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モノクロの虹  作者: にゃー
1/10

お弁当のために

彼女とはじめて話したのは学校の屋上だった。

まだ梅雨の最中でさっき雨が止んで天気のいい蒸し暑い日だった。


「ちっきしょー!!あのやろう!!

ぜってー殺す!何が何でも殺す!!」


「ちょっと、あやか。もうやめようよ…あいつまじヤバいって……。」


ぼくが屋上でお昼を食べようと階段を上っているとき、何人かの女子が屋上からおりてきた。

みんなぼくと同じクラスの女子。

汚い言葉を吐いているのは佐田あやかで周りは佐田をなだめている。

佐田の口からは血がでてて頬が腫れている。


「んだよ!?見てんじゃねえぞ!!

白崎のくせによ!!」


「ご、ごめん……」


いわゆる八つ当たりをされた。

屋上でなにがあったかは知らないけど誰かとケンカでもしたのかもしれない。

そう思うと屋上にいくのが怖くなった。

でも逆に誰があの佐田をあそこまでやったのかも気になった。

ゆっくりと屋上に続く扉の取っ手をまわした。


扉を開けると目の前に段差に座っている小さな女の子がいた。

きれいな長い黒髪が風でなびく。

その隣にはぐしゃぐしゃに踏み潰された焼きそばパンが落ちていてそれをずっと見ている。

同じクラスの黒崎ひなただ。

背が小さくて髪が長いため、後ろ姿からだけで黒崎だってわかる。

近寄りがたい雰囲気があり話したことはないけど。


「………えっと………こんにちは。」


「……なんだきみは。

さっきのぎゃんぎゃん五月蝿いブルドックの連れか何かか?」


ぼくが話しかけるとこっちを見ることなく人形のような大きな目で焼きそばパンから視線を離さず黒崎は話す。

思わず吹きそうになってしまった。

恐らく佐田のことを言ってるんだと思う。

確かにブルドックに見えなくもない。


「ち…ちがうよ!天気がいいから屋上でお昼を食べようかなってきただけだよ。」


「そうか。」


相変わらずこっちを見ることなく今度は黒崎は空を眺めている。


「………何故となりに座る?」


「あはは……いいじゃん、別に。

それより、佐田をやったのってきみなの?」


「佐田?……ああ、あのブルドックか。

あいつが私の焼きそばパンを踏み潰して殴ろうとしてきたんだ。自己を守るための当然の処置をしたまでだよ。」


佐田を中心に横暴なことがよくある。

それは特定の人物ではなく気まぐれなのか感に触るやつなのか色んなやつにひどいことをする。

ぼくも何回か暴力をふられたことがある。


「黒崎は強いんだね。

ぼくは佐田に全く抵抗できなかったよ…。」


「何故私の名前を知ってる?」


「え?同じクラスだし…それにほら、ぼくの名前白崎って言うから。黒崎と一文字違いだしね。」


「おかしなことを言うな、きみは。

それだと佐藤は加藤を意識するのか?」


「あはは……ぼくは佐藤じゃないから分からないよ。」


恐らくぜったい意識しない。

はじめて話したけど変なやつだなぁ。


「さて、昼飯が汚物と化したわけで私はここにいる理由もなくなった。

じゃあな、白い弱虫くん。」


聞いていないようで話しは聞いているんだな。

黒崎は口も悪いし思った通り変なやつだったけど話してみるとそんなに近寄りがたい雰囲気はなかった。仲良くなれたらなぁ。

いや………なれるわけがないんだ。


黒崎が去ろうと立ち上がったときすごいでかいお腹の音が聞こえた。


「…………」


「………じゃあな、白い弱虫くん。」


「…よかったらお弁当半分食べる?」


「い……いいのか!?」


「え?あ、うん。いいよ。」


予想外な反応で驚いた。

すごい勢いで振り向いてぼくの顔のすぐ近くで目を輝かせる。

普通にしていれば、普通に振る舞っていれば普通のかわいい女の子じゃないか。

ぼくのとなりに座り直してその女の子はぼくが持ってきたお弁当に手をのばそうとする。


「おい、白いの!私はどれを食べていいんだ!?」


お弁当の真上でどれをとろうか手を迷わしている。


「白いのってなんだよ。

ぼくには白崎楓って名前があるんだよ。」


「きみはいちいち五月蝿い男だな。

じゃぁ、かえで。私はなにを食べていいんだ?」


「え…えっと………好きなのどうぞ…。」


「なに?!なんでもいいのか!?」


思わずどきっとしてしまった。

女の子に名前を呼ばれるのは久しぶりだ。

黒崎は玉子焼きを手でつまんで口に運んだ。


「美味しいかな?」


「美味いな。きみの母親は天才だ。」


「そのお弁当、ぼくが作ったんだよ。

ぼくの両親、死んじゃってるから一人暮らししてるんだよ。」


玉子焼きを飲み込み、次にハンバーグを手でつかむ。


「そうか、なら天才はきみだな、白いの。

こんな美味い料理を毎日食べれるなんて羨ましいやつだ。」


いろいろつっこみたいけど……まぁ流そう。


「あはは……昨日の残りをいれてきただけだけどね。よかったら全部食べていいよ。」


自分の作ったものを褒められるのは悪い気がしない。


「きみは神かなにかか?

