表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

絶対に捕まってはいけない女子高生二十四時 - 3

 死ぬかと思いました。

 私の女子高生人生が。

 こんなことで警察のご厄介になって学校に通報されたりしたら、「しばらく学校来なくていいよ」的なお達しを受けちゃうところでした。

 そんな羽目になったら、必死に受験勉強して霞城中央へ入学した甲斐がありません!

 疑似女囚監獄へと送られた中学の同級生たちより質が悪いじゃないですか!

 入学早々問題行動を起こした子とかいう風評が広まれば、男の子たちの恋人候補から除外されちゃいますよ! 霞城中央のみならず近隣の男子高校生すらも!

 なので!

 【絶対に捕まってはいけない女子高生二十四時】の勢いで展望フロアから逃亡。

 血相変えて追ってくる警備員さんたちを、どうにか振り切りました。

 途中何度か本当に諦めかけましたけど……その都度、人間離れした逃亡エスケープスキルで私を先導してくれたんです、この二人。

 普通に歩くことすら大変な人混みも、NFLのランニングバックと見紛うカットバックで擦り抜けていく。嘘みたいな速さで。

 階段へ抜ければ、待ち構えていた警備員さんすら呆れ果てる人間キャットウォーク。踏み外したらタダでは済まない手摺の上を躊躇なく逃走していくんですから。

 これでは命が!

 生命がいくらあっても足りません!

「し、死ぬかと思った……」

 私、高所恐怖症なんですよ?

 子供用のアスレティックだって、膝ガクガクで立ち往生しちゃうってのに!

 あんな安全装置も何もない普通の手摺を、拝み渡りさせられるとか!

 腕を引かれ尻を押されながら駆け抜けさせられるとか!

 二度とゴメンです!

「アンチロマンティックラブイデオロギープロモーション!」

「大成功!」

「杜都の浮かれポンチどもに正義の啓蒙をぶっかけてやったわ!」

「まさに贅理部大勝利!」

「「正義は勝ーつ!」」

 祝杯あげとる……私が青い顔でグッタリしてるのもお構いなしで勝鬨を挙げてます、こいつら!

「千里の道も!」

「一歩から!」

「雨垂れ石をも穿つ! レジスタンスの一滴も、やがて大河の奔流と!」

「小さなことからコツコツと、いつか実になる花となるぞな!」

「は?」

 まだヤル気なんですか? こんな無謀な夜を繰り返す気ですか?

「次は、どのパーティ?」

「標的となり得る展望デッキ系なら、杜都(この街)に、あと二、三箇所あるぞな」

 PCを開いて杜都の地図を参照する二人、

「ちょ! ちょっと待って下さい、悠弐子さんB子ちゃん!」

 見逃せるわけがないじゃないですか!

「そんなのダメです!」

「「…………」」

 私の諫言に固まる悠弐子さんとB子ちゃん。

「確かに」

「言われてみれば」

 分かって貰えましたか?

「桜里子の言う通りね」

 ですよですです!

「警戒度が上がってるかもしれない、同様の施設は」

「うむ……危険ぞな」

 ガクリ膝から落ちます山田桜里子。

「だったら標的を変えるぞな? 動物園か遊園地にでも?」

 そういう! そういう問題じゃないです! 根本から違う!

「時間帯を考えると……」

 いつの間にか陽は落ちてしまい、外は夜の帳が。

「や……止めませんか、ね?」

 ダメ元で直球を投げてみたんですが、

「そだな」

「ぞな」

 良かった! 聞き入れてくれましたよ!

 聞く耳を持ってるじゃないですか、ただの暴走アジテーション少女ズじゃなかった。ちゃんと説得すれば聞き入れてくれる理性の持ち主じゃないですか!


 さすが地域一番の中核都市です、夜になっても人波は衰えず、アーケードは大賑わい。

 遅くとも夕食前には帰宅、塾で遅くなっても、お母さんのお迎えでドアツードア。そんな中学時代とは別世界の、解放感! こんなに遅い時間に外で過ごしてるんです、それも女の子だけで。

「んー!」

 街へ繰り出そう。

 誰かと一緒に意味のない時をすごそうよ。

 他愛のないことで笑い合おう。

 無駄を分かち合えるのが友達だもの。金曜の夜は華やか。

 思えば中学時代。受験勉強も女子力磨きも、友達でありながらライバル、お互いを認めながら手近なハードルとして利用してた。

 切磋琢磨は打算の言葉です。

 優劣が存在する所に友情はない。受験勉強を終えてみて初めて理解できました。

「自由だぁー!」

 目的もなくフラフラ徘徊しているだけで、大人を実感する。

 ビバ女子高生!

