦場のウェザリングを施しても綺麗ってどういうこと? この二人?

 発端は身勝手な喧嘩だったくせに肩を組んで高笑い。

 どういう神経ですか?

「The Patoriotsの初ライブは大成功ね! これは伝説として語り継がれるわ!」

「The Rising Sunという傷跡、時代に刻んだぞな!」

「……バンド名って、いつ決めましたっけ?」

 突然の出演だから何も決まってなかった気がするんですが?

「The Patoriots――部長のあたしが言うんだから決定よ?」

「ライブ中に発表しちゃったんだからThe Rising Sunで決まりぞな。ザッツ既成事実ぞな」

「あんなの無効に決まってるじゃん」

「無効じゃありませーん! 残念ぞなね」

「ああ?」

「やるぞな?」

 ああもう公道で互いの頬へ拳をメリ込ませ合うの!

「やーめーてーくーだーさ……」

「今、女の声がしなかったか?」

(やばっ!)

 咄嗟に頭を下げ、路地裏の死角へ身を潜めます。

 怒りに我を忘れたパーリーピーポーの気配が去るまで、ジッと物音を立てずに。

「……行きましたかね?」

 そろそろと地蔵化を解いて振り返ったら、

「うぉ!」

 悠弐子さんの額から角! 数十センチもの、屹立した白い角が!

「これ使えるわ」

 誰かが忘れてったパーティーグッズ。大混乱で打ち捨てられたユニコーンの被り物を源子さん、廃物利用しちゃってます。

「もう一つあった」

 B子ちゃんも怪しい山羊の被り物で人相隠し。目立って目立って仕方ない金髪も上手くカモフラージュされてます。拾ったスタジャン、背中に刺繍された金の龍が保護色になって。

「これなら!」

 逃走しちゃえるかもしれませんよ! 一縷の希望が湧いてきました!

「で、桜里子は?」

「この子、変装する必要ある?」

 ええ、そうです! どうせ私は一山いくらの凡人女子高生です。残念女子ですよ!

 一目会ったその日から恋の花咲くこともある見知らぬ貴女と見知らぬ貴男にデートを取り持つパンチの効いた子とは違うんです!

「これで平気ですよ……」

 同じく路上へ放置されていたメンズのコート。肌寒い春の夜向けの薄い奴。サイズがサイズなので女子なら首元から膝下まで隠せます。

 自分で言うのもなんですが、地蔵。ザッツ地蔵スタイル。色もグレーですし。

 度重なる逃亡劇とライブハウスからの脱出で既に制服はボロボロ、とても人前に出られる状況にはありません。なので全身を隠せるコートは一石二鳥です。

「あ、そうだ」

 悠弐子さんポケットから眼鏡を取り出し、

「これ掛けな桜里子」

 どうせ私なんて、特に変装しなくても誰にも覚えられてないですよ。空気です空気、悠弐子さんやB子ちゃんに比べれば圧倒的に空気ですってば。

「ほら」

 拗ねた私を宥めるようにほっぺを両掌で挟み、

「こっち向いて桜里子」

 変な感じです。人から眼鏡を掛けてもらうのって変な感じ。なんかくすぐったい。

 くすぐったくて恥ずかしいのにドキドキしちゃう。

 目を瞑って顎を突き出す。全て身を任せて唇を差し出してるみたいな錯覚。

 まな板の上の鯉のエロチシズム……

「動かない」

 なぁに一人で妙な気分になってるんですか? この非常時に私。

 そもそも相手は女の子ですよ? それも会ったばかりの。

「……できた」

 濃い調光グラス越しに映る、彼女の唇。計測すれば平均より大ぶりなはずなのに、品よく見える。

 どうしてでしょうね?

 薄いから?

 いえ、そうでもないです。野暮ったい厚さでもなく幸薄い細さでもない、絶妙なバランスで。

 際立つのは立体感。色を失くすレンズを通せば、より明確に造形の妙が分かる。淑やかさと自己主張が調和する有機的ライン。そうでした、唇って本来こういう形でした、と気づかされる神様のリファレンス。

 もしこのレンズが全ての色を透過してたら、私は手を伸ばさずにいられたでしょうか?

