表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

第二章 絶対に捕まってはいけない女子高生二十四時 - Don't be captured! High-scjool girls! - 1

挿絵(By みてみん)


もはや後には退けない状況へ男子(と桜里子)を追い込む悪魔Aと悪魔Bの図。


「乗って」

 旧いアメリカンロードムービーみたいな小粋さで私を招く源子ひかるげんじのおとめさん。

(でもでも! ――――これは『好機』!)

 【特異点】の為人を知るには、最高のチャンスです。

 さりげない会話から徐々に徐々に、本性を丸裸にしていけば!

(できる! できる桜里子! あなたはやればできる子!)

 このとんでもない美少女さんの尻尾を掴むのよ!

 彼氏の有無からモラリティの拠り所まで、心の奥底へ分け入ってみるの!

(彼女は恋愛理想郷(霞城中央)の圧政支配を目論む恋愛暴君ラブタイラントなのか?)

 潜入調査員Rage against the Beautyの腕の見せどころ、や~って参りました!

「し、失礼しまーす……」

 促されるがままリアゲートから乗り込めば、再びワンボックスは走り始める。

「馬鹿じゃない、あんた?」

「へ?」

 心の防壁を簡単に打ち壊してくる、フランクな物言いで彼女は。

「おろしたての制服で山歩きとか」

 自分では見えない背中やお尻の汚れをパンパンと叩き落としてくれた。

「すいません……」

 粗方ホコリや木屑が落ちると彼女はタオルを持ち出して、

「動かない」

 自分でやりますから、の手を制して額の汗まで拭ってくれました。

(うわぁ……)

 息のかかる距離で眺める彼女は、嘘みたいな美しさで認識を曲げてくる。

 盛り過ぎデコレーションを鼻で笑う、素体の美。接着剤まみれの人工睫毛や不気味なカラコンの力を借りるまでもなく、各々のパーツが自己主張しながら、絶妙バランスで統合する。

 ディティールへ神が宿る上に、全体調和にも隙がないんです!

(綺麗……)

 遠くから眺めても、近くで凝視しても、嘘や破綻の混じらぬ造形パーフェクトフォルム

 いけませんよ……こんなの。

 こんな子が同級生で、同じ教室に机を並べるんですか?

 退屈な授業から目を逸らせば座ってるんです? この子が?

(想像できません……)

 この子と私が同じ背景を共有して然るべき、ありふれた凡俗のフレームに収まるとは思えない。

「…………」

 グラビアの美少女ですよ。レンズの向こう側で撮られるべき被写体(Girls on Film)です。

「……何?」

 やばいやばい、不躾に凝視してしまった! 我を忘れて見つめてしまってた。

「い、いや、あのその…………素敵な車ですね!」

 つい、口から出任せで誤魔化してしまいました。馬鹿正直に「部長さんに見惚れていました」などと言えるはずもなく。

 その証拠に、この室内。シートが取り払われた荷室には、四角いオブジェが片側の壁一面に。

 すわ! 怪しいリトグラフの出張販売?

 ……かと思いきや、そんなアートの香りはしませんで。むしろテクノロジカル。

 所狭しと液晶モニタが並んでいます。

 これのどこが「素敵」なのか?

 自分の発言なのに説明できかねる。無責任野郎Aチームです。

「…………興味あるぞな?」

 ところが。

 ところがところが。

 口から出まかせの賛辞が意外な方へ刺さりまして。

「え、ええまぁ……」

 背中を向けてコンソールをパチパチしてた金髪の子が、目を輝かせながら振り返った。

(うわ!)

 その目!

 思わず息を呑んでしまう――不思議な色。フォーカスをどこに合わせていいのか掴めない瞳。

 碧とも翠とも呼べない不思議な虹彩は、視線の深度を狂わせる。壊れたオートフォーカスみたいにグルグルと迷い道くねくね。

(ガイジンさんだ!)

