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絶対に捕まってはいけない女子高生二十四時 - 2

 桜里子、Rage against the Beauty辞めるってよ。

 いやいや、そんな他人事をほざいてなど居られなくなりました。

 だってせっかく、苦学を重ねて入学した恋愛理想郷が目前で壊されようとしてるんですよ?

 そんな企てを知ってしまったら……逃げることに意味がなくなる。嵐が過ぎ去るまで安全な巣穴へ

籠もっていても、外へ出れば絶望の荒野に直面するだけです。

 霞一中 恋愛ラボの同窓生へ彼氏候補を斡旋するとか、そんな目論見も木っ端微塵です。

(止めなきゃ!)

 約束された恋愛道ラブサクセスのレッドカーペット、その大崩壊をみすみす見逃すなどできませんよ! 「降ろして下さい」とか自分から申し出たりするものですか。

 潜入工作員Rage against the Beautyは、たった今から愛の守護者として悪魔思想の美少女に立ち向かわねばなりません!

 彼女らのとんでもない企てを阻止するために!

(とはいえ……)

 どうしたらいいんでしょ、この場合?

 男の子たちは山で悪戦苦闘中。女子の脚では追いつきません。それこそ序盤の裏山越えで嫌というほど痛感させられましたし。

 誰か協力してもらえる人を探して、人海戦術で男の子たちを救出する?

 警察とか消防とか山岳救助隊とか地元消防団とか……

(無理……な気がする)

 だって、馬鹿正直に知り得た情報を伝えたところで、信じてもらえると思います?

 子供の悪戯、女子高生の悪巫山戯として一笑に付されます。絶対まともに取り合ってもらえない。

 なら、どうすれば?

 どうしたら取り返しのつかないことになる前に、事を収められる?

(……あ)

 椅子が取っ払われた荷室へ敷かれたソファ、体育座りしながら打開策を考えてたんですが……ふと顔を上げれば液晶に点滅する光、地図上で明滅する百個オーダーのポインタ。

(そういえば……)

 参加者の携帯には贅理部謹製のアプリがインストールされてる。

(アプリ……)

 これ、何か緊急信号みたいな仕組みが内蔵されていたりしないでしょうか?

 私が制作者なら織り込んでおく気がする、そういう機能エマージェンシーコールを。

 何らかの劇的状況変化に対するセーフティ機能を。

 それに賭ける?

「…………」

(よし!)

 絶対に存在する確証などないけれど……今となってはそれに賭けるより他にない。

(私が救わなきゃ!)

 男の子たち、同級生たちを助けられるのは私だけです!

 この突発愛の天使・山田桜里子を措いて他には!

(となれば)

 アプリのコントロール権を奪って、非常中止通知を男の子たちの携帯へ送る…………のは無理。私はそんなITプロフェッショナル系じゃない。

 できるのは、そのアプリを作った人か、制作を依頼した人。

 おそらくはバースデイ・ブラックチャイルドの方。どの程度仕様策定に関わっていたのか知る術はないけれど、現状、このシステムの運用は彼女に委ねられてるのは確かっぽい。

(翻意させなきゃ)

 非力極まるこの愛天使(山田桜里子)です、力づくの恫喝など不可能。ハッタリの武器もないし、そもそも1:2では勝ち目がない。腕力に於いては絶望的な戦力差です。

 だけどどうしても緊急信号エマージェンシーを発信してもらわないといけない。

 そうしないと男の子たちが! 貴重な彼氏候補生のみんなが! 山中で虚しく朽ち果てる!

 もったいなさすぎます!

 それを阻止するには……万物の霊長のみが持つ叡智を駆使せねば。

 智慧です!

 理詰めの説得によって転向を願うしか、私には手段が。

 相手はドラゴン。歴戦の勇者が束になってかかっても太刀打ちできない標的でも、伝説の聖剣すら徒手空拳に等しい、誤差の範囲と泣きが入りそうな巨獣であっても、

 私は立ち向かわねばならない、愛の戦士山田桜里子として。

(でも、どうやって?)

 どうしたら説得を聞き入れて貰える?

