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モノクロの虹  作者: にゃー
8/10

誰も傷つかない方法


ひなたが学校に来なくなってから3日が経った。

あれからひなたとは会っていない。

1度山下先生に様子を見てくるように言われたけど断った。

ぼくにはひなたと会う資格なんてないから。

最後に見たひなたの顔が脳裏に浮かぶ。


これでよかったんだ。

どれだけひなたを傷つけたとしても……。

ひなたになにかあったらぼくは耐えられない。


当然だけど天本さんとはあれ以来話していない。

ぼくから話しかけるなんてもってのほかだし、あっちから話しかけてくることもなかった。

遠目から見た限りいつもの天本さんに戻ってきているような気がする。

尚更ぼくが話しかけにいくべきではない。

ひなた以外でぼくに唯一話しかけてくれる人だったけど……もう2度と話しかけてはこないんじゃないだろう。


これでひなたとも話さなくなったらぼくはまた1人だ。

つらい……うん、つらいや。

でもそれ以上にこれ以上人を不幸にするのは耐えられない。

だからあの日、ぼくはひなたにお礼と一緒にさよならを言った。

ぼくを心配して屋上まで来てくれたひなたに、ぼくは何も悪くないと言ってくれたひなたに別れを告げた。

ひなたの下品な笑い声もぼくにしか見せない笑顔も手を繋いだときの温もりも全部まだ耳に、目に、手に残っている。

ぼくはひなたが好きだった。

いや、今でも好きだ。

だから……だから、これでよかったんだよね……。


自宅で夕飯のチャーハンを作りながら考えを巡らせていた。

あの日からひなたのことが頭から離れない。

結局ぼくはどうしたいんだろう。

もちろんひなたといたい。

でも不幸にしたくない。

距離を置くのがつらい。

でも不幸にしたくない。

ひなたとまた一緒にごはんを食べたい。

でも不幸にしたくない。


結局、答えなんてでない。

ずっと同じことを繰り返し考えて終わる。


「………はぁ。」


夕飯の準備が終わりテーブルについた。

いつもひなたがいた向かい側には今は誰もいない。


「あはは……前まではこれが普通だったはずなのにな……。」


そんなことを考えていると携帯が鳴り出した。画面にはひなたの名前が表示されている。


「ひなた…?」


でようが迷ったが4コールめに通話ボタンを押した。


「……も……もしもし……?」








河原についたとき、パトカーのランプが見えた。

なにがあったんだ…。

不安がよぎる。


電話の相手はひなたではなく佐田だった。

詳しいことは何にも聞かされず、ただひなたが大変な状態であることとここの河原に今すぐ来いということだった。

断るつもりだったけどあまりに鬼気迫る感じがあり断れなかった。


ひなたになにかあったのかな……?

