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モノクロの虹  作者: にゃー
5/10

苦手な転校生


「あー、転校生の天本ゆかりだ。」


「天本ゆかりです!よろしく!」


朝のホームルームで山下先生から見覚えのあるショートの金髪の女の子が紹介された。

1週間くらい前に道を聞いてきた女の子だ。


「もっと早くに登校してくる予定だったんだがインフルエンザにかかってな。

まぁ仲良くしてやれ。天本、お前の席はあそこな。」


「はーい!」


そう言ってひなたの隣の席に向かう。


「黒崎、ちゃんと仲良くしろよ?」


「…………。」


聞こえないふりをしてそっぽを向いている。


「くろさきぃー。」


「わかった!わかったからこっちくんな、先生!」


「よろしくね、黒崎さん!」


「……こちらこそよろしくどーぞ。」


そのときは天本さんはぼくに気づいていないようだった。



「もぉ、そんなんだから友達できないんだよ、ひなたは。」


授業の合間にひなたの席にいった。

ひなたと話すようになって1週間とちょっと経った。ぼくたちは教室でも普通に話す仲になっていた。

もうまわりも気にしている様子もない。

でもあの野球ボールの一件以来、白い死神としての噂は更に広がりを見せていた。

あと無傷だったひなたは実はぼくが作った生きている人形なんじゃないかとか、よくわからない噂も。


「きみ、だいぶ失礼じゃないか?

私はきみと違ってできないんじゃない。作らないんだ。」


「ちょっと!それこそぼくに失礼じゃない?!」


「くひひひ、きみは相変わらずかわいいやつだな、かえで。」


「……かえで?あれ?!もしかしてかえでくんじゃない?!うわ!すごい偶然!同じクラスなんだね!」


隣の席でクラスの人たちに囲まれていた天本さんがこちらに身体を乗り出す。

天本さんとは逆にまわりにいたクラスの人たちは静まり返る。

ひなたも驚いた顔を向ける。


「え?なに?どうしたの?」


なにも知らない天本さんは当たり前の疑問を投げかける。


「えっと…あはは、久しぶり…天本さん。」


チャイムが鳴りぼくは逃げるように自分の席にもどる。

あとはまわりにいた人たちが後で説明しておいてくれるだろう。




「なるほど、ただ道を案内しただけの仲か。

よくあんなにはしゃげるもんだな、あの女は。」


お昼休みに入って屋上でひなたに経緯を話す。


「あはは、ぼくもびっくりしたけどね。

でももう話すこともないかな。」


「………まぁいいじゃないか。

きみには私がいるよ。」


小さいげっぷをしながら言う。

どきっとするようなことをひなたは平気でいう。

ひなたはぼくのことどう思ってるのかな。


「…不満か?」


「……ううん、そんなことないよ。

ぼくにはきみがいてくれるもんね。

ありがとう、ひなた。」


「……こちらこそだよ……」


「え?なに?よく聞こえないよ?」


「うるさい、死ね。」


「ええ?!なんで!?」


「ふん、相変わらずきみのお弁当は美味いな。ごちそうさま。」


そう言って先に教室に戻っていってしまった。

ひなたはときどきよくわからない。





「よし、かえで、かえろー


「ねぇ、かえでくん!一緒に帰ろうよ!」


放課後、大きな元気な声でひなたの声をかき消して天本さんがぼくに話しかけてきた。

周りの視線が集まる。慣れたけど。


「えっと…天本さん…ぼくのこと聞いてないの?」


白い死神。親しくすれば不幸を呼ぶミスターアンラッキー。

転校してきたならまず耳にするだろう噂だ。


「お昼に聞いたよ。大丈夫!私運いいし。」


気にしていないというか全く信じていないようでおかしそうに笑う。

この子はひなたとはまた別の意味で周りを気にしない人だ。


「でもぼくひなたと……。」


「お人形さんでしょ?

なら3人で帰ろうよ!」


悪気はないんだろうけど少しかちんとくる言い方だなぁ。


「ねえ、私も一緒でいいかな、ひなたちゃん!?」


「…………かえで、きみに任すよ。」


「え……あ……うん…………。」


特にー強いて言えばぼくが白い死神であること以外は断る理由もなかったから3人で帰ることにした。

本人は全く信じてないから説得も無駄だろうし。


「それにしてもおかしいよねー、白い死神って。この歳でそんな噂信じちゃうんだね。」


「あはは…実際ぼくといて色んな目にあってる人がいるからね……。」


そう言いながらひなたに目を向ける。


「……たまたまだ。それに私は不幸になってなんかいない。」


「あはは、ひなたは否定してくれるんだけどね。」


「……ふーん、なら私が証明してあげるよ!

かえでくんと仲良くしたって何も起きなかったよってみんなに言ってやるの!!