 崖の上の彼女は明らかに日本人離れしたフォルムでしたが……近くで見れば、改めて驚かされる。

 日本人とは異なる肌の質感に、金色の髪。普段、身近では全くお目にかかることがない要素ばかりがテンコ盛りで、普通に言葉を交わすことすら気後れしてしまいそうな。

 ああでも綺麗。

 源子さんに負けず劣らず、私たちとは隔絶した美の境地で形作られた子です。正視に難い特異点ガールです。たとえ神様がこの子を髪と瞳を黒に染め直したとしても、溜息の出る美形に違いない。

「これで参加者をモニタしてるんですか?」

「お目が高いぞな」

 ご機嫌ラプンツェルちゃん、私を機器の前へ案内して、

「参加者のケータイを擬似ビーコンにして位置情報を定期送信させてるぞな」

「すごーい」

 大規模MMOの攻城戦かSLGみたいな画面を指しながら、説明してくれた。

(ん?)

 ちょっと待って?

(……てことは、この車は審判車?)

 私、「審判車」へ乗せられたってことは失格?

 ドベの競技者がオフィシャルに回収されるってことは、失格を意味しますよね、常識的に考えて。

 女子が男子とガチンコ体力勝負するのは無理がある、とタオルを投げられた格好?

(だとしたら!)

 これって最初で最後のチャンスでは?

 この機会を逃せば、贅理部の懐へ潜り込むなんて夢のまた夢になる?

 手放しで喜んでいられる状況じゃなかった、実は?

 あわわわわわわわわわわ……何を今更気がついてるのよ! バカバカ、私のアンポンタン!

「山田桜里子」

「は、はいっ!」

 とんでもない美少女から名前を呼ばれれば、思わず背筋が伸びる。反射的にシャキーン。

「あんたをこの車に乗せたのは……訊きたいことがあったから」

(!!!!)

 小首を傾げた光る源氏の乙女から、値踏みの視線。

 ギクッ!

(……バレた?)

「入部試験へエントリーした、ただ一人の女子……」

 潜入工作員ってことがバレちゃいました?

「まさか?」

 ラプンツェルちゃんも訝しげな目で私を睨んでくる!

(――バレちゃう!)

 せっかく相手の懐に飛び込めたのに! ネギ背負ってきた鴨を鍋で美味しく頂く寸前だったのに!

 ごめんなさい! Rage against the Beautyここで脱落!

 車から足蹴にされて辺鄙な県道に置き去りにされちゃいます!

 もうちょっとだけ正体を隠せてたら核心に迫ることができてたかもしれないのに!

「山田桜里子……」

「は、はぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 うわー! うわー! うわーわーわーわー!

「あんた、もしかして!」

「まさか!」

 おねがい、神様ヘルプ! 私に猶予を! あと僅かばかりのお慈悲を!

「…………同志?」

 へ?

「あたしたちと志を同じうする者?」

「え?」

「贅理部の大義に共鳴して、馳せ参じてくれたの?」

 大義???? 大義って何だ? そんなの知らないですよ私????

 新歓の部活案内ガイドにも書かれてなかったですよね? なんだ? 社長のツイッターとか読んでないと就活NGなパターン?

「あ、いや……まぁそんなもんです……かな? たぶん?」

 間違った選択肢を選んでしまったら最後、Rage against the Beautyの命脈は絶たれる。身バレしたスパイは始末される運命。

 相手が望む応えを返さなくちゃいけないのに!

 YesともNoとも言えない、しどろもどろ!

(だめだこりゃ!)

 ごめんねみんな! 山田には才能がありません! 全く以てスパイには向いてませんでした!

「おわっ!」

 バカっと空いたリアゲート、そこへ後ろから蹴り捨てられるのかと思った。

「ようこそ歓迎桜者!」

 何か遭ったら神を殺すと念じながらボツシュートを覚悟したのに。

「Welcome to ようこそ贅理部へ!」

 思いっきりハグされてますよ? 光る源氏の乙女ちゃんとラプンツェル、両方から!

「キノコチェックの時から、この子なんか違うって思ったのよ!」

 もしかしてあのメット、厳ついフルフェイスの正体はあなただったんですか?

「あたしの見立てに間違いはなかった!」

「慧眼!」

 な、なんか勘違いされてる?

 全く存じ上げませんよ贅理部の大義とか? そもそも贅理部が何の部活かも知らないのに?