河原についてパトカーを見てただ事ではないことをようやく悟った。


「……ひなた……」


警官が慌ただしそうに無線で連絡を取り合っている。

辺りを見回すと佐田が腕を組んで立っていた。

その横には折り畳み式の椅子に座り、布をかぶり震えてうずくまっているひなたがいた。


「ひなた!!!」


がたがた震えていたひなたの体がびくっとなり震えるのを止め、ぼくのほうにゆっくり顔をあげる。その顔は泥がついていて少し汚れている。

佐田は何も言わずぼくのほうを見た。


「…か……かえ……で………かえで……かえで!!!かえで!!!怖かった!!怖かったよ!!!」


泣き叫びながらぼくに抱きついてきた。


「ひなた………。」


「うああああああ!!かえで!!かえで!!」


「……だいじょうぶ!もうだいじょうぶだよ!」


なにも事態を把握できていないけどひなたを強く抱きしめてあげた。

相当怖い思いをしたんだということはわかったから。


「……こいつこんなんだし警察は事情聴取は明日以降でいいって言ってくれてる。

だからとりあえずこいつを家まで送るぞ。

話はそれからでいいか?」


「………うん……」


佐田にそう言われてひなたをおぶってひなたの家までいった。


小さい女の子だとは思ってたけどひなたは思ってたよりもずっと軽い。

落ち着いたのかおぶっている間にひなたは寝てしまったから家についてベッドに寝かせてやった。


その間、佐田は黙って終わるまでリビングで待っていた。


「……あいつは?」


「うん……ぐっすり寝てるみたい。」


「そうか。悪かったな、あいつ、狂ったみたいにてめぇの名前呼んでたからよ。

会わないようにしてたんだろ?」


「ううん……ありがとう、佐田。」


「にしし、てめぇにお礼言われる日がくるとは……笑えるな。」


「……なにがあったか…話してもらってもいい?」


「うちもよくは知らねぇけど、レイプ魔に襲われてたみたいだよ。」


「え………?」


そんな……だってレイプ魔は捕まったんじゃないのか。


「別のやつだろ。男なんて理性のネジが外れちまったらみんな同じようなもんだろ?」


驚いてるぼくがなにを考えてるのかわかったみたいで佐田が当たり前のように答える。


「うちは今日てめぇのかわりに黒崎の家にきたんだけどよ。」


知らなかった。

ぼくが山下先生の頼みを断り、佐田がひなたの家に来ていたらしい。

なんで佐田なのだろう。


「そんときに携帯忘れたみたいでとりに戻るときにあの河原であいつの叫び声が聞こえたわけよ。

見に行ったら襲われてたから男を蹴り飛ばしてやったよ。」


「……あはは、まさか佐田がひなたを助けるなんて意外だな。」


「お前、ばかか?

襲われてるやつを見かけたら知らないやつでも助けるだろ、普通。」


「…………」


「んだよ?」


「きみ、ぼくのこと散々殴りかかってきたじゃないか。」


「こまけぇやつだな。もてねぇぞ。

………たく、悪かったよ。うちにもいろいろあるんだ。」


意外だ。

佐田とちゃんと話したのは初めてだけどもっと嫌なやつだと思ってた。


「ひなたのこと……ありがとう。」


「何回もうっせーな。もういいよ。」


「………ひなたは無事だったのかな…。」


「……知らね。うちが男を蹴り飛ばしたときは黒崎は男に上から押さえられててTシャツもブラもはだけてた。………下の方は見た感じ何もなかったようには見えたけどな。

気になるんなら本人に聞いてみろよ。」


「……聞けるわけないだろ。」


「……そうだな、悪い。

………話は変わるけどこれからてめぇはどうすんだよ?」


「え?どうするって?」


佐田がなにを聞きたいのかはわかってる。


「……一緒にいてやれよ。あいつにはてめぇが必要みたいだぜ?

てめぇだってほんとはそうだろ?」


わかってるけどどうすればいいのかはわからない。


「一緒にいたいよ……でもだめなんだ…。」


「あ?」


「……ぼくが一緒にいたらひなたを傷つけちゃうから……。」


「…うじうじうるせーなぁ。てめぇのそういうところが嫌いなんだよ。」


「ぼくはひなたのことをおもって言ってるんだよ……!」


「だからそういうところがうぜえつってんだよ。あいつのため?ちげーだろ。

てめぇが傷つくのが怖いだけだろ?

あー、うぜえ!男のくせにほんっとにうぜえ。」


ぼくはそれに反論できなかった。

自分が傷つくのが怖いだけ。

ひなたを傷つけて自分が傷つくのが怖いだけ。ほんとにその通りだ。


「……あいつはなにがあってもてめぇといたいって言ってたよ。

てめぇだって一緒にいたいって言ってんじゃねーか。後はてめぇの覚悟の問題だろ、白崎。」


「………ぼくは……」


「……ちっ、まぁてめぇらの問題だよ。

てめぇらで決めればいい。

うちも明日警察に呼ばれるんだろうしもう帰るわ。ったく、めんどくせぇ。」


舌打ちをして重そうな体でけだるそうに立ち上がる。


「………うん、いろいろごめん、佐田。」


「男がすぐ謝んなよ。あー、こんなやつのなにがいいんだか。見てていらいらするわ。」


佐田を見送り、玄関の鍵をしめた。

1人になってリビングが静まりかえる。

ときおり、かわいらしいひなたのいびきが聞こえてくる。


ぼくもぼくが嫌いだよ。

だからなにも言い返せなかった。


ひなたを傷つけないようにと自分勝手にひなたから距離を置いた。

でもわかるだろ?

誰だって好きな人を傷つけたくない。

今回ひなたが襲われたのはたまたまかもしれない。そうそうないことだ。

でもぼくといたらまた同じことが起きるかもしれない。

今までだってひなたじゃなければ死んでてもおかしくないことがたくさん起きている。

それでも一緒にいたいって願うことも自分勝手なんじゃないか。

ひなたが一緒にいてくれるって言ってくれてもそれに甘えていいのかな。

ぼくは………








ひなたが目を覚ましたのは午前2時頃。

ぼくはまだリビングで考え事をしていた。

答えをだしてひなたにどう伝えようか考えていた。






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