 広がっていく世界が、私にはある!

 中学生よりもずっと広い世界で考える。行動する。他人の基準は参考程度で。

 何が楽しくて、どこに価値があるか、自分が決められる喜びを!

「女子高生に成れてよかったー!」

 取り留めもなく、目についたものを摘み食いする好奇心の蝶。高さ日本一のアーケードの下、ただ練り歩くだけで心ウキウキ。痛快ウキウキ通り。マスカレードカレーウキウキは心の誓い。

 雑踏を肩で風切り、足は自然とスキップアンドギャロップステップ。

「!」

 するとすぐに、私の隣を歩く彼女と彼女が気づくんです。

 そして実にさり気なく心憎いほどナチュラルに、私に合わせてくれる。私のビート、沸き立つ心のバイブスを汲み取って気ままなアレンジまで加えながら。

 事前の打ち合わせなど一切ないのに、踊り踊れメリーゴーランド。

(なんだ、なんだこの子たち?)

 幼少期から英才教育を受けたバレエダンサーとか?

 でも、彼女のステップはアカデミックでありながらラフ&カジュアル。様式に縛られない自由度。

 私にはそう見えます。

(なんなの? なんなのこの子たち?)

 伊達眼鏡とキャップで美貌を隠しても、人目を射抜くムーブメント。

 只者じゃないと直感する――彼女と彼女は。戸惑う私を掌で踊らせて異空間を仕立て上げる。


「うがー!」

「ぷはー!」

 気が済むまで体を動かしたら、ベンチで一休み。

(綺麗……)

 新歓の壇上よりキラキラして見える――彼女の魅力は活動量に比例する。

 動けば動くほど目が離せなくなる、彼女はGirls on Film。グラビアではなくてムービーの美女。日常の光景をレンズの向こう側へ、強制リプレイスする魔力がある。

「ゆに公」

「なによB子?」

「動いたら腹減ったぞな」

「それもそうね」

「なんか食べにいこっか?」

「いいですねー」

 そろそろ私もお腹が空きました。色々ありすぎて忘れてましたが。

「じゃなに? 牛タンでも?」

 観光客の定番ですが、それもまた一興ですよね。

「ジローにしやうぞなジロー。ヤサイニンニクマシマシで」

「B子……あんたウイドーメイカー号をニンニクカーに変える気?」

「皆で食べれば問題ないぞな」

 いやぁ……女子高生がニンニクフレーバーの充満した車で移動とか、それはどうかと……

「せっかく杜都まで来たんぞな、ジロー食べないとダメぞなー」

「霞城市内でもインスパイア系があるでしょ?」

「本物こそが唯一のordinary scaleぞな」

 こ、これはアレですか? 水掛け論からの腕力勝負の流れですか?

 なんか知らないけど無意味に喧嘩っ早いところありますよね、この二人?

(私が止めねば!)

 せっかく警備員さんの猛追から逃げおおせたんです、無駄なトラブルは勘弁……

「一理ある。一理あるわB子」

「あ……あるんですか悠弐子さん?」

「オーソドックスの真髄に触れずして亜種を語る、それって馬鹿げたことよ」

「まずは食べろよ、食べれば分かるさ!」

 B子ちゃんはラーメンマニアなんでしょうか? 既に食べる気満々っぽいです。

「でも、ラーメンでしょ?」

「んあぁ?」

「ジャンクフードなんて所詮ジャンクフードじゃん?」

「……ジローを馬鹿にする奴はラード地獄に堕ちるぞな。永遠にラードしか食えない地獄に!」

「やれるもんならやってみなさいよ!」

 キャップと伊達眼鏡を床へ叩きつけて、メンチを切り合う悠弐子さんとB子ちゃん!

 もう! 意外と話が分かる子って安心した傍からコレです!

 なんなの? なんなの美少女って生き物は?

 導火線が短すぎます! 短くていいのはスカートの丈だけですよ! 女子高生は!

「ああもう! 止めて下さい天下の往来で! ほら怪訝な目で見られて……」

 ……見られ……

(ん?)

