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延長戦 越後の龍(ドラゴン)を狩るモノたち - The Extention of Rage against the low birthrate problem Universally.

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

 荒れ野で唸りを上げる蹄鉄の音、戦馬の嘶き。

 人類史上、古代から中世にかけて無敵を誇った機動部隊――騎馬兵団。

 本邦に於ける騎馬の集団運用を顧みれば、終ぞ他国ほどは発達せず。いくつかの例外を除いて、他兵科との混成部隊が常態だったらしいのですが……

「ひぃっ!」

 バキャーン! バキャーン!

 断続的に放たれる火縄銃!

 突然の死を連れてくる悪魔の号砲に肝が縮み上がります! 自分が標的にされてないとしても!

 これが組織化された織田鉄砲隊三段撃ちともなれば、さぞや恐ろしい爆音だったんでしょう……

 この馬防陣地では弾込めの終わった人からお先にどうぞ方式みたいですが、それでも怖いですよ、こんな近くで発砲音とか経験ないですもん、女子高生ですもん。

 ですがですが、

 馬防柵の裏から見れば――

 怒涛のごとく迫り来る都合半トンの高速移動体、それが群れ為して現れた日には!

 仮普請の柵など、暴風に晒された障子程度にしか思えませんって!

 全く以て守られてる気がしません! 怖い! 怖すぎワロタ! 変な笑いしか出てこない!

 防御陣地としては一応機能しているんですよ、ここ。丸太で柵が組んであるし。

 だけどこんな恐ろしい絵面を前にしては、震える手では弾込めもできません!

 「ボーっとしてんじゃねぇ!」的に火縄銃を渡されてしまいましたが、私無理です! 免許も持ってないのに銃は扱えません!

 ヒヒィィィィィン! ガッシャァァーン!

 甲高い嘶きをあげながら猛然と突進してくる戦馬!

 何頭も何頭も諦めることなく、力任せの電撃突破を試みる!

 軍馬として選りすぐられた馬は、ちょっとやそっとの障害じゃ怯まない。むしろ己から牙を剥き出していく悍性の持ち主ばかり。そのくらいの気性でなければ特攻兵器は務まりません。

 そんなのが! 捕食獣の闘争心を持つケモノが束になって来られたら!

 ――――【 蹂 躙 】の恐怖を抱かざるを得ない!

 手は震え、腰は抜け、言葉を失う。

 そりゃ三河の殿様だって脱糞しますよ、こんなのを間近で見せつけられたら!

 なにせ相手は日本史に燦然と輝く最強騎兵隊ですから! 本物の赤い悪魔ですから!

「ひぃっ!」

 原始的な物理法則条件に従うのなら、【体積】は強大な武器です。デカい図体そのものが凶器。

 近代兵器が現れてなお、大艦巨砲主義が潰えなかったのは本能です。

 『デカい奴には近づくな』という原初以来の鉄則がDNAに染みついているからです。

 百獣の王ですら自分より大きな獲物には安易に近づきません。徒党を組むなりしないと。

 逆に草食獣は身体を大きくすることで天敵へ対抗してきた者も珍しくない。

「反則! 反則です!」

 防御目的で大きくした体を攻撃に使われたら堪ったもんじゃありません!

 度重なる突進で柵は半壊、抜け落ちる寸前の乳歯みたいな有様ですよ!

 バホッ!

 杭が地面から抜け落ちる音を合図に、こちらの陣地へ雪崩込んでくる武田兵たち!

 橋頭堡を確保せんと、僅かに空いた突破点から赤いトコロテンが押し出されてくる!

「ひぇぇぇぇ!」

 馬を降りた騎兵と鉄砲隊がゼロ距離で! 剣戟と射撃の非対称戦してますけど!

 無茶苦茶ですよ! こんな泥仕合だったんですか、戦国の戦いって?

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」

 赤備えの侵攻軍に対して、ノーマル具足の防御勢も必死に応戦!

 安易な陣地突破など許すものか、と敵味方双方入り乱れての大混戦です!