「あ、あはははは……」

 でも潜入者(Rage against the Beauty)には好都合、

(ここは適当に話を合わせていこう! 知ってるつもりで)

 機嫌を損ねて臍を曲げられたら最後、車から放り出されて、それっきり。この子たちとの接点が途絶えてしまう。そうなれば永遠に闇。霞城中央のかぐや姫は御簾の奥へとお隠れになってしまい、情報を待ち望む同級生たちに申し訳が立たなくなる。

(慎重に、石橋を叩いて……)

 潜入工作員は目的を悟られてはいけない。基本中の基本です。頑張れ頑張れRage against the Beauty、ここが勝負ぞ踏ん張りどころぞ。

「あたしが部長の彩波悠弐子、こっちが副部長のB子」

「びーこさん……」

 はてさて? どのような表記をされるんでしょう? 見たところ外人さんっぽいですが。

「バースディ・ブラックチャイルド」

「だからB子」

「い、いいんですか、そんなんで?」

「構わんぞな」

 物事に拘らない性格なんでしょうか?

 確かに、呼び名なんてどうでもよくなるほどの美貌が名刺代わりになりますね。一度見たら二度と忘れない、むしろ積極的に二度見三度見ずっと目で追っかけてしまう美しさですもの。

「初っ端から新しい同志を迎えられるなんて、幸先いいわね!」

「瓢箪から駒ぞな!」

 女の子の部員が欲しかったんでしょうか?

 入部試験の参加者は百パーセント男子でしたから、女子は貴重なのかもしれませんが。

(よし……)

 思いがけないほど好意的に受け容れられました。いいですよいいですよ。

「私も光栄です! 贅理部の一員となれるなら!」

 ヨイショヨイショと持ち上げましょう、そして問い質しましょう、核心を。

「ありがとう桜里子!」

 小さい女の子が等身大のテディベアを抱きしめるみたい、ギュギュッと抱かれてしまいました。

 こんな抱かれ方、したことないです。少なくとも大人になってからは。

 どっからが大人か線引きが難しいにしても、物心つく前のお母さん以来の感触かも?

 恥じらいと社会性を身に着けてからは初めてです、ここまで感情に身を任せたハグは。

 しかも同じ背丈の女の子です。頬と頬が触れ合うと蕩けてしまいそうな柔らかさ。

(うわぁ……)

 女の子ってこんなにフワフワしてるんですね……二人の柔らかさが重なると、1+1が2じゃなくて200くらいに感じます。これが女の子同士の感度なんですか?

 気を抜くと、流されるがまま身を任せたくなる感触……いやいやいやいや!

「あ、あの、これからどこへ行くんですか?」

 ご主人様と永遠に遊んでたい猫みたいな状況が続いても困るので、私から切り出してみます。

「ゴールぞなー」

 私の背中へ身を預けてきたラプンツェルが応えてくれた。

(つまり、そこで勝者をお迎えするってことですね?)

「スタートの時、入部試験の合格者は先着七名って言ってましたよね?」

 ここ、ここ。核心です。Rage against the Beauty(私)が探らなきゃいけない肝心部分。

 そこをサラリと自然に訊き出すのです!

 女子二人に対して男子七人は多すぎる気がしなくもないですが……それが本当であれば、許容範囲と割り切りましょう。上澄みの男子七人を攫われてしまうのは癪といえば癪ですが、それでも男子全員を根刮ぎ奪われるよりはずっといい。口惜しいけど誤差の範囲としときましょう。

「ああ、あれね……」

 ところが。

「あれは、う~ん……」

 歯切れが悪い。光る源氏の乙女さん、口ごもる。ラプンツェルへアイコンタクトを送るも、

「うー……」

 送られた方も困る、と言わんばかりの声。

(まっ、まさか!)

 この期に及んで、まだ未練があるんですか!? 霞城中央逆ハーレムに!?

 そりゃこんだけの美貌なら、容易に構築できちゃうかもしれません、全ての同級生に、

『みんな! 愛してるよ!』

 と、極々僅かづつの愛想を振りまけば、みんな靡いちゃいますよ、握手券とか買い求めます、もしもビジネス展開を目論むのならば。

(でもダメです、そんなの!)

 皆の前であんなハッキリと宣言したんですよ? 女子であっても発言に責任を持ちましょうよ!

「取り敢えず、その辺は来てから考えようか……」

「ぞな……」

 話が違う! と激昂してはダメ。ここはグッと堪えて。

 ここで怒ったら正体がバレてしまいます。忍の一字でミッションを完遂するのです。

「で、でもどうして七人なんですか?」

「あたしとB子で二人だから……」

「ホントは三人募集だったぞな」

 へ?

 分かりません。男1:女1以外の恋愛公式が思い浮かばないんですけど、私には。

(三人?? 七人??)