 なんだこの既視感?

 これ味わったことありますよ?

 出汁と脂、普通なら上手く混ざらない二つの液体が、乳化という過程を経て複雑に混ざり合う、一緒くたに襲ってくるスープケミストリー……

「うっ!」

 天井の高さを利用した植樹のディスプレイ。彩られたイルミネーションの下には、何組ものカップルさんたちが立ち止まり、幻想的な装飾を見上げながら「ねぇ見て綺麗」「君の方が綺麗だよ」的なテンプレートラブを勤しんでいまして。

 そりゃ睨まれますよ邪魔すんなって睨まれますって!

 いえ、正確に言えば睨んでるのは女の人だけで、男性は馬鹿みたいにお口あけて呆けてます。なんでそこにいるのかよく分かんないほどの美少女に見惚れて我を失ってます!

 それが乳化既視感の正体です!

(ヤバい!)

 不穏な雰囲気が漂いまくりですよ!

 ここにいてはいけない! おそらくいけない! いちゃいけないんです私たちは!

「ゆ、悠弐子さ……」

 即座に彼女と彼女へ撤退を具申しようとしたのに、

「貴様ら!」

 やおらミニハンドマイクを持ち出し、さも当然のように持ち出し、

「貴様ら罪人ナリ!」

「ゆーあーぎるてぃくらうん!」

 アジり始めてやがります! この暴走美少女どもは!

「貴様らはー、騙されていーる!」

「夢幻を崇めろ、実態なき幻想を奉れと」

「刷り込まれている!」

「何が恋か!」

「正体不明の鵺を有難がったところで何が貴様らに報いてくれるのか!」

「本当の愛は――そこにはなーい!」

「殺せ!」

「殺せ!」

「ロマンティック・ラブイデオロギーを殺せ!」


 もうね。

 こうなると分かってるのに。分かり切ってるのに。

 何故やっちゃうんでしょうか?

 自制心とかないんですか? この二人は?

 社会性とかないんですか? 悠弐子さんB子ちゃん?

 なくてもいい。なくても許される、そういう人種が存在することは分かります。

 この二人には神からの贈り物(princely gift)がある。それを捧げる巫女となるのならば、信者や庇護者があなたがたを守ってくれるでしょうよ。

 だけど今は、誰も守ってくれない荒野のシチュエーションです。

 ヌクヌクした秩序の恩恵に浸っていられるのは、外してはいけない箍を保持しているからです。

 それを迂闊に外しちゃったら!

「こうなりますって!」

 今度は警備員じゃなくて本物のポリスですよ?

 無理無理無理無理色々と無理です! 無理すぎます! 私たちの女子高生生命が風前の灯ですよ!

 サイレンと警笛が鳴り響く様をお尋ね者の側から聞くことになるなんて!

 下手に逃げたせいか、それとも見物人が通報しまくってくれたせいか、アーケード街は騒然。裏道に逃げ込んだところで捕縛も時間の問題ですよこんな状況じゃ!

「大丈夫」

「は?」

「大丈夫よ桜里子」

「な、何が……?」

 どんな確信を以って大丈夫と仰るか?

「だってあたしたち――女子高生じゃん?」

 だ、だから?

「謝れば許される」

「大概のことは謝れば」

 な、何を言ってるんです、この人たちは?

 そんなわけないじゃないですか。

 人様に迷惑をかけたら、それ相応の罪を認めて償わなくてはならない。

 女子高生だから何の特権が? その肩書が免罪符になるとでも?

 ――――なりませんよそんなもん!

 類稀なる美貌と才気に満ちた、多少の傲慢もお目こぼしされる美少女だからと言ってですね!

 限度が! 限度があるってことを分か…………

「あ……」

 精密な器官パーツが私の背中を擦る。

 細く、長く、美しく、造形者の卓越は指を見れば分かる。丹念に、細心の注意を払って形作られた奇跡のフォルムは、その違いが一目瞭然。溜息の出そうなデリケートシェイプなんですから。

 その指が私を擦る。

 生えてなどいないのに。羽の付け根を探すみたいに、肩甲骨を撫でる。

「大丈夫」

 そして名を唱えられたのなら、

「桜里子」

 自分の名前なのに、今まで何百回何千回と聴いてきた音なのに。違う次元から呼びかけられているような、妙なる響き。

 おかしい。

 自分の名を呼ばれているだけなのに、泣きたくなるのは何故でしょうか?