 だって唇は蜜の色。啄め啄めと衝動沸き立たす花弁の色です。一時の気の迷いを量産する、魔女の色をしています。

「これで分かんないよ誰が見ても」

「分かんない分かんない似合う似合うぞな」

 そんな私の気も知らず、口から出任せの勢いで賛辞を並べてる。

 ほんと…………いい気なもんです。

 みんなこんな感じなんでしょうか美少女という生き物は?

 美しさを心の拠り所にできる人とは、同じ言葉の重さで会話できないんですか?

 私みたいな持たざる者の心象なんて他言語感覚ですか?

 ケラケラ笑う彼女と彼女が――羨ましくて疎ましい。

「似合う……似合……」

 存在の耐えられない軽さで社交辞令を言い散らかした悠弐子さん、その果てに言い淀む。

 心にもないことを取り繕うのも限界ですか? 男物っぽいサングラスとか滑稽なだけなんですね?

「いや……というか……こうして見るとアレね……」

「うーむー」

「なんですか? 言いたいことがあるならハッキリ言って下さい!」

 内から湧き上がるものを必死に堪えたみたいな顔。軽くぷるぷると震えてません?

「言っていいの?」

「いいですよ別に」

 どうせお二人に敵わないのは分かりきってるんですから。

「桜里子……」

「桜里子……」

 心赴くままにディスってもらって結構。率直な感想で傷つけられた方がスッキリします。

 さぁ!

 さぁさぁ!

「桜里子……こうして見ると……」

 さぁさぁさぁ!

「なんというか」

「なんというか実に」

 実に?

「「露出狂っぽいな」」

「は?」

 サングラスと男物のコートの合わせ技ですか?

「仕方ないじゃないですか!」

 だって隠さないと! 制服は隠さないと!

 杜都市内では見かけないタイプのセーラー服でバレてしまうじゃないですか!

「露出狂ってより痴女ね、痴女・山田桜里子」

 なんですかその課長島耕作みたいな二つ名!

 自分でも薄々思ってましたけど、敢えて言わなくたってもいいじゃないですか!

「ひぃー! お腹! おなか痛いー!」

 人をネタに身を捩るほど笑い転げる美少女二人組。追われる危機感などどこ吹く風、箸が転がっても私が地蔵になってもおかしいお年頃を全身で表現してますよ、この非常時に!

「もう! 悠弐子さん! B子ちゃん!」

 そのくせ可愛いのが癪に障る。眉を顰めてお腹を抱えてても可愛いってんだから始末に負えない。

「今、向こうから声がしたぞ!」

「捕縛して吊るし上げろ!」

 ほーら悠長に戯れ言を言い合ってる場合じゃないんです!

 街中は完全アウェイなんですよ! 土地勘もない私たちには!

「いくよ桜里子!」


「ハァ……ハァハァ……ハァハァハァ……ハァハァ…………」

 心臓が張り裂けそうになるくらい、走った。

 ヘロヘロのマラソンランナーみたいに歩道脇のベンチへ崩れ落ちる。

 乙女には最低限の走力さえあればいい。でないと追いかけてくる王子様に迷惑を掛けちゃうから。ラブチャンスの基本は『隙』です。概して腰の重い恋愛イベント氏、彼を嗾けるにはミエミエの隙を誘い水にしないと、なかなか上手くいかないのです。

 女は隙を作れ!

「撒いたみたいね」

 って耳にタコができるくらい吹き込まれたのに! 恋愛ラボでは。

「マスクあっちぃー」

 悪い例が!

 被りっぱなしのマスクを脱いで、額に引っ掛けた悠弐子さん……もう息が戻ってます!

 障害物競走も真っ青な路地裏迷路を突っ走ってきたのに、なにその心肺能力?

 しかも、明らかに足手まといの私をサポートしながら、被り物までしながらなのに!