 なんでそんな中途半端な数なんですか????

「桜里子が入ってくれるのを想定してなかったし……」

「う~ん……」

 二人の頭の中には、恋愛公式以外の何か、法則性のある共有概念があるんでしょうか?

 私にはサッパリ分かりませんが……

(…………ん?)

 でも、待って。

 告知通りなら贅理部には七人の侍(男の子)が入部してくる……それに対して女子が三名、

(てことは?)

 あぶれますよね? 男の子が必然的に。

 もし相手を選ぶ選択権は女子側で有している、という前提に立つのであれば、


 悠弐子さん×男子xx

 B子ちゃん×男子yy


 という連立方程式が成立した場合、


 私×男子5zz


 という式が残るのでは?

 なに? なにそれ?

 私、いきなりかぐや姫ですか? 阿倍御主人、大伴御行、石上麻呂、庫持皇子、石作皇子が一斉に求婚してくるの?

 あれ? もしかして入学早々、絶対恋愛黙示録アポカリプスオブデスティニー成就ですか?

 さすがは県内随一の恋愛理想郷、運命の恋を掴むなんてお茶の子さいさい?

 なんて素敵にロマネスク?

 制服より十二単が似合いそうな和風美人と髪を垂らさなくても救助志願の王子が大挙やってくるラプンツェル、彼女たちのオコボレとはいえ、オートマティックに彼氏ゲット?

 なんて美味い話ですか!

 お母さん、美味い話はありました!

 無防備な新入生を狙う詐欺師の甘言に気をつけなさい。お母さんは耳にタコが出来るくらい何度もご教示下さいましたが……詐欺師に肩を叩かれるより先に美味しい話が!

 これが女子高生パワーですか? モテの黄金期が為せる技なんですか?

「取り敢えず、結果を見てから考えましょ」

「ぞな」

 私の春来たる! Spring has come! Coming soon!

 初めまして私の王子様、初めての王子様、そして運命の人!

「そ、それでゴールはいつ頃になりそうなんですか?」

 もう待ちきれません! 早く逢いたいです、私の王子様!

 シラクスの刑場を目指した高潔の人みたいに、ヘトヘトで辿り着いた彼を抱き留めてあげる!

「おそらく――明後日の夕刻ぐらい?」

「も少しかかるかも?」

「え?」

 あの……何を言っているのかよく分かりません。

「つかぬことをお訊きしますが……これ、何キロぐらいあるんでしょうか?」

 携帯へ配信された手書きの絵図、それを示しながら訊いてみれば、

「百五十キロほど?」

「は?」

「百五十キロ。地図上の直線距離で」

「は?」

 なな何言ってんだ、この人?

「……ひゃくごじゅっきろ?」

 そんなの無理に決まってるじゃないですか!

 今は金曜の放課後で、来週も月曜朝から普通に授業です。

 ゴール地点から帰宅する手間を考えても、リミットは丸二日しかありません!

 タイト過ぎる!

 事前に周知されてたのなら、間違いなくスタート前に断念者が続出です!

「こんな手書きの簡略化されまくった地図とか! 戦国時代じゃあるまいし!」

 スマホへ配信された図には情報が欠落しすぎです! あまりにあまりなご無体な!

「そう、戦国!」

 なのに悠弐子さん、

「日本史上に燦然と輝く伝説の行軍よ!」

 目をキラキラ輝かせながら仰る。

「一日に七十キロとも九十キロとも語り伝えられる電撃移動……道幅二間の街道を都合二万の軍勢が昼夜問わずに走り切った!」

 ウットリするような美声で武勇伝を語りなさる。歴史バラエティのナレーションみたいに。

「一方、栄養状態の観点で言えば戦国の雑兵を大幅に上回る現代人よ?」

「熟せぬはずもなし!」

 PCで旧山陽道の立体地図をグリグリと動かしながら、ラプンツェルも断言する。自信満々に。

「その上、重い具足も武具も持たなくていい。履いている靴は草履とは比べ物にならない!」

「雲泥の差!」

 それはそぅ……いえいえいえいえいえ!

 危うく納得しそうになりましたけど……ちょっと待って下さい!

(おかしいです! 常識的に考えて!)

 実際に可能かどうかはさておき、ロクなインフォメーションも与えないまま、そんな無茶苦茶をやらせること自体おかしいです!

