第37話 ただいま
「うふふ、つっかまーえた。」
そんなフィーナの言葉が発せられると同時に
東子、藍、雪菜、氷麗は優衣をあっけなく床に乱暴に押さえ込んだ。
「っ…!?ちょっとあんたら、何してんの?」
「まだ気づかないのかしら?その4人はすでにあなたの知っている4人ではないわよ。」
「まさか…」
優衣は4人の目を見る。案の定各々の目は赤く染まっていて、まるで機械のように感情が感じられない。今はただのフィーナの操り人形と化していた。
「あなた、4人に何をしたの!!」
「別に大したことはしてないわぁ〜。ちょこっと心に入り込んであげただけですよ?あなたの名前を出したらころっと心にすきがうまれましたわ〜、余程あなたが好きなのね皆さん。はぁ〜そういうの本当にい、い、わ、ねぇ〜。」
「ちっ…相変わらずやることがクズいわねあんた。」
「念のために言っておくけど私が死なない限り4人は元に戻らないわぁ。もし取り戻したいなら私を殺してみなさぁい、ふふふ。」
「言われなくても殺ってやるよ。」
「ヘぇ〜どうやって殺すのかしらぁ?その状況で。」
「そんなもん決まってんだろ?」
4人に全身を抑えられて全く動けなさそうな優衣だったが、力を振り絞りあっけなく4人の拘束から抜け出す。
「結構怪力なのね、あなた。」
「だてにヴァンパイアやってないからね。」
優衣は胸の中から込み上げる怒りに任せてヴァンパイアサポーターから即席で作った銃をフィーナの顔面目掛けて撃った。フィーナは顔色ひとつ変えずに弾丸を避ける。
「あらあら、やっぱりいいわねその表情。怒りに全てを任せて暴れ食いなさい!」
高らかに笑いながらフィーナは軽く上に飛び、優衣を上から見下ろす形になる。そして、指の間に真っ黒なビー玉サイズの玉を生成して優衣に目掛けて投げた。
もちろんそれが何なのかは分からないが、体が危険だと叫んでいる。優衣はすぐさま後ろに飛んで、フィーナの飛ばした黒い玉を避けた。
ズガガーーン。
さっきまで優衣のいた場所がどす黒く光って轟音を突き立てる。後に残されたのは深さ50センチメートル程の穴であった。
ちっ、避けてなければ死んでたわ。
「あら〜おしかったわぁ〜。もう少しでバラバラのあなたの死体が見れたのにねぇ。」
「随分余裕ぶっこいてるようだけど、あんた死ぬよ?」
「へ?」
と、フィーナが首を傾げると同時に彼女の足元が先程と同様、轟音をあげて爆発した。
優衣はフィーナの飛ばした黒い玉と同じものを即座に生成して避けるのと同時にフィーナの足元へ投げていたのだ。通常ではありえない反応速度であったが、それを優衣は可能にしていた。
音の反響が静まり、あたりが再び静寂に戻る。そして、またしても癪に触るフィーナの高らかな笑い声が聞こえてきた。
やはり倒せないか…まぁそんな簡単に死んでくれるとは思ってないけど、せめて傷くらいはつけさせてやりたいところなんだけどなぁー。
だが、現状は良くも悪くも優衣の考えを裏切った。
えっ……
私を上から見下ろすような形で笑うフィーナ、彼女はさっきと変わらず同じ位置から私を地を這う虫のような目で見ている。
そして、優衣にはフィーナが先程よりも小さくなったように見えた。それは、単純にフィーナが縮んだというわけではなくて、そう何かが足りないのだ。
下半身から伸びているはずの二本の足、それが見当たらない。
優衣はそれに気が付いた時、言葉を失った。
フィーナは両足がなくなっていたのだ。
足の付け根から下がない、そして断面には今にも剥がれ落ちそうな彼女の皮膚と肉がボロ布のようにぷらんぷらんと揺れていて、それに滴るように流れ出る血、血、血。
ぼたぼたとまるで泥が落ちたような音を立てながら床に血溜まりを形成していく。
誰がどう見ても致命傷であった、というよりすでに死んでいてもおかしくないレベルである。だが、フィーナは何事もなかったかのように優衣に笑い声をかける。
なぜ…なんで、そんなにも笑っていられるのか、優衣には理解できなかった。完全に正気を失ってただ呆然と立ち尽くす優衣に、足のないフィーナが笑いながら生成した短剣を投げる。
案の定、優衣が避けられるはずもなく短剣は優衣腹に深々と刺さり、貫通した。
優衣はそのまま剣の勢い従って仰向けに倒れていく。
「あっはっはっはっ、これであんたも私も終わりだねぇ。」
優衣の体がそのまま地面につこうとしたところで、優衣は何者かの手によって支えられた。
それは、長い間ずっと待っていた懐かしささえ感じる温もりと匂い。優衣の体を抱きかかえているのは藍である。
「あ…お、い…」
「優衣…ごめんね…」
「よかった…元にもどれたんだ…」
「ええ、そうよ。」
「あぁ、本当に藍なのね。私、何日も待ったんだから…」
「本当にごめんね優衣。もう大丈夫、どこにもいかないから…」
優衣はそのまま眠りにつくように意識を手放した。
暖かくていい匂いで、とても心地が良い。まるで自分が天国にいるかのような気分になっていた。