そしたらみんなかえでくんと仲良くしてくれるはずだよ!」


ひなたとはじめて話したときのことを思い出す。

ひなたも同じようなことを言っていたような気がする。

でもなぜかどこかひなたのときとニュアンスがちがう気がしてあのときほど嬉しいって気がしない。


「でもなんかあったら……。」


「大丈夫だって!私、昔から運だけはいいんだから!だからこれからもよろしくね、かえでくん、ひなたちゃん!!」


「…………こちらこそ。」


ひなたが無愛想にだけど返事を返したからぼくはほっとする。


「………うん、よろしくね、天本さん。」



ぼくは愚かだと思う。

人恋しくて人の優しさに甘えて誰かといたいと思うなんて。

ぼくは自分の性質を忘れちゃいけない。

忘れずに受け入れて1人でいればあんなことにはならなかった。






天本さんと話すようになって2週間がたった。

天本さんの言うとおりこれといって天本さんの身には何もおきていない。

ひなたには相変わらずな感じだけど。


「なんか天本さんは大丈夫そうだね。

もしかしてぼくの考えすぎだったのかな。」


「だから私はずっと言っているだろ。今までのは全部たまたまだ。」


昼休み、学校の屋上で2人でお弁当を食べる。

友達ができるのは嬉しい。

でもひなたと2人の時間をこれからも作っていけたらなって思ってる。

だからお昼はいつも2人で食べるようにしている。

それに天本さんはもうクラスの人気者でぼくたちなんかより友達がたくさんいる。


「そうだ、今日、天本さんによかったら家に来ないかって言われてるんだけどひなたも来ない?」


「………今日はきみの家で映画を見る約束じゃなかったか?」


「うん、でもぼくの家なんていつでもこれるしさ、晩ご飯もご馳走してくれるっていうし、よかったらどうかなって思ったんだけど……いやだった?」


あきらかに不機嫌そうな顔をしている。

よかれと思って言ったんだけどな……。

天本さんのお母さんが作るご飯だってぼくなんかが作ったご飯よりずっと美味しいはずだ。


「……私はいい……。

よかったらきみ1人でいってきてくれ。」


空のお弁当をぼくに渡して体育座りしながら顔をうずくめる。


「えー……なんでよー。

絶対楽しいと思うよ?」


「だから楽しんでくればいいじゃないか。

よかったな。あんな可愛い可愛い女の子と仲良くできて。」


顔をうずくめながらひなたは言う。


「……なんかその言い方少しいやなんだけど……。」


「いやいや、きみが随分と嬉しそうにはしゃいでいるからね。」


「…悪いの!?ぼくはきみと違って友達を作らなかったんじゃないんだ!!できなかったんだよ!!嬉しいに決まってるじゃないか!!」


声をあげたあとで後悔した。

見たことない顔でひなたはぼくを見ていた。

悲しそうな、辛そうな顔で。


「………すまない……。

さきに教室に戻ってるよ……。」


「あ………」


声をかけれなかった。

ひなたがいけないんだからね…。

ひなたはそのまま学校を早退したらしくぼくが屋上から教室に戻ったときにはいなかった。



「そっかぁ、それじゃぁ、今日はひなたちゃんは来れないんだね。」


放課後、天本さんと一緒に教室をでた。

ひなたがいない帰り道なんて久しぶりだな。

天本さんとぼくが一緒に帰ることに関してもうほとんど誰も見向きもしない。

天本さんのおかげでぼくの噂は少し薄れていった気がする。

ぼくと2週間いて何もなかったことと天本さんの人当たりの良さが幸いしてクラスのみんなは噂を信じなくなってきていた。

人の噂も七十五日って言うけどそれこそ何も起きないような噂は一季節もたたない内に忘れさられていくようだ。

逆もまた然りなわけだけど。


「うん…確かにぼくの言い方も悪かったけどひなただってあんな言い方……。」


「……私はかえでくんが悪いと思うけどなぁ。」


「……で……でも……!」


「私がひなたちゃんの立場だったら同じような行動とってるよ。

かえでくんは少し女心がわかってないね!」


「えっと…どういうこと?」


「つまりだよ!ひなたちゃんはね、かえでくんが好きなんだよ!!」


「………あはは、それはないよ。」


ない。ひなたにはこれまで好きな人はおろか、友達さえいなかったんだ。

ひなたにとってぼくはたった1人の友人だ。

それ以上でも以下でもない。

ぼくとキスをしたいとも思わないだろうしそういう関係を望んでいるわけでもないだろう。

もし天本さんの言うようであれば嬉しいけど……今はひなたの唯一の存在でいれるだけでいい。


「……んー…まぁ、これは私が言うことじゃないか。」


腕を組んで大げさに考えてるポーズをとる。


