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Love, Election & Glico, Pineapple, Chocolate. - 3

 『姫』が舞台を去ると、その余韻で講堂全体が上の空です。

 序盤に比べれば比較的順調にプログラムが消化されているのに、漫然と上滑りする時が続いてた。

「……なんだったの?」

 没入度の高い映画を観た後の虚脱感。上質なフィクションに囚われて、意識が日常へと戻れきれなくなる。周囲の同級生たちも私同様、そんな呆け方をしています。

「ちょっと来ーなーさーい!」

「いていていていていてててて!」

 彼氏さん、望都子ちゃんに耳を引っ張られて退場していきました。自業自得ですね。

 望都子ちゃんによる折檻タイムが開幕ですよ。二度と他の女へ目移りしないよう、コッッッッテリと絞られて下さいね。霞一中 恋愛ラボ謹製のキッツい奴で。

(――それより!)

「『只の新入生には興味ありません』って、どういう意味だ?」

 問題はこっちです! 望都子ちゃんの彼氏(他人の男)より、未だフリーの男子勢の方です!

「そのまま解釈すれば……選りすぐりの人材のみ受け入れる、ってこと?」

 案の定、我を取り戻した男子たちは喧々諤々、姫の話題で持ちきりです!

「つまりセレクションを開催すると?」

「いきなり入部試験かよ?」

「てか何部だよ、ゼイリ部って? 体育会系なの? それとも文化系?」

「名前から類推するに税理士を目指す勉強会?」

「なら普通に資格対策の専門学校でも通えばいいじゃん?」

「そういや案内冊子ガイドには何て書いてある?」


『 贅理部 セレクション

  日時 : 金曜日 放課後 』


「入部したけりゃ受けなさい、ってか?」

「各部活が血眼で新入生の奪い合いしてるのに、驕ってんなぁ……」

「よほど自信があるのか?」

「そりゃ、な……」

「うむ……」

 口ごもる男の子たち。

 ええまぁそうでしょうよ。男の子でなくとも分かります。理解できます心の内が。

 あんな綺麗な子と知り合いになれる、仲間として一緒に汗かいたり、達成感を分かち合ったり、合宿とか行ったり、文化祭を楽しんだり、夏の砂浜で花火したり、そんなつもりじゃなかった的に着替えをチラ見できちゃったりするかもしれないんですよ?

 同じ部活に所属できたら!

 それが部活ってヤツですもの!

 友達作っちゃって遊んじゃって残念観念できるんです! あのとんでもない美少女と!

 会いにいけるアイドルは精々握手会まで。でも部活仲間ならば、その先までいけちゃうかもしれないんです! その可能性はゼロじゃないの!

(しかし! だがしかし!)

 こんなにもぶっきらぼうな告知、不審さ満点じゃないですか。

 部活の趣旨も、入部試験の具体的内容も一切載ってないんですよ?。

 ここから知り得る情報は表記くらい。「ゼイリ部」とは贅理部と書くのが正しい、つまり税理士を目指す部活ではなさそう、ってなくらいですよ。

「…………あ?」

 そこで一人の男の子が閃いた。

「これ、もしかしてアレじゃないか?」

「アレ?」

「カルト宗教とかマルチ商法のパティーン」

「あー」「あー」「あー」「あー」「あー」「あー」「あー」「あー」「あー」「あー」「あー」

「場所を書いてないのも『学外の静かな所でお話しません?』って流れか?」

「で、隔離された部屋へ連れ込まれて長時間拘束……」

 とんでもない美人と奇っ怪な告知とくれば、連想してしまいますよね。古今東西、男性を招き込む食虫植物の作法を。

「これヤバい系じゃね?」

「確かに……」

 オナ中の友人や、知り合ったばかりの級友と頷き合う男の子たち。

「こんだけミエミエの地雷、踏みに行くのは命知らずのチャレンジャーだよ」

 ほとんどがネガティヴな見解。さすが霞城中央の受験を通った子たちはIQが高めです。

「じゃ贅理部これは候補リストから除外か……」

「いや、でも……変なリトグラフを売りつけられそうになっても、クーリングオフを使えば……」

「自分を搾取しようとする女だぞ? お前、頭大丈夫か?」

「ルパンは何度不二子ちゃんに騙されても諦めないよ」

「フィクションと現実を区別できなくなったら人生終わりよ?」

「版画ならまだしも、変な宗教でにもハメられたらお先真っ暗だぞ?」

 みんな本能的に危険信号を察知している。

「でも……」

 なのについつい逆説の接続詞を挟みたくなるのは――――美貌のせいですね?