 完全調和からホンのの僅かだけ、微粒子のレベルでズレた音が、私の感性を壊す。

 打ち込まれた楔が意識を穿ち、永遠に残存する――音の棘。

 だめだ。

 私は彼女の虜。美の蜘蛛糸に絡め取られる、哀れな蝶になる。

(綺麗……)

 接近遭遇した彼女は未知の美生物。

 真実には美しさが宿るけれど、その逆は成り立たない。

 邪にも美が宿る、数限りない例がそれを証明しています。

 だけど美には……美には意識を捻じ曲げる、歪めてしまう魔力がある。

 美は強力なバイアスフィルター、玉石混交あらゆる概念を「True」と歪めてしまうのに。

 理解してる、弁えている、盲信厳禁と知ってるのに……曲げられる意識。

 触れる頬の感触、肌を撫でる髪と指、火照った体温と彼女の匂い。

 視覚だけじゃない。五感六感全てで侵食される。私は美に冒される。

「おい!」

 ひ!

 官能カンバセーションに蕩けかけた意識、突然揺り戻される!

「君たち!」


「日本の治安はあのような存在に守られているんですね……」

 職責を全うすることに一切の迷いがない。国民の安全と治安を守ることに誠心誠意の皆さんに。

 善良な市民には心強い限りですが、追われる側に身を置くとここまで厄介なものだったとは……

「しばらくほとぼりが冷めるまで隠れてないとダメね」

「隠れると言ってもですね……」

 ここは大都市杜都、私たち(霞城っ子)にはロクな土地勘もないアウェイの地ですよ? そんな街で逃走中しても、アッサリ捕まるのがオチですよ?

 それに、あなたがた。悠弐子さんとB子ちゃん、超目立つんですよ。

 無感情に棒立ちしてたって誰もが視線を奪われます、それどころかほとんどの人は二度見しちゃいますよ。振り返って自分の視覚異常とか認知ミスを疑います。それくらいの美少女オーラが出まくってますから。誰がなんと言おうとあなたがた、問答無用の美少女誘蛾灯です。昼だろうが夜だろうが老若男女を惹きつける視線の女王です。

 本来なら、こんなにも人通りの多い繁華街など歩けません。さっきは人相隠しのサングラスと帽子があったからなんとかなったものの、変装グッズは逃亡の際にパージしてきちゃったじゃないですか。

「どうすんですか……もう八方塞がりなんですけど……」

 こうなったら潔く自ら進んでお白州へ進み出て「すいませんでした!」と土下座するしか……

「だめぞな」

 どうしてですかB子ちゃん?

「捕まったら強制送還」

「それは避けないといけないわ、贅理部的に」

 ゴールで入部試験レースの勝者を迎えるのが使命だって、自覚はあるんですね?

 だったら、こんなオイタ、しなけりゃいいじゃないですか……

 大人しく牛タンディナーでも愉しんでればよかったんですよ。ゲーセンとかネカフェとかカラオケとか映画とか女子高生らしい暇つぶし手段には事欠かない、ここ杜都市ですし。何を好き好んで官憲の皆さんと鬼ごっこしなきゃ……

「あ」

 とか後悔に苛まれる私を余所に、悠弐子さん、

「あれ」

 人だかりができてますね?

 なんでしょう? なにかイベント的な催し物でもやるんですかね?

「使える」

「ぞな」

「は?」

 まっ! 待って下さい悠弐子さん! B子ちゃん! 大通りへ出たら見つかっちゃいますよ!

 絶対に見つ……


 ……かりませんでした。

「どうして…………?」

 夢でも見てるんでしょうか? 何のアポも取ってないのに、すんなり建物へ入れちゃいましたよ?

『お疲れさまんさー』

『たばさー』

 とかテキトーな挨拶でゲートをパス。

「あれはいったい……」

 やっぱり私は騙されちゃってるのでは?

 最初から私をドッキリに掛けるための壮大なロケなのでは?

 いやいや、そんなの最初の前提がおかしい。だって、こんな私が右往左往するところ見て喜ぶ人がいますか? そんな価値がこの私(山田桜里子)に?

 この子たちなら分かります。映す価値があります。美しいですから。凡百の量産型美少女も鎧袖一触できるポテンシャルの持ち主ですから。

 でも私を撮ってどうすんですか?