そういうなら遠慮なく頂こう。

こんな美味いもの滅多に食べられないからな。」


手でご飯を掴もうとしたから箸を渡してやった。


「黒崎のお母さんは料理が下手なの?」


「ママは海外に出張してるよ。

もう1年くらい会ってないな。パパは私が小さい頃に死んだ。私もきみと同じで一人暮らしだよ。」


「そうなんだ……。なんか親近感わくよ。」


「きみはいちいちなんだ?私と親しい仲にでもなりたいのか?」


「んー…なれたらいいんだけど……なっちゃいけないんだ。」


「何故だ?」


「ぼくといるとね、その人は不幸になっちゃうんだよ。」


「よくわからんよ。もっと簡潔に話せ。何故だ?」


「ぼくも知らないよ。昔からそうなんだ。

お父さんもお母さんも交通事故で亡くなったし仲がよかった友達も怪我したり親の会社が倒産して借金で夜逃げしたり…ぼくと親しい人はみんな不幸になるんだ。

だからぼくは今は友達を作らないようにしてるんだ。」


「ふーん、ごちそうさま。」


小さいげっぷをして空の弁当箱を差し出してきた。


「汚いなぁ……それにぼくの話し聞いてるの?」


「聞いてるよ。しょうもない話だ。

あり得ない話だ。たまたまきみの親しい人が不幸にあっただけじゃないか。きみのせいなんかじゃないな。たまたまだ、たまたま。」


もしそうならどれだけぼくは救われるだろう。


「……でもやっぱりぼくのせいなんだよ…。

ぼくは人を不幸にするんだ…。

きみは知らないだろうけどぼく陰で白い死神なんて呼ばれてるんだよ。」


そう、高校にぼくと小学校が同じ人がいてそこから噂が広まったのだ。


「……きみのお弁当はとてつもなく美味かった。」


「なんだよ、いきなり。

そんなんでよければこれからは黒崎の分も作ってきてあげようか?」


「い…いいのか!?」


「いいよ、ぼくも美味しく食べてもらうのは悪い気がしないしね。」


「よっしゃー!!」


「あはは…黒崎は大げさだな。」


「大げさなもんか。

私は最高に嬉しいんだ。」


小さい体で万歳をして座っているぼくを上から見て黒崎が言った。


「ほら、きみはいま私を幸せにしたぞ?

きみは人を幸せにできるんだ。自信を持て。」


ぼくは黒崎のこの言葉を一生忘れないと思う。


「………ぼくが……」


自分でも驚いた。

涙が止まらない。


「あれ……おかしいな…なんでぼく泣いてるんだろ……。」


「女々しいやつだな。

その白い肌もそのさらさらな髪もそのかえでっていう名前も。少なくともあのブルドックよりは女に見えるよ、きみ。」


「あはは…黒崎は顔に似合わず男らしいね。」


「はじめて話す相手に失礼なやつだ。」


黒崎に言われたくない。


「よし、まぁ飯のお礼に私が証明してやろうじゃないか。」


「ん?なにを?」


「きみが不幸を呼ぶ男なら私はその不幸を壊す女だ。今までのきみのまわりの不幸は全部たまたまだってことを私が証明してやる。

私は人と話したりするのは苦手なんだが、暫く仲良くしようじゃないか。」


「黒崎……。」


全く苦手には見えないけど。


「ひなたでいい。よろしくな、かえで。

明日もお弁当楽しみにしてるよ。」


「……きみ、絶対それ目当てでしょ……。」


「言ったじゃないか、お礼だって。

そうに決まっているだろ。」


「……あはは、まぁいいや。

よろしくね、ひなた。」


ぼくはこれからこの出会いを何回も後悔する。

ひなたの言葉には力があって本当にたまたまだって思った。

ひなたの言葉がほんとうに嬉しかった。

だからひなたと、誰かともう一度仲良くしてみようと思えた。

ひなたがそう言ってくれたようにぼくのせいじゃないとしてもぼくはぼくを許せない。




空に虹がかかっているのが見えた。

誰が虹がきれいだと言ったのだろう。

遠くに見えるそれは薄くて少なくともぼくの目には7色には見えなくて別に感動を与えてくれるほどのものではない。


「さて、そろそろ教室にもどろうか、かえで。」


「あ、うん!」



ぼくはこれからこの出会いを何回も後悔する。


でもそれ以上にきみに出会えてよかったって思う。


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