 退屈の海に溺れかけていた男子たちが一転、猛烈バタフライで泳ぎ始めたのも『 謎の彼女X 』が美しすぎるから。

 私の中の男性脳も、「あの美女とお近づきになりたい!」とウズウズ疼いてますもん。

 あ、これ霞一中 恋愛ラボで修行した男性脳エミュレーションでして。男性心理を読むために身に着けた模倣思考回路です。読め過ぎちゃうのも夢がなくなるので普段は切ってるつもりなんですが……どうも無意識にポップアップしてくることが時々ありまして。恋愛戦士の職業病ですね。

 勝手にイネーブルしないようにしとかないと……彼氏ができた時、興ざめしてしまいます。

「これ絶対に地雷案件だぜ!」

「疑いの余地なし!」

「だが」

「だかしかし」

 情報が足りていないんですね。危険度を判定しようにも推測部分が大きすぎる。

「行くべきか行かざるべきか……」

 河豚は食いたし命は惜ししな男の子たち。毒の致死量と食欲を秤にかけ、ああでもないこうでもないと真剣十代喋り場しちゃってます。

 謎が謎を呼ぶオリエンテーション。疾風のように現れて疾風のように去ってった、美少女センセーショナルは罪作り。もはや壇上に耳を傾ける生徒は一人もおらず、邪推の連鎖が止まらない。無秩序な私語が講堂を埋め尽くす、ハイスクールはカオステリア。ボーイズアンドガールズ ジャストワナハヴファンです。

 なんとかアピールを続けようとしていた壇上の「部長」候補さんも、遂には天を仰ぐ。

 まさか登校初日から「あーもうメチャクチャだよ!」な場面に直面するとは!

 恐ろしいところです高校って!

『ほら御覧なさい!』

 そんなカオスを切り裂く声、女の子の声。

「……!!」

 火傷しそうな攻撃性に、全校レベルの学級崩壊も口を噤む。

『この体たらくこそ、暫定生徒会の能力です!』

 壇上には一人の女子生徒、狼狽える部長候補からマイクを奪って糾弾を叫ぶ、予定外の登壇者。

『不適格です! 誰が見ても不適格!』

 ショートボブにフレームレスの彼女は知性派の風貌をしてて。淑やかに本でも読んでいたのなら、フェティシズムを刺激される男子も多かろう、そんな印象を受けるんですが……

『この程度で執行部を名乗ろうなどと、恥を知りなさい!』

 実際の彼女は超ヒステリック。

 いくら女子力の素質が高くても、あんな態度じゃ好かれません、同性にも異性にも。モンペやモンスタークレーマーの態度で心地よくなる人などいるわけない、眉を顰められこそすれ。霞一中 恋愛ラボの女子力検定なら、ファーストステップで落第ですよ。

『部活勧誘より先に片付けなくてはならないこと。充分ご理解頂けましたね?』

 眼鏡の奥に神経質な双瞳、それ見たことかと叫ぶ。延々と不調を託っていたマイクですら、襟を正す迫力で。

『主権者の信を得ずして、正当性は存在しない!』

 ん? もしかしてこの子は生徒会長になりたいんでしょうか?

『生徒会選挙は然るべき時期に執り行われると決まっている。勝手な登壇は控えなさい!』

 見るに見かねた一人の先生が暫定生徒会に代わって答えたものの、

『横暴です! そもそも学校側の不適切な処置が発端ではないですか! この事態は!』

 収まらない。先生に対しても烈火の勢い、乱入女子。

「俺ら、まだ入学したばっかりだぜ? 選挙どころじゃないよ」

「まだ知り合いもいないのに、何を根拠に選ぶってんだ?」

 不満気な男子がヤジを飛ばすと、

『政策に決まっています。古今東西、投票の判断材料として政策を凌ぐものなどありません』

 そんなことも知らないの? とばかりに乱入眼鏡ちゃん、

『最大多数の最大幸福! それを持つ人こそリーダーに相応しい!』

(あぁー……これ意識高い系の悪い例ですね……)

 他人を説得するのに「アナタは無知ね」という不遜さが感じ取れてしまう人。傲慢なエリート意識を振りかざされたら誰が快く耳を傾けるでしょうか?

「何言ってんのあの女?」

 ……ってなっちゃいます。政策の優劣に関わらず『私は知的で正しい、お前らはバカだ』と本音が滲んでいれば、不特定多数の共感なんて得られません。とんだ思い上がりです。

「ラノベの読みすぎ!」

 となれば不特定多数側とて黙っておれません。

「アニメの基準で世の中を語るな!」

「たかが高校の生徒会に、大それた自治権限なんてネーヨ!」

「誰でもいいんだよ生徒会長なんて! お飾りで結構!」

「内申に箔つけたいだけだろう? 推薦狙い!」

 反発を食らうだけですよ常識的に考えて。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 安定のフルスロットルぶりですね( ˇωˇ )
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