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モノクロの虹  作者: にゃー
7/10

星がきれいな夜に


「てめぇ、暗くて気持ち悪りぃんだよ!!

学校にくんじゃねぇよ!!」


その女は私が昼飯に買ったやきそばパンを思いっきり踏み潰してきゃんきゃん吠えていた。


「……満足か?気が済んだならどっか消えてくれ。私は1人でいたいんだが。」


「……その態度がいちいちムカつくんだよ!」


「あはは、このチビ女!あやかに歯向かうとかまぢうける!!勝てるわけないじゃん!」


その女の周りには3人の女がいた。

どうやらこの威勢のいい女を尊敬とまではいかないだろうが上に見ているようだ。


「おら!悔しかったらかかって来いよ!

ぶっ殺してやるからよ!」


「………きみ、無理してないか?」


「あ?」


私にはこの女が周りに強く見せるために自分を偽っているように見えた。


そのあとはあの女が私を殴ってきたから条件反射で私も殴ってしまった。

殴られてもまったく動じない私を見て逃げるように4人は屋上を後にした。


その後だったかな。

きみと初めて話したのは。


「………えっと………こんにちは。」







「………………夢か……。」


あのときの夢を見るとはね……。

夢なんか見ても辛いだけなのに。

時計に目をやるともう夕方の5時をまわっていた。


あれから3日経った。

あの日、私は教室に戻らずそのまま家に帰った。泣きながら。

帰りに鳥の糞が靴の上に落ちてきた。


「………くく……」


なんだ、やっぱりそうじゃないか。

きみに絶縁されようが関係ないじゃないか。

思い返して笑いがこぼれる。


その夜、山下先生から電話があって具合が悪かったから帰ったと、鞄はそのまま置いといてと伝えた。

先生は特に突っ込んでくることはなかった。


それから私は3日間学校をさぼっている。

行く気にもなれない。



その間に、DVDをいくつか見た。

かえでと初めて一緒に見た映画も。

ありきたりな映画で主役の男は恋人を守るために死んだ。

最後は生き残った女が崖を見下ろして終わる。

この後、女はどうしたのだろう。

男のいない世界で生きていくことを選んだのだろうか。

それとも崖から飛び降りて自ら命を絶ったのだろうか。


私ならどうするだろうか。

わからないけど生きていく自信はない。

もしかえでに会っていなければ1人でいてもこんな気持ちになどならなかったのに。

きみは意地悪だな。


布団でごろごろしながらそんなことを考えているとインターホンがなる。


「……かえで……?」


言葉にしたところでそれはないと思った。

彼はああ見えてとてつもなく頑固者だからな。そうそう自分で決めたことを変えないだろう。

しかし私の家に訪ねてくるやつなんてほとんどいない。誰だ。


「………よぉ。」


「………きみが私になんのようだ?」


扉を開けると佐田が立っていた。

意外すぎる。まさかブルドックが訪ねてくるとは。


「別に好きこのんでてめぇに会いになんか来ねーよ。山下さんに様子を見て来いって言われたから来ただけだ。

ったく、白崎が来たがらねーせいでとばっちりだよ。」


「………真面目か、きみは。」


「てめぇはあの人の恐ろしさを知らねーんだよ。あの先生、うちの従姉妹なんだけどよ…相当やばいって、あの人。

頼みを断ったら何されるかわかんねーよ。」


山下先生と佐田が従姉妹とはな。

意外だがなんか納得だ。


「まぁ、来てもらって申し訳ないが私は元気だよ。仮病だ。」


「顔色わるいじゃん。」


「ああ、ろくに食事をとってないせいだろう。食欲がなくてね。」


「やっぱり具合悪いんじゃないのか?おかゆでも作ってやろうか?」


「………きみ、料理できるのか?」


「は?おかゆくらい誰でも作れるだろ。」


「………く…くくく……くひひひひひ!!」


「んだ、てめぇ!なにがおかしいんだよ!?」


全てだ。

きみ、面白すぎるだろ。


「…くく……いや…なんでもない。

じゃぁ、お言葉に甘えようかな。あがってくれ。」


「お、おう。………おじゃまします。」


先生から一人暮らしだと聞いているだろうに。ほんとに真面目な女だな。


「ママと業者さん以外でこの家に入るのはきみがはじめてだよ。」


台所で佐田がおかゆを作り始めた。

コンロの火をつける音が聞こえる。


「意外だな、白崎は来たことねーのか。

つかなんでてめぇはトイレにこもってんだよ。うんこか?」


「……私にもいろいろあるのだよ。

そういえばかえで来たことないな。

いつもかえでの家におじゃましてたからかな。」


「ふーん。」


「………かえではここに来るのを嫌がっていたか?」


「うちは山下さんにそう聞いたよ。

だからうちが来る羽目になったんじゃねーか。」


「そうか……。」


「なんだよ?喧嘩でもしてんのか?

目障りなくらいいつも一緒にいたじゃねーか。」


「……喧嘩もしてもらえなかったよ。」


「………よくわかんねぇよ。

ほら、できたぞ。そろそろでてこいよ。」


トイレからでると机の上にたまごがゆが2つ置いてあった。


「作ってやったんだからうちが食ったって文句ねーだろ?」


「……ないよ。ありがとうな、佐田。」


「にしし、ありがたく食えよ。」


佐田の笑ったところを私ははじめてみた。

いつもいらいらしていてきゃんきゃん吠えているイメージしかない。


「佐田……1人っていうのはさみしいもんだな。」


「はぁ?私がいるし2人じゃん。」


「……はぁ。きみと話してると疲れるな。」


「あ?!殺すぞ?!