(てことは?)

 示し合わせた段取りではないとしたら?

 アドリブで窮地を切り抜けた、ってこと?

「あのぉ、悠弐子さん……今、何が起こったんですか?」

 遠き宇宙の秩序維持騎士団みたいな能力で、ゲートキーパーにマインドトリックを?

「別に何も起きてないわよ?」

「ぞな」

 分かりません。

 何も起こってないなら、どうして無関係の私たちがこんなところに出入りできるんです?

「こんなところだからよ」

「こんなところ……」

 ズンズンシャリシャリ、ズンズズン……

 古めの雑居ビルにしたって騒音が酷いですね? 壁越しに衝撃が伝わってきま……

 ワーッ!

「ん?」

 壁に耳を当てて音の正体を確かめてみると、

「音楽演奏……それもお客さんの入ってる演奏会?」

「ライブハウスぞな、ここ」

 そうだったんだ!

「裏でたむろしてたの、グルーピーでしょ?」

 確かにバンギャっぽかったですよね、今にして思えば。女の子ばっかりでしたし。心の余裕がありませんでしたよ、そこまで観察する。

「でも! だからって!」

 どうして私たちだけ特別扱い?

「出演者とでも思ったんでしょ」

「は!」

 目立って目立って仕方ない自分らの容姿を逆手に取った!?

(確かに……)

 悠弐子さんとB子ちゃんは演者側の人です。産まれながらにしてそっち側です。アリーナでワンオブゼムに紛れるより、舞台上に立ってるのが適性位置に思えます。眩い光に照らされたステージこそ、彼女の居場所なのだと。

「勘違いするのは向こうの勝手よ」

 この子は知ってます、自分の価値を知ってる。

 パスの提示があろうとなかろうと、こんなにも美しい子なら通すのが当たり前だ、と相手の認識回路をスイッチングさせられると知っている。

(こ、こんな能力もあるの? 美少女って?)

 美のインプレッションがもたらす強烈な先入観。私(凡人)には思いもよらない発想ですよ。

 だからこそでしょうか?

 女子高生無罪という突飛な信念を無邪気に肯定できてしまうのは?

 同じ女子高生、同期の桜の同級生。のはずなのに、どうしてここまで違うのか?

 こんな有様を見せられてしまったら、理解できなくても仕方ないのかと思えてしまいます。

 思考の時空が違う。

 糸満ちゃん、倉井ちゃん、羽田ちゃん、霞一中 恋愛ラボのみんな!

 報告します。

 【謎の彼女X】は私たちとは異なる時空を生きてます。まず思考の前提が違いすぎる。古典力学と量子力学くらい相容れない前提では、同じものを見ても解釈が、思考が違ってくるのは当然です。

 つまりRage against the Beautyは不適格者。

 この子(彩波悠弐子)を理解できるとしたら唯一、B子ちゃんだけだと思います。

 以上――報告終わり!

「ぐへー」

 アクシデントの悪魔に祟られっぱなしとか、どこのハリウッド映画ですか?

 女子高生の耐久力はダイソフト。コーンカップに載るソフトクリーム程度しかありません。

「ぷはー」

 今まで疲れがドッと出た。机に突っ伏して疲労のエクトプラズムを吐く。

(でも、これで御役御免)

 Rage against the Beautyは退役します。

 早く帰って、適当に仕上げたレポートをLINEへ流せば、日常へ戻れます。

 あとは女子高生の本分を全うしましょ。

 選り取りみどりの男の子たちと恋の花を咲かせ、幸せを掴む。入学前に夢見ていた理想の学園生活を再起動しましょう。それがいい。同じ世界を生きていているのに、別の物が見えている子たちと関わりを持っていても、特に得るものはありません。

 恋に生き! 恋に死す!

 命短し恋せよ乙女!

 女子高生に余計な時間など一秒もありません!

 思い立ったが吉じ…………

「もしかして君たちが代打?」

 は?

 ノックもなしに控室の扉が開かれ、血相を変えたスタッフさんが飛び込んできた。


「ちょ、ちょっと待って下さい! なんでこんなことに????」

「出演予定だったバンドが交通事故で来られないんだってさ」

「場繋ぎぞな。代打ぞな。代打オレぞな」

「場繋ぎ? 場繋ぎって言われても!」

 私、楽器なんて何も出来ませんよ????

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