「うーん…………うーん…………うーん…………」

 車が峠を越える間中、ずっと桜色の脳細胞をフル回転させてたのに……未だ名案、降りてこず。

 だって考えてもみて下さい。

 説得=ネゴシエーション、交渉、つまりは取引です。取引の基本といえばギブアンドテイクです。

 相手に要求を飲んで欲しいならこちらも譲歩する、その妥協点を探るのが交渉です。

 なのに私には何もない。彼女たちの満足に足る交渉材料など何も。

 何の供与もしかねるプレゼンとか、そんなの最初から失敗が目に見えている。

 というか彼女たちが欲するものなどわかりようがない。だって会ったばっかりですよ? 顔を合わせたばかりの新入生同士で何が分かるの?

 読心能力を備えたエスパーでもない限りは無理ですよ。

 残念ながらRage against the Beauty、そんな特殊能力を持ったエスパイなどではありません。

 となれば!

 彼女たちをリサーチすることこそが、急がば回れの最善策?

(でもそんな悠長に構えてられる?)

「…………」

 窓の外、変わりゆく景色が更に私を焦らせる。

 もはや男子たちの凄絶サバイバル現場は遥か彼方、高度に都市化された中核都市の領域です。

 霞城市(地元)じゃお目にかかれない多車線の幹線道路、林立するビルディング街、垢抜けた若人と見慣れない制服、街を闊歩する異邦人率……生粋の霞城っ子である私には、何気ない街の風景だけでも気後れさせられちゃう。

「けしからん……」

「実に、けしからんぞな……」

 そんな様子を窓にへばりついて眺める美少女AとB……なんか憂いてます。

 仲睦まじく手を繋いで歩道を歩く制服の男女を睨んで、憂いています。

(逃げて男の子!)

 人は見かけに拠りません!

 こんな可愛い子たちですが、腹に抱えた一物はドス黒い!

 危険思想を信奉するデインジャラスガールズです! 逃げて!

「さ!」

 杜都市の中心部、時間貸しの大型立体駐車場へ車が滑り込めば、

「行くわよB子桜里子!」

「出陣ぞな!」

 降りちゃいました。

「え? ここゴールじゃないですよね?」

 縮尺も何もあったもんじゃない適当作画の地図、それと実際の地図を照らし合わせても、ここは目指すべき終着点ではないはずです。

「ゴールの想定は明後日よ桜里子!」

「は、はぁ?」

「贅理部の辞書には『時間を浪費する』という文字はないわ!」

「余の辞書には!」

「は、はぁ?」

 じゃあどうするんですか?

 サイコパス男子キラーにとっての「有意義」ってなんでしょう?

 効率のいい殺し方をレクチャーしてもらいます? 中東帰りの元傭兵さんとかに?

 そんな道場が杜都(この街)に存在するのかも知りませんが。

「ここ!」

「ここ?」

 この高層ビルに入ってるんですか? 殺人道場が?

 杜都でも一、二を争う高級オフィスタワーですけど? 相当お家賃高そうですけど?

 こんなとこには入れませんよ普通の会社じゃ……何か、ボロ儲けできる事業でも展開してないと、時代に先駆けたITサービスとか、濡れ手に粟のソシャゲ屋さんとか……

 殺人道場の受講料だけじゃ、場末のプレハブでも怪しい気がするんですが……

「上よ!」

 吹き抜けのエントランスを突っ切って一目散にエレベーターへ。

 行き交う人は皆スーツのサラリーマン、というよりビジネスマンと呼んだ方が似合う感じの、仕事できる系の人ばっかりです。ディス イズ ホワイトカラー、その上澄みを掬い取ったような。

(まるで別世界……)

 女子高生など浮きまくりの世界……かと思いきや、

「補助金それしか出んのか? もっとガッツリ圧力かけていかんかい!」

 私たちの他にも、世界観から外れた異分子が。クソデカな声で携帯へ叫んでる。

 ああいう方々も必要悪として社会の歯車を構成しているんでしょうか? 私(女子高生)には想像もつきませんが……

(はっ!)

 まさかXYZ的な裏稼業で稼いでいるとか? 中東帰りのスキルを活かして?

 も、杜都くらいの大都市になると、そういう始末屋が平然と存在したりするんですか?