 こんな人は赤点です。恋愛ラボの女子力検定では最低点確実の振舞いです。

「…………」

 なのになのに……

(綺麗……)

 駅前通りと国道が交わる交差点、行き交う人波から離れ街路樹の下。

 都会の星座を背に立つ彼女は、さながら人に非ず。闇とネオンの狭間に浮かぶセルロイドドール。

「ふんふん……」

 行き交うライトを流星のサドルにして出鱈目のメロディ。

 即身仏ならぬ即身ミュージッククリップです、彩波悠弐子。作為的なフィルターなんて不要。ただカメラを回すだけでいい。それだけで得も言われぬ叙情性がフィルムへと焼き付けられる。

 人差し指と親指で作る即席カメラフレームでも――涙が。震える心が涙腺を刺激してくる。

(こ、こんな子が私の同級生……?)

 三年間、一緒に青春の一頁を綴る同級生? まさかまさかまさか。

「……'Cause you're the piece of me♪」

 恋愛ラボの子たちは必死に探してた。自分が最も映える角度を何時間も鏡を眺めながら。

 でも彼女には必要がない。

 自然体で鼻歌を奏でる悠弐子さん、どの角度から眺めても『絵になる』。必殺の男殺しアングルなど必要ありません。横顔正面斜め四十五度、俯瞰でもあおりでも引きでも接写でも、コンデジや携帯でもプロ仕様の高級機でも――――敢然と「 美 」を返す。

 それ以外の答えがご所望なら他を当たってくれる? とでも言わんばかりに。

「あはは」

 即席カメラマンとして七転八倒する私を、笑いながら目で追う悠弐子さん。なんて力の抜けた笑顔でしょう……ついさっきまで百人単位の観衆を呑み込んでシャウトしていた子とは思えません。

(こんな笑い方もできるんだ……)

 凛々しく、勇ましく、気高く強く。

 まだ知り合って僅かの時しか一緒に過ごしていないけれど、

 常に何かと抗っている、内なる衝動に突き動かされて奮い立つ戦士の顔ばかりでした。

 悠弐子さん、あなたはいったい何と戦ってるんですか?

 そんなに生き急ぐ必要があるんですか?

 知りたい。彩波悠弐子あなたを知りたい。

 誰もが羨む容姿で生まれながら、どうしてあなたは荒野を行くのですか?

 女子高生のクイーンズロードが手ぐすね引いて待っているのに。お付きの爺やが数十人体制で、レッドカーペットを敷いてます。あなたが歩くべき花道を。

 なのに貴女は……

(むー!)

 意地になって変な角度で撮ろうとしても、彼女は取り繕うこともなく。

 全方位型の美少女シェイプで応えるのです。

(ひとつくらいは!)

 有ったってもおかしくないですよね? 人間なんですから!

 と思ってしまうのはグリコの僻みだと分かっています。

 通常移動がチョコレートな人、彼ら彼女らが存在することは理解しています、頭では。

 でも悔しいじゃないですか!

 せめて何かひとつでも「これはないわ……」と万人が認める欠陥とか! 有って欲しい!

 公平世界信念は現実に通用しない誤謬だとしても、信じてみたくなるのが人情じゃないですか!

 ズルッッ!

 だけど神様は冷酷。

 そんな「迷信」に囚われた子羊には罰が用意されるのです。

「ひっ!」

 【美少女の破れ】を必死に探していた私の尻を、歩道の柵から滑り落とすんです。

 そういう運命を私に課してくる。

「あ! あわわわわわわわ! わわわわわわ!」

 柵に座って上半身を思い切り傾けていたところに、コートが滑ってバランスを失う! 身の丈に合ってないメンズコートの罠!

「ひぃぃぃぃ!」

 腰が車道側へとオーバー・ザ・トップロープ!

(やば! やばいやばいやばいやばい!)

 慌てて体勢を戻そうとしても、藻掻いた手は空を切る!

「ひょぁぁぁぁぁ!」

 ビュウン! ビュウンビュゥゥン!

「ひ!」

 わずか数センチ先、脳天の先を掠めていく疾風!

 落ちる! 落ちちゃう! 夜の川へと引き摺り込まれる!