 やばいやばい、こんなところにいたら生命がいくらあっても足りない!

 逃げねば! 女子高生ならバックレ一択です! インスタ用の写真なんて撮ってる場合じゃない!

「道を――開けなさい!」

 そこへ割り込む女の子!

「雑兵どもー!」

 混乱に拍車を掛けるプレーヤーは――私のよく知る女の子。

 金銀綺羅びやかな和式甲冑がこんだけ似合う女子高生はいませんよ、どこを探したって。

 日輪輝く前立ては鳥の羽?

 なんだか分かりませんがブラック&ゴールドの配色ならお手の物。しっくり来ないはずがない。

 JPSカラーのF1マシンを走らせたらグランプリの鷹子です。

「死にたくなければ――道を開けなさい!」

 倒れかけの柵へとよじ登り、敵も味方もなくアナウンス。自分のために道を開けろと。

「ハァァ?」

 って顔してますよ敵味方とも。

 そりゃそうです、そんなの無理です悠弐子さん。ここは戦場ですから。生存と手柄のリスクを天秤に掛け、ギリギリを鬩ぎ合いながら藻掻く修羅場ですよ?

 そこで「私のためだけに道を開けろ」とか傲慢にもほどがあります。

 モーゼだってヤハウェに却下されるシチュエーションですよ?

 誰も聞いてくれません、そんな世迷い言は。

「寝言は寝て言えー!」

 となればこうですよ。

 双方から要らぬ反感を買って、長槍を突きつけられます。当然の報いです。

 背中に旗指し物もない不審武者ですしね。

「はっ!」

 だけど悠弐子さん、すんでのところでバンブーダンス!

 突き出された一本の柄をガツンと踏みつけて、刃先を丸太へメリ込ませると……

「は????」

 疾走る!

 細い長槍の上をショートカットコースにして走る!

 後に講談で語られるなら「牛若」とでも異名を与えられそうな、アクロバティック足捌き!

「突破完了!」

 立ち尽くす兵士を尻目に防衛ラインを置き去りにしていく!

「待って! 待って下さい悠弐子さん!」

 こんなとこに独り取り残されては叶いません! 往くなら一緒に!

「桜里子あそこよ!」

 悠弐子さんが指したのは数十メートル先の拠点。竹紋が染め抜かれた幕と勇壮な旗が靡く、いかにも高級将校が陣取ってそうな前線司令部っぽいところを。

「大将首は目の前よ!」

「首を獲りに?」

「そうよ!」

「獲ると何か良いことでもあるんですか?」

「前近代の戦なら大将首を獲れば勝ち、実に分かりやすい勝利条件じゃない」

 そんなゲーム感覚で首級の話をされても!

 人間、胴体から首が離れれば元には戻りません! マジで取り返しのつかない大惨事です!

 勝ち負け以前に今度こそ女子高生生命が逝っちゃいます!

「……そゆことで!」

 ゼアッ! って小粋な敬礼を残し、悠弐子さん再び猛ダッシュ! 戦場を駆ける!

「大将首を前にして刀を置く武士などおらぬ!」

 問答無用とでも言わんばかりに。

「や、ヤンウェンリーさんは!」

 置きました!

 獲ろうと思えば獲れた大将首を前に、刀を置きました!

 って反論も届かない。

「え????」

 なにせ悠弐子さん、疾風怒涛の勢いで目標の陣幕へ向かってます!

 ベイオウルフを駆るウォルフ・デア・シュトルム並みの進撃で突貫移動!

「速っ!」

 その神速に誰もが置いてけぼり。

「待って! 待って下さぁーい!」

 って懇願したところで待ってなどくれないのは分かりきってる。彩波悠弐子とはそういう人、そういう女子高生ですから! 猪突猛進モードに入ったら、誰も悠弐子さんには追いつけない!

 私みたいな凡人など何をか言わんや!

(こうなったら!)

 あの悠弐子さんを止められるとしたら!

「うはははははははは!」

 姿が見えないと思ったら、明後日の方向、遥か彼方。

「ああもぉー!」

 戦場のど真ん中を暴走してます! 目立って目立って仕方ない白馬を乗り回す暴走女子高生!