 怖っ! 都会怖っ!

「というか私も?」

 私も殺人レッスンを受けなくてはならないんでしょうか?

 男死すべし! を旨とする贅理部の掟に従って?

 『別に疑ってるわけじゃなかと……おまんの腕なら簡単じゃろ?』とドスやチャカを渡されるパターンですか?

「遂に来た……」

「ぞな……」

 閉じたエレベーターで牙を研ぐ二人、

 恍惚の笑みで漲る、光る源氏の乙女。半目で舌舐めずりするラプンツェル。

(怖っ!)

 『触るな危険』の殺気を放電しちゃってます。

(……!!)

 正視しかねて目を逸らせば――鏡。エレベーターの殺風景を誤魔化す鏡。

 天井から注ぐ間接照明、その無機質な陰影に非日常のシェイプが浮かび上がる。

(な!)

 なんて……なんて美しくも冷たい貌。色のない世界で、背筋が凍りつきそうな白と黒。

 馴れ合うことなくそれぞれの空を見つめる三人は、まるで娯楽大作の番宣ポスターみたい。

 私は完全に添え物ですが。

 レイアウト的に物足りない部分を埋めるためだけに挿れられた、脇役Aです。

 それでもキマってるのは何故でしょう?

 この二人に比べたら私は問題外、女子高生という品種が同じだけで、一山幾らのお値打ち品と桐箱入りの極上逸品を比べるような、言うまでもなくナンセンス。

 もしも可能性があるとしたら背丈くらい?

 服を着ててもプロポーションの違いは一目瞭然なのに、背丈だけはピッタリ同じ。

 同級生ですから、同い歳ですから。そこは似通っていても驚くに値しませんか。

 そのせいですかね?

 三人並ぶと意外なほど収まりがいい。画的なバランスが優れてる。

「…………ひゃ!」

 お尻! 鏡に意識を盗られていた私のお尻をペロ~ンって!

「なにを!」

 い、いくら同級生だからって、同じ女の子だからって、断りもなくそんなことリプライズ!

 裏山の関門地点みたいに、突然不躾にぺたぺたむにむに触ってくる!

(ちょ、ちょっと待って!)

 簡単に踏み込みすぎですよ、同性だからって触っていい場所とよくない場所が!

「うひゃう」

 とか抗議する間もなく私はアウトオブコントロール。

 グラップリングの達人に掛かれば素人は操られるがまま、重心の置き所を喪失して、指先一つでダウンさせられちゃう。

(ななななんですかこの子!?)

 この体術操作! まさか本当に殺人道場の生え抜きエリート? 美しき死の天使ですか?

「わ!」

 ……かと思いきや。

 傘回しの枡になった私が最終的に収まったのは、お姫様ポジション。

 覗き込んでくる王子様に頬を染めながら、彼の腕に収まるプリンセスポジション。まるでフィギュアスケートペアの定番王道のポジションみたいな。

(あ、あれ……?)

 これは殺人術じゃないですね? 技術が平和利用されています。誰が見てもラブアンドピース。女の子と女の子というところだけが錯誤している。

「とりゃ」

 もしかして鏡の向こうで狙っている? プロのカメラマンさんがベストショットを狙ってる?

 なんて錯覚しそうになるほど彼女は次々にポーズを拵える。私を小道具と弄びながら。被写体として最高の映りを究めようとする探究心。誰も見てないのに。

 気がつけば個室エレベーターは私たちの自撮りステージ。ラプンツェルも加わって、ああでもないこうでもないと試行錯誤。

「あっ、すいません!」

 扉が空いたらお客さん、乗るつもりだったのに目を剥きながら『閉』連打。

 すいません、調子に乗りすぎました。

「お遊びはここまでよ」

「いざ! 悪の本丸へ!」

 悪の本丸????

「え? 元傭兵が教える極上殺人術 短期集中レッスンじゃなかったんですか?」

 ハァァ? って顔されちゃいました……何言ってんだこの子? という理解不能の表情。

(まずい!)

 私は潜入工作員! 身バレしてはミッションを達成できません!

 なんでもいいから辻褄を合わせないと!