 体重一トン級の獰猛鉄魚が跋扈する幹線道路(夜の川)へ! ――――落ちる!!!!

「――桜里子!」

 すかさず差し伸べられる手!

 迷わず掴みます! 必死に手繰ります! 私の命綱、蜘蛛の糸を!

 だって彼女の手ですから! 一も二もなく彼女を信じて掴む!

「……!」

 絶体絶命ヒットゾーンから危機一髪――――回避!

 少しでも躊躇ってたら、頭皮から数センチは持ってかれてたかもしれません!

 河童どころの騒ぎじゃないですよ! 魔宮の伝説のサル……いえもう想像するだに目眩がするので止めときますが。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、は……」

 何度目ですか? これで何度目ですか今日、死にかけたの?

 死はすぐそこに潜んでいる、そんな事実を嫌ってほど突きつけられる日!

 人生は……人の道とはスペランカーです! そうなんですね先達たる哲人の皆々様方?

 噛み砕いて言うとそういうことですよねメメントモリ!

「なーにやってんのよ、桜里子?」

 ――勢い余って腕の中。

 釣り上げられた私は彼女の胸で、子供じゃないんだからと背中をはたかれる。

 まるで悪戯っ子を窘めるママみたい。

 素直に謝れば何でも許してくれちゃいそうな、大きな愛。

 母性という女性だけが持てる尊さ、強い気持ち、強い愛。

「ごめんなさい……」

 どうしようもなく照れくさくなって彼女を深く抱く。お互いに顎で肩を愛撫するみたいなハグ。

 だって顔を見せたくないし。

 腑抜けて蕩けて安心しきって。ごく近しい身内にしか見せられないようなだらしない顔をしているはずですから。そんなの恥ずかしすぎます。出会ったばかりの人に見せていい顔じゃないです。

「…………」

 それでも彼女なら。歩道の柵に座り、何も言わず背中を撫で続けてくれる彼女になら――見せてもいいのかも?

 そんな気はするけど、私にはそこまで勇気を持てない。臆病な兎には。

 探り探り慎重に歩を進め、もう大丈夫な距離まで辿り着けたらネクストステップ。それが友達。女の子と女の子の常識的な付き合い方だと私は思っ……

「…………ん?」

 常識的な……

「…………んん????」

 常識的……

「……あれれっ?」

 常識とは何ぞや?

 と自問自答したくなる光景が、目に飛び込んでくる。突然に。トラブルストーリーは突然に。

 美少女の肩越しに眺める夜の交差点、掲げられた大型ビジョンにはテレビのサイマル放送。

 帯番組のニュースですよ、全国どこでも見ることができる、キー局発信の。

 耳慣れたピアノのインストゥルメンタル、アーティスティックなアニメーション、タイトルロゴ。

 映るもの全てが自宅のテレビで見るものと寸分違わぬ、『いつもの』。

「ひぃッ!」

 ただ一つだけ違う。全然全く以て……違いすぎる!

 だってだってだってだって!


  出 演 者 が !  ――――  ガ イ コ ツ ! ? ! ?


 気味の悪い髑髏がスーツを着て、アンカー席で喋ってる!!!!

 他の出演者と一緒に何食わぬ顔して!!!!

「な、何なの!?」

 思わずサングラスを取り去り、目をしぱしぱさせてみたら、

「……………………あれ?」

 いつもの人ですよ?

 スポーツ実況で頭角を現した元局アナの男性。ファニーな眼鏡に似合わぬ硬い語り口が「無理してますね……」って感じの、あの人です。

「えっ? えっ? ええっ?」

(やっぱり私の見間違いだったんですか?)

 今日一日、負荷のかかりすぎた精神が見せた幻覚?

「ひいっ!」

 慌ててサングラスを掛け直すと……やっぱり見えます!

 不気味な骸骨が! カタカタと顎を鳴らしながら気味の悪いホネホネロックがビジョンに!

「あれ?」

 でもサングラス外すと普通。

「ひっ!」

 掛けると異常。

「これって……」

 最高に趣味の悪いジョークグッズですか?