 足軽どもを踏み潰す勢いで金髪ロデオショーじゃないですか!

「こういう時に! 全く役に立たない!」

 毒を以って毒を制す作戦いきなり頓挫です!

 悠弐子さんという突出した個性を相殺するのは、同等の個性の持ち主にしかできないことなのに!

 あの金髪ちゃん!

「なに遊んでるんですか!」

 群がる雑兵を蹴散らして縦横無尽!

「死して屍 拾う者なーし! 死して屍拾う者なぁーし!」

 イキりすぎですって、金色ドラゴンライダー!

 悠弐子さんの深い黒とは違う、白ベースの和式甲冑。遠目で見ると西洋式のメタルグレーに見えないこともないですけど、これがまぁー似合うこと似合うこと。ドメスティックな戦国絵巻に紛れ込んだ鬼の少女、とでも言わんばかりの浮き方です。

「B子ちゃん! 遊んでる場合じゃないです!」

 叫んではみたものの……

 悲鳴と雄叫びと嘶きと発砲音が交錯する戦場では、私の声など容易に掻き消される。

(――だとしたら!)

 どうする? 即断即決の求められる今、何をするべきか?

「悠弐子さーん!」

(自分で何とかするしかない!)

 戦場は究極の自己責任フィールド。自分の命は自分で守らないと、守らなきゃいけない命は己で保護しないと!

「私が、護らないと!」

 悠弐子さんは戦国時代から数えても上位何番目かに収まりそうな美少女です!

 保護しないとダメです! そんな貴重な子は!

 失ってしまったら人類的な美的損失じゃないですか!

 回避! 回避するのが責務! 同じ時代に生を受けた者の使命じゃないですか!

(私だけです! それが出来るのは!)

 無鉄砲極まる、明日なき暴走を止められるのは!

「ひょわー!」

 矢継ぎ早に繰り出される長槍をすんでのところで回避して、やっとの思いで陣へと到着!

 既に悠弐子さんは潜り込んだ後でしょうか?

(ホントにもうなんで私がこんな目に?)

 身の程知らずな使命感を激しく後悔しながら、幕の内側を覗き込めば、

「お命、頂戴仕る!」

 キン!

 耳を劈く殺意の金属音!

 ああもう何やってんだこの子は?

 こともあろうに悠弐子さん、振りかぶった刀を大将へ浴びせかけてます!

 キィン! キィィン! カキィィィーン!

 カネカネが火花散らす、戦士のライトニングボルト!

 あまりの迫力に、参謀従者の皆さんも呆気に取られてます。

「国賊成敗!」

 敵は絶対悪である。迷いのない太刀筋が何度も何度も打ち据えられる!

(その人が【悪】の手先なんですか? 亡国結社【アヌスミラビリス】の尖兵なんですか?)

 カキィィァィン!

 大将が渾身の力で跳ね除けると、

「いざ御覚悟――――」

 御身の臓腑、この刃にて刺し貫かん。刀を構え直す悠弐子さんは人斬りアサシン、如何なる禁忌タブーにも縛られぬ戦場適応者の目です! ヤバいヤバい、これはヤバイ!

「冥府へ参れ謙信入道!」

「謙信!?」

 謙信って…………その人が上杉謙信なんですか?

 越後の龍と誉れ高き不敗の軍神がその人?

「お命頂戴ぃぃ!」

 待って下さい悠弐子さん、上杉謙信の死因は戦場での討ち死にではなく病死のはず!

 歴史を変えちゃう気ですか?

「悠弐子さぁぁぁぁぁん!」

 上杉謙信公が本当に悪の手先だと認定していいんですか? そんな根拠あるんですか?

 あのサングラスが! 『ゆにばぁさりぃグラス』なら真実が視えたのに!

 嘆こうにも時既に遅し。こんな戦場の只中では、たらればの言い訳など一刀で露と消える。

「もうやだ、こんなの!」

 返して! 返して下さい悠弐子さん、私のへいおんを!

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