「………あ、悪の本丸ですね? ええ、もちろん知ってます。タマを獲ったりましょうタマを!」

「さすが桜里子!」

「見どころがあるわ!」

 ああ、私なに言ってんだろう?

 適当に話を合わせるだけでいいはずなのに、とんでもない流れになってないか?

 濡れてます。嫌な汗で背中がびっしょりです!

「でも桜里子は下がってて」

「ここは任せろぞな」

「加入したばっかの子には荷が重いから」

(た、助かった!)

 結果オーライで失点挽回です! 人生万事塞翁が馬! 天高く馬肥ゆる秋!

(で、でも本当にヤル気なの?)

 悪の本丸って……マジで悪の秘密結社にカチコミかけるつもりですか?

 殺人道場よりは現実感がありそう……いえいえ、ないです、ありません。

 相当悪どい商売シノギでも抱えてないと、無理ですこんなビルにアジトを構えるなんて。

 そんな凶悪反社会団体に乗り込もうとか、正気の沙汰じゃない。自殺より酷い目に遭って、杜都港に浮く運命です、もしくはドラム缶で沈む。ブクブク。

 チン!

「え……?」

 どう考えても無事では済まない先行きにガクブルしてたら……

「ここって……」

 悪どころか社会に貢献する善良な会社のオフィスもありませんよ?

 確か最上階は展望スペース、市民へも無料開放された憩いの場所のはずですが……

「押す階、間違えてません?」

 そんなキナ臭い詰め所なんて存在しませ……

「いざ!」

「ぞな!」

 熱り立つ二人は扉が開くなりダッシュ! 弾け飛ぶ勢いでフロアへ!

「え? …………えーと?」

(やっぱり冗談だったんでしょうか?)

 もしやあの子たち、少しばかりお巫山戯のすぎる言語感覚で生きているんでしょうか?

 「お釣り百万円」と言いながら百円を渡す駄菓子屋のオバちゃん的な?

 てことは、そもそも【地獄の山中百五十キロ走破】も嘘?

 ベタベタな誇張表現? 関西系? 真に受けたらダメな感じの?

「……なのかな?」

 掴めない。美少女のリアリティが掴めない。どこまでがホントでどこからが冗談なのか。

 まぁ、冗談なら冗談で、それに越したことないですが。

 虚言に踊らされたピエロでも構いませんよ私は。取り返しのつかない大風呂敷が嘘であるなら、私は何度騙されてもいい。嗤われてもいい。人様に迷惑をかける、その片棒を担がされたという罪悪感に苛まれるくらいなら、私は無様に騙される側でいいです。

 人生は、へいおんが一番!

 何も起こらないことが最高の幸せです。

 人も羨むようなスペシャルハッピーに恵まれなくたって、

 後ろ指さされるほどのアンハッピーでないのなら、

 横並びの人生に加わりたい。積極的に混じっていきたいんです。高望みなんてしませんから、分相応な幸せを享受したーい!

 へいおん!

 へいおんが一番!

 私が主人公のアニメを作ってもらえるならタイトルは「へいおん!」で願いたい!

「む!」

 そんな人生の未来図を描いてたら……

「うわぁ……」

 エレベーターから少し歩けば、展望スペース。

 やってます、やりやがってます! 人目も気にせず堂々と!

 この時間、社会人の皆さんは充実の社畜ライフを送ってらっしゃるので、展望スペースは暇な学生の溜まり場なんですね。本来は市内の文化や史跡名所が掲示された観光客向けの施設なのに……

(まっ!)

 破廉恥な! 暇な学生が部活もしないでイチャコライチャコラ!

 お城の舞踏会かと見紛わんばかりの享楽パーティですよ。窓際なんて、男女が交互に数珠つなぎ、ほとんど人間オセロです!

「これは!」

 傾く陽のムーディなライティングを浴びつつ、桃色空気が蔓延するハッテンスポット!

 独身者ひとりものや友人同士で迂闊に踏み込めば、桃色毒素にやられてしまう。気まずさで正気を保てなくなる。資格なき者を決して踏み込ませぬ、一種の恋愛結界です!

 耐性を得るには、恋人という解毒剤が要る。でないと紫色になって死にます。ポックリと。デロデロデロデロデーロなSEと共に。

(た、立ち去らねば!)