 人の生首を骸骨に入れ替える系の? どこで売ってるんです? 王様のアイディア?

(……いやいや待って待って)

 サングラスを掛けたまま、視線を水平に落とす。

「…………」

 交差点を行き交う人、誰一人とて首の挿げ替えなど起きてませんよ?

(……え? これどういう仕組み?)

 特定の人だけに悪戯を施すジョークグッズ……にしては、

(対象がピンポイントすぎませんかね? ドッキリ映像に差し替わる条件が……)

 差し替わる?

 ええ、そうです。アイコラみたいな静止画の挿げ替えなら素人にもできますよ。多少の知識と根気とPHOTOSHOPさえあれば。

 だけどテレビのアナウンサーは、アンカー席を離れてボードの前に立ったり、スポーツコーナーでバットを振ったりしても寸分の狂いもない。

 ハイビジョンのデータをリアルタイムレンダリングしてるの?

 このチープなサングラスのどこに、そんなチップが埋め込まれているの?

 ペラッペラのセルフレームとプラスチックレンズの安物サングラスですよ?

 高性能半導体やバッテリーに特有の発熱も見受けられない……

 それなのに特定の一人だけを判別して、極めて自然な描画処理。画面のスイッチングにも完璧に追随している。

 やってることは完全に悪巫山戯です。ジョークグッズですよ常識的に考えれば。

(でも……違う……)

 これは単なるジョークグッズなんかじゃない!

 最先端テクノロジーが凝縮された……

「なんだろう????」

 私の知性では対応不可能です。猫に小判豚に真珠類人猿にモノリスです。

「……悠弐子さん!」

 となれば持ち主に訊くのが手っ取り早い。

「なに?」

「つかぬことお訊きしますが、このサングラスは……」

「ん?」

 気怠い瞳で私の身体を抱いていた彼女、返事をするのも億劫そうだったのに、

「ナニかおかしなの見えるんですけど……」

 その言葉で急にテンションスイッチが切り替わり、

「見えた? どこにいた? どんな格好して?」

 退廃のアンニュイをかなぐり捨て私の肩を揺さぶる。

「骸骨ですよ! あのビジョンで大写しになってました!」

「ああ、テレビね……」

 気色ばんで食いついてきたのに、一瞬で興味を失ってる……

「いつものことよテレビは」

「……いつものこと?」

 ヤレヤレと溜息吐いちゃって……何を落胆してるのか分かりません????

「いたぞ!」

 しまった!

「ボーカルとマラカスを発見! 駅前通り交差点!」

 チリチリ頭のパーリーピーポーさんたちに見つかっちゃった!

 てか被り物を脱いでたら見つかります! 目立って目立って仕方がない貴女ならば!

「愚図愚図してる場合じゃ! 悠弐子さん!」

 せっかく逃げ果せたと思ったのに! また息が切れるまで猛ダッシュですか?

「大丈夫よ桜里子」

 打ち合わせの合流地点へ辿り着いたスパイみたいな笑みを浮かべ。

 なんなんです? 都会という名のジャングルへ舞い降りてくれるんですか? 逃走用ヘリでも?

「ゆに公ぉ! 桜里子ぉ!」

 私たちを呼ぶ声! 大通りの向こうから女の子の声が!

「B子ちゃん!」

「はりあぁぁぁぁーっ!」

 Mi-24でもUH-1でもなく、黒塗りのワンボックスから身を乗り出して私たちを呼ぶ。

 途中で逸れたB子ちゃんは無事ウイドーメイカー号の回収に成功してました!

「さ、行くよ桜里子!」

 余裕綽々で歩道の柵に立つミスフォトジェニック。私の手を引いたまま、笑顔で告げた。

「え?」

 まさかとは思いますが、もしかしてここを……?

 天下の杜都駅前大通りですよ? ひっきりなしに車通ってますけど? 片側三車線ですが? 向こう岸の歩道まで何メートルあると思ってんですか?

「ボコボコにされたくなかったら……………………跳び込め!」

「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

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