「神君伊賀越えならば三日間で二百キロよ!」

「さっすがー東照大権現!」

「神君!」「伊賀越え!」「神君!」「伊賀越え!」「神君!」「伊賀越え!」

 古のバンカラ応援団みたい仁王立ちした光る源氏の乙女、左拳を脇腹に当て、右拳を上下に振りながらシュプレヒコール。ラプンツェルと掛け合いながら。

(マトモじゃない!)

 本気で言ってるとしたらヤバい域です、いやマジでマジで大マジで。

 この子、八甲田山死の行軍を招いた無能軍部の生まれ変わりじゃないですか?

 勝ってくるぞと勇ましく、元気ハツラツオロナミンC!

 ファイト一発、根性があれば、二十四時間戦えますか?

 そういう目ですよ!

 瞳に一点の曇りもないですもん!

 自分が信じる想いをそのまま言葉にしてる、そういう人の目です!

 邪念がないんですよ! 悪い意味で!

(これマズい!)

 貞操観念がどうとか言ってる場合じゃないです!

 SEX PISTOLSもSEX MACHINEGUNSも裸足で逃げ出す危険人物ではないですか、この子?

「あ、やっぱもうちょっとかかりそうぞな、ゆに公」

 B子ちゃん、愛用のPCを覗き込みながら確認する。

「寒気が入って天気崩れるかも?」

「山は雪か」

「ちょ! ちょっと待って下さい! それはマズくないですか?」

 罷り間違えばリアル八甲田山ですよ? 下手をすると全員遭難の可能性すら!

 誰もこんな狂気の沙汰だとは知らないまま、大した準備せず軽い気持ちで裏山のクロスカントリーにでも臨んでるつもりですよ?

「そう?」

「ぞな?」

 こ、この子たち!

 危険と分かっていながら意にも介さぬ、その態度!

 我関せずと他人事! 不作為の確信犯ちゃん!

 まさかまさかまさかまさか………この子たちまさか!


 ―――――――――――――――――――― 男 の 子 が 嫌 い なのでは?

(だって!)

 常軌を逸した入部試験、それを使って男子全員を葬ろうとしているのでは?

 「こんなことになるとは思わなかったんです」と涙目の裏でほくそ笑む、悪魔的メンタリティの持ち主なのでは?

 じゃなきゃ考えつきません! 考えたとこで実行に移したりしません!

(悪魔!?!?)

 どう見ても姿形は天界から転げ落ちた天使にしか見えないのに!

 私は正真正銘の悪魔と会話していますか?

「止めましょう! こんなことは! 今すぐ中止しましょう!」

 過去に、どんな酷い目に遭ったのか知りませんが!

 男の子全般に恨み骨髄、抱いているのかもしれませんが!

 心から信じていた(元)彼に弄ばれてしまったのかもしれませんが!

 不特定多数の男子を毒牙に掛ける恋愛テロリズムとか正気の沙汰ではありません!

 目を! 目を覚まして下さい!

「いいえ、やるわ。やらねばならないのよ!」

「それが我々の生きる道、レゾンデートルぞな」

 それでも瞳は意思が宿り、自暴自棄に苛まれたサイコパスの目とは一線を画す。

 逆にそれが恐ろしい!

 真顔で人の運命を踏みにじるとは、容易く常人が到れる境地ではありません!

(暴君!)

 この人たちは、稀な人では?

 人類史に名を残してしまうような暴君、その精神性を受け継ぐ子なのでは?

「桜里子!」

 光る源氏の乙女、私の手を握り、高らかに宣言する。

「私たちは!」

「わ!」

「私たちは――恋を殺す、殺さなくてはならない!」

「恋を、殺す……?」

 いったい何のことを言ってるんですか?

 恋愛対象を根刮ぎ葬ってしまえば女だけのアマゾネスラブワールドが成立する、そんなことを本気で考えているんですか?

 糸満ちゃん、倉井ちゃん、羽田ちゃん、霞一中 恋愛ラボのみんな!

 【謎の彼女X】は学内男子の独り占めを目論む恋愛暴君などではありませんでした!

 彩波悠弐子とバースデイブラックチャイルドは男嫌いの悪魔です!

 男の存在自体を葬ってしまおうとする悪の使徒です!

 恋愛暴君なんて生易しい! それよりも質の悪い邪悪女子高生でした!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