「でも、かえでくんはひなたちゃんを、女の子を傷つけたわけだよ。ちゃんと謝らなくちゃ!」


「………うん……確かにぼくの言い方も悪かったしね……。」


正直そこ以外全くぼくが悪い気がしないし、むしろひなたが悪いんじゃないかとも思ってるけど、頷いてしまった。

天本さんにはそういうのがある。


「まぁ、元をたどれば私がかえでくんを誘ったのが原因なんだけど…ひなたちゃんから誘えばよかったか……でもひなたちゃん、まだ私と目合わせてくれないしなぁ……。」


ぼくに話しかけているでもなく1人ぶつぶつ呟き始めた。

天本さんも一応そういうの気にするんだな。

おそらくひなたはただきみみたいなタイプが苦手なだけだと思うけど。

別に嫌ってはいないと思う。


「……今日どうする?

私の家にくる?それともひなたちゃんとこにいく?」


「………ううん、ひなたには明日謝るよ。

今日はおじゃまさせてもらおうかな。」


友達の多い天本さんがなにを考えてぼくとひなたを誘ってくれたのかはわからないけど、ぼくだったら家に誘う相手は選ぶし来てくれたら嬉しいと思う。

逆に来てくれなかったら落ち込むと思う。


「そっかそっか!

男としては不正解かもしれないけど嬉しいよ。ありがとう。」



久しぶりに友達の家で遊んだ。

ゲームしたりお話ししたり、晩ご飯を一緒に食べたり。

楽しかった。本当に楽しかった。うそじゃない。

でもひなたがいないせいか少し物足りなさを感じた。

ぼくはだめなやつかもしれない。

ずっと友達が欲しいって思ってたのに1人に依存している。


「今日はありがとう、天本さん。

楽しかったよ。」


「こちらこそ!楽しかった!

また来てね、今度はひなたちゃんと!」


「うん、じゃぁまた明日ね。」


「あ、待って!」


別れのあいさつをして家の前から立ち去ろうとしたとき、手を握られ呼び止められた。


「………えっと……どうしたの?」


「…………ひなたちゃんに敵わないのはわかってる……でもこれからも……たまにでいいの……また一緒に遊びたいな……。」


小声で最後のほうしか聞きとれなかった。


「うん、友達だもん。また遊ぼう。」


そのときに見せた天本さんの嬉しそうな、悲しそうな顔をぼくは一生忘れない。

またなんて2度と訪れないことなんてそのときのぼくは知らない。






次の日、ぼくが教室についたとき、教室は異様な空気だった。

天本さんが自分の席に座っていて、青ざめた顔をして震えている。

その目はただ一点を見つめて瞬きすらせずに見開いている。

そんな天本さんをクラスの人たちが囲んでいた。

ぼくが教室に入るとみんなぼくに視線を向け、さっきまで天本さんに声をかけていたのを止める。

相変わらず天本さんは震えて一点を見つめている。

いやな予感しかしない。


自分の席に座っていたひなたがぼくのほうにくる。


「かえで、ちょっと屋上に一緒にきてくれるか?」


「…………なにが…あった……の…?」


「あとで話す。とりあえず教室をでよう。」


「なにがあったの!?」


ひなたの両肩をつかみ問いかける。

ぼくのほうも震えが止まらない。

ほんとうは聞きたくもない。

教室から今すぐ逃げてしまいたい。

ひなたは少し悩んでから口を開く。


「…………天本ゆかりが襲われた。」


「…………」


声がでない。

思考が上手くまわらない。


「ニュースでやっていた例の殺人レイプ魔だよ……天本ゆかりは昨日の夜、コンビニに行く途中に襲われたんだよ。」


「……そ…んな………。」


なんで……なんで天本さんが………。

……そんなの明白じゃないか。

ぼくのせいだ。


「で、でも!未遂に終わったんだ!

たまたま通りかかった人に助けてもらったし犯人も警察に捕まった!だから天本ゆかりは無事だ!きみが責任を感じることじゃない!」


ひなたには悪いけど全く声が耳に届いてこない。

力なくふらふらと天本さんに近づいていく。

天本さんを取り囲んでいるクラスの人たちはぼくが近づくと恐ろしいものを見る目で道をあける。


「天本さん……だい……」


ぼくが声をかけようとしたとき、体がびくんと動き、視線をこちらに向けてきた。


「いや!!!いやだ!!!来ないで!!来ないでよ!!!」


「ちょっと…!!ゆかり!!落ち着いて!!」


大声を出して暴れ出した天本さんをクラスの人たちがおさえる。


「…………………」


ぼくは何も言えず教室から走って逃げるしかなかった。


「かえで!!!」


後ろでぼくの名前を呼ぶ声を無視して。








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