 ここにいていいのは「当事者」だけ。当事者と当事者だけが許される恋愛異空間です。

 ダブルデートやトリプルデートならまだしも、女三人だけで来るところじゃない!

 ほぉーら見て下さい!

 不適格者は早々に立ち去れい、って睨ま……睨ま…………ん?

「あれ?」

 二系統の異なる視線が対になって、こちらへと向けられている。

 一つは間違いなくネガティヴな感情の篭った冷たい視線。邪魔すんなブッ殺すぞ的な目。

 他方は温度が反転してませんか?

 誰ぞ彼、と目を凝らす、どちらかというと好意の波長…………いや、「どちらかというと」とかいうレベルじゃありません。

「これはっ!」

 産まれてこの方、向けられたことのない視線にピンときた。

「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」

 これは一目惚れの視線です。男の子たち、腕に抱いた彼女もそっちのけで意識を盗られてる。

 新歓オリエンテーションと同じ現象ですよ、望都子モコちゃんというホヤホヤ彼女が傍にいながらも、かぐや姫に心を奪われた彼と同じ構図です!

 なら、視線の集約点は決まってるじゃないですか。

 街を歩けば誰もが振り返る子、自分の目がおかしくなったか? と自己診断しかける子。

 現実という常識の集合体、そこへ忽然と現れる美の超越者に向けられた目です!

「悠弐子さん! B子ちゃん! なにやってるんですか!」

 振り返れば奴がいる。

 展望スペース中央に鎮座する隻眼の騎馬武者像、彼とタンデムライドしてる美少女AとBが!

「すす、スカートで馬に跨るとか!」

 いくなんでもヤンチャが過ぎますよ!

「案ずることなかれ!」

「百人乗っても、大丈夫!」

 だったら立てばいいとかそういう問題じゃないです!

 危ない! 折れちゃいますよ馬の尻尾とか武将の刀とか掴んだら! 壊したら弁償ですよ!

「あんたたち!」

 そんな私の心配も彼女は馬耳東風。止めようにも手が届かないのをいいことに傍若無人!

「恋愛菌に脳を冒されてしまった貴様らに告ぐ!」

 ミニハンドマイクを取り出して叫び散らす!

「人の脳とは!」

「脳とは!」

「は?」

 何を言い出すんですか? 何を言うかこのイカレ美少女?

「比較を止められない器官である!」

「あーる!」

「この地上に『性』というシステムが誕生して以来! DNAの継承に有利な個体を選別すること、それが生命の営みだった!」

「生物の授業で習ったぞなな? 覚えてないとかいう悪い子いねがー?」

 フロアで性の嗜みを満喫していた学生さんたち、みんなポカ~ンと固まってる。

「数学で考えれば!」

「ば!」

「統計学的に貴様ら全員別れる!」

「お前も! お前も! お前もお前もお前らもだぞな!」

 神の目線、天啓を与える神の角度でB子ちゃんが【預言】をバラ撒く。

「食事の好みや生活のルーティン、または金銭感覚、些末な価値観の違いから、セックス観、人生設計観まで、綻びの種はありとあらゆる場面で芽生え、すれ違いを助長していく!」

「豆食え、豆!」

「進学就職による環境変化等々、思いもよらない躓きで脆くも崩れ去ってしまうのに!」

「のに!」

「――あんたらの人生は誰かのものよ! 目の前にいる子じゃない、誰かのもの!」

「ぞな!」

「実もならぬ木に水を与えて、虚しくないのか!」

 ぶっちゃけ過ぎです悠弐子さん……

 たとえそれが事実だったとしてもですね、平成のぶっちゃけ王です、あなた。

 言わなくてもいいこと吹聴して回る大迷惑系女子です。

「無為なるかな、漫然の恋!」

 見て下さい、完全に冷めちゃってるじゃないですか!

 あんなにやる気満々だった心のオットセイさんがヘナヘナに萎んでますよ、みなさんの。

「恋愛は害毒である!」

(いったい何がしたいんですか、この美少女どもは!)

「殺せ! ――ロマンティック・ラブイデオロギーを殺せ!」

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