第20話 姉妹
新キャラですよぉぉ
夏休みも後半に入っていた。
今日は珍しく朝から雨が降っていて、私の軋んだ心を洗い流すように打ち付ける。
傘も持たずずぶ濡れ状態の私。
私の親友の四人は、未だ帰ってこない。
初めはみんなはいつか帰ってくるんだって思ってた。だからいつ帰って来てもいいようにお風呂を沸かし、ご飯を作り、布団も敷いて待っていた。
でも、待っても待っても帰ってこないまま一週間が過ぎた。いや、私にはもっと長く感じられた。まるでとてつもなく長い時間を過ごしたかのようだった。
そして私は諦めきれず、こうして部屋着のまま外に探しに出る。
外には四人どころか人気すらない。
聞こえるのは雨の音だけ。
あぁ、私。もう待てないよ…
みんな、どこへ行ったの?
暗転。ついに私は濡れた冷たいアスファルトの上に倒れる。
ああ、そういえばいつからご飯食べてないっけなぁー。
3日前?5日前?まぁどうでもいいや。
もう私には立つ気力すらない。
立ち上がる気力はすでに失った。
ごめん、みんな…私、もうダメかも。
「………ね………ひと………い?」
ん、何か聞こえる…
「や……り………よね」
人の声?まさか…
「だ……ょ……で…か?」
いや、違う、これは違う人だ。
「やば………ど…する?とり………きゅ………し…よ…?」
悲しいな…最後に会えるかと思ったのに。神様のいじわる…
そして私は目を閉じ、体が軽くなるのを感じた。
「まて、なんかこの子…訳ありみたい。ただ具合が悪くて倒れたってわけじゃなさそうだよ。」
「じゃあどうするの?お姉ちゃん。」
「とりあえずうちに運ぼう。」
「この子…泣いてる?」
私は夢を見た。だけどこれが夢だと分かる夢だった。
四人とともに一緒にご飯を食べてる夢を。
おかしいよね、あんなに待っても帰ってこなかったのにいつも通りこうやってみんなで笑いあって。
あ、藍。ご飯なら私がついでくるよ。
え?違うって?じゃあ何が欲しいの?
藍がそのまま近づいてくる。
なんとなく何をされるか分かるけど、私は逃げない。
藍の顔が目の前に迫る。
あ、これはあれですか。
藍の唇がわたしの…
ビチャ!
ん?ビチャ?
……冷たっ!
私は乱暴に夢から引き戻され、ガバッと上体を起こす。
そして顔に乗っていたヌメッとしたものが反動で私の足元まで飛んだ。
それは濡れたタオルだった。
「ダメだよぉお姉ちゃん。顔に落としちゃ。この子起きちゃったじゃない。」
「ご、ごめんよ。つい手がすべっちゃって。あぁごめんね、起こしちゃって。」
「いえ、別に大丈夫ですけど…ちなみに今の私の状況はどんな感じですか?」
「あぁえっと。君…」
「あ、私は深見優衣です。」
「そう、深見さんでいいかな?あなた、道端で寝巻き姿で倒れていたのよ。救急車呼んでもよかったのだけれど、なんか訳あり?みたいだったから、とりあえず私達の家に運んで看病してたの。
…その、何かご家庭であったの?なんなら相談に乗るわよ。」
うん、なんか色々勘違いされてそうだけど…まぁあの姿で外で倒れていたら仕方がないか。
「いや、別にそういうわけじゃないんです。ただ…ちょっと疲れちゃって……
本当に大丈夫です、看病してくださってありがとうございました。」
「いえいえ、そんな大したことしてないわ。それより、お腹すいてない?
その…随分と痩せてるようだけど。しばらく食べてないんじゃないの?」
そういえばそうだった、もう3日もろくな食事をしていない。
気づけばさっきからお腹がぐーぐーなっていた。恥ずかしいな…
「何か作ってくるわ、ちょっと深見さんを見ててね、蜜柑。」
「うん、分かったよお姉ちゃん。」
「いやいや、そんな、ただでさえお世話になってるのにその上ご飯なんて…」
「ダメよ。せっかく助けたのにまた空腹とかで倒れられても嫌だし、それにちょっとお話したい…とも思ってるから。
やっぱりちょっと心配なのよ。」
「……」
何もいえない、確かにお腹は空いてるし、今の自分はとても不安定だ、実はとっても相談したいことがたくさんある。だけど、それはこの人たちとは全く関係のないことで、特にヴァンパイアなんてどう説明すれば良いのだろう。
「おっけ、きまりね。じゃあ私下で料理してくるから何かあったら呼んでね。」
「あ、はい。どうもすみません。」
「あ、それと私、名前言ってなかったね。私は林檎、神崎林檎よ。」
「で、私が妹の蜜柑です。よろしくお願いします。」
「えっと…二人は双子なのですか?」
さっきからずっと気になっていたが、この二人…林檎さんと蜜柑さんはとてもよく似ている。髪につけたリンゴとミカンの髪飾りがないと見分けがつかないほどだ。いや、それは流石に大げさだったか…でも本当によく似ている。
「えぇそうよ。二人とも冬の生まれなの。だからどっちの名前も冬が旬の果物からきてるのよ。」
「でも、お姉ちゃんの方がしっかりして、とっても優しいんだよ。」
「ちょっと蜜柑!そんなの今言わなくてもいいでしょ?恥ずかしいったらー」
「えへへ、だってお姉ちゃん本当に優しいんだもん。」
「もう!たくしょうがないんだからー。」
私はその二人を見てとても暖かい気分になった。
胸に深く刻まれた傷跡がすこし塞がった気がした。
林檎がお姉ちゃんなのは蜜柑より林檎の方が大きいからです。テキトーですね。