てかてめぇあれだろ?1人がさみしいっていうか白崎といれないのがさみしいんだろ。」


「……………」


「んだよ?そうだろ?」


「……そうか……そうだな……かえでがいないのはさみしいな……。」


ひと月も経たない間柄なのに私にとってかえではそれだけの存在になっていた。


「……私はなにがあってもかえでといたいだけなんだよ……。」


「………あいつに直接言えよ。

うちに言われたって知らねーよ。

さてと、用も済んだしそろそろ帰るよ。」


「そうか、いろいろ悪かったな。」


おかゆを平らげて鞄を持ち玄関に向かおうとする。

と思ったらリビングの扉の前で立ち止まった。


「つかさ、さみしいなら声かけりゃいいじゃねーか。別に遠くにいるわけじゃねーんだから。ただ傷つくのが怖いだけだろ?」


「………くくく、きみはなんというか愉快なやつだな。」


意外と的確に痛いところをついてくる。


「あ?ばかにしてんのかよ?」


ばかだろ。

考えなしのばかだ。

でも佐田の言うとおりだな。

私は私が傷つくのが怖くてちゃんと話しもせずにかえでから距離を置いた。

ばかは私かもな。あとかえでも。


「なんなら明日引っ張って連れてきてやろうか?このままてめぇがひきこもってるとうちとしても迷惑なんだけど。」


「いや、いいよ。明日学校にいく。

ありがとうな、佐田。」


「…そうか、そうしてくれ。じゃあ帰るよ。」


さっぱりしたやつだな。

まぁ、私は天本ゆかりのようなやつよりこっちのほうが話しやすい。

私が変わっているんだろうが。


明日、学校にいこう。

学校にいってちゃんとかえでと話そう。

だって私がそう思ってるんだから。

かえでが私を拒もうが私がそうしたいんだから。


「あ……明日は土曜日だ……。」


学校に行っていないと曜日感覚がなくなるもんだな。

佐田は………まぁ、あいつはバカだからな。


「……今から会いにいこう……。」


正直、かえでの携帯の番号を知っているから話そうと思えば今すぐにでも話せる。

でもなんとなく会ってから話したかった。


かえでの家にいこう。

歩いて15分程度だし、7時くらいならそんな迷惑じゃないだろう。

もしかしたらかえでの料理にありつけるかもしれない。


適当に髪をとかして着替えて外にでた。

私はなんて単純な女なのだろう。

さっきまでの感情が嘘のように体が軽い。

きっと私が会いに行ってもかえでは私を拒むだろう。

それでもかえでに会えるというだけで心がおどる。

私はきみが好きなんだよ。

かけがえのないやつだ。

両親以外にいままでそういう人がいなかったからよくわからないけど、たぶんきみが好きだ。

だからちゃんと話そうよ、かえで。

なにも言わないでいなくなってしまうのは納得できないよ。



近道をしようと人気のない川に沿った道を小走り気味に急ぐ。

これがよくなかった。

私は私が思っている以上に運というものがないらしい。

最初はなにが起きたか全くわからなかった。

かえでの家に向かう人気のない道で男が視界に入った。

ちょっと怖かったけど何事もなく通りすぎて視界から消えてほっとした瞬間、後ろから口をふさがれ道の横にある雑草だらけの河原に連れ込まれる。

奥に入ったところで無理矢理男から離れようとする。

でも私は体が頑丈なだけで力は人並み以下なのだ。ましてや男に力で勝てるはずがない。


「んー……!!んー!!!」


「きひひひひ、おとなしくしてりゃぁ、すぐ終わるって。」


例のレイプ魔か?

いや…確か天本ゆかりの件で捕まったはずだ。じゃぁ、別の誰かか?


「やめてよ!!!やめて!!」


男に押し倒され両手を押さえられる形になり口は自由になったが身動きがとれない。


「いや!!いやだ!!!」


「きひひひ、いくらでも叫べよ。

人通りの少ない道を外れた河原だぜ?

誰も来ないっての。」


暗くて顔はよく見えないけどスーツを着ている。サラリーマンかな?

両手を片手で押さえられ、もう片方の手で着ていたTシャツを持ち上げられた。

主張の弱い胸を見て気持ち悪い笑い声をあげる。


「いやだ!!!いやだ!!!いやだ!!!

かえで!!!助けて!!!かえで!!!かえで!!!」


「きひひひ!男がいんのか!ますますそそられるねぇ!」


ブラジャーの上から胸を触られた。

そこで私は声も出せなくなってしまった。

こわい……ただただこわい。


「……い……や………」


「きひひひ!あきらめろよ。」


あきらめた。

男の言うように叫んだところで誰にも届かないだろう。

今度、天本ゆかりに謝ろう。

ひどいことを言った。

これほど怖いものだなんて知らなかったよ。


かえで、どうだ?

きみと仲良くなんかしなくても私には悪いことが起きるようだよ。

それが証明できただけでもよしとしようじゃないか。

早く終わることだけを考えよう。

やった後に殺す気だろうと私はそう簡単には死なないしね。

何も考えないで終わることだけを考えよう。


「もういいでしょ!?やめてよ!!!」


「きひひひひ!!これからだろが!!」


これはいつ終わるのだ?気持ち悪い。

男は胸を少し舐めたあとに下半身に手をのばそうとしてきた。

ああ……はじめてだったんだけどな……。


このことを知ったらきみは私を軽蔑するかな?心配してくれるかな?

ねえ、どうかな?

涙が止まらないよ。















助けてよ………かえで。










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