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「ここだな」
次の日の放課後、俺たちはその、開かずの扉とやらの前に来ていた。
そこは職員室の隣で、それほど目に付かない場所とはいえ、こんな部屋があったことに気づかないなんて盲点だった、と感じるようなところにある部屋だ。
学校の「校」に長いの「長」、そして、「室」と掲げてある。
なんて読むのかは知らないが、ほかの部屋とは違う重厚な作りの扉は、まさに、来るものを拒むような、そんな空気を感じられた。
そんな扉の前に、俺たち、七人の魔法使いが集まっていた。
「ここなのね」
東山が口を開く。
「そうみたいね」
南浜がメガネを持ち上げそう口にした。
「……ついに、このときが来たんだな」
俺は呟く。
この数週間、いろいろなことがあった。
七つの魔法のアイテムを巡る戦いに巻き込まれたこと。
あらゆる戦術、アイデアを駆使し、戦ってきたこと。
そして……最後に俺が、勝者となったこと。
この扉が開くとき、それは、七つのアイテムがそろったとき。そして、七つのアイテムをそろえたものはマジシャン・オブ・マジシャンの称号を得て、ひとつだけ願いを叶えられるらしい。
そうやって考えているあいだにどこかから女子生徒が現れ、「せんせー、遊ぼー」と口を開いてドアをノックする。
ドアは横にスライドして開いた。女子生徒が中へ入ってゆく。
「で、この扉はどうやって開くんだ」
試しに俺が扉に手をかけてみる。押しても引いても、扉は開かなかった。
「無理だぜ。開かずの扉って言うくらいだから、その程度じゃあ開かない」
登が言う。
こいつは捕まっていたはずなのだが……なにか、裏から誰かが手で回したおかげで、すぐに解放されたとかなんとか言っていた。一体、誰が手を回したのだろう。というかどうやって回したのだろう。簡単に解放されるような状態ではなかったと思うのだが。
「この扉を開けるには、七つのアイテムを誰かひとりが掲げるという方法しかないですよ」
冬深が口にした。
「ここはもちろん、大地くんの出番だよねん」
西村が俺に笑顔を向ける。
「そうだな」
俺は頷いた。
みんなと戦って、そして、やっと手に入れた七つのアイテム。
俺はそれをすべて取り出した。
「はい、おにーさん」
北川も、車いすから立ち上がる。
最後の魔法のアイテムであるイスが、光を放ったような気がした。
俺は松葉杖を置いてイスに座り、ひざの上に辞書を置く。その上にさらにレールガンを起き、左手で邪刀を手にする。ペンダントを首から下げ、地味なメガネをかけた。
そして、右手には俺と共に戦ってきた、「百の槍」を手にする。思えば、こいつを偶然見つけたことから、この戦いに巻き込まれたのだ。
『あなたは、その武器に選ばれたのよ』
東山の言葉を思い出す。
俺は、この武器に選ばれた。
そして、七人の魔法使いの戦いに勝ち抜いた。
本当に、俺はこの武器に選ばれたのだろうか。
本当に、俺は最強の魔法使いになれたのだろうか。
問いかけに、槍は答えない。
ただ、ひとつだけ。
すべての答えが、この、扉の奥にある。そんな気がする。
七つのアイテムが、光を放つ。
俺の体も、光に包まれる。
やがて、開かずの扉も白く光り始め……ぎぎぎ、と、少しずつ、横にずれてゆく。
「ついに……開きますか」
冬深がメガネを持ち上げる。
「この奥に、一体なにが……」
南浜が目を輝かせて言う。
「大地」
扉のほうに向きながら、東山が口を開く。
「いよいよね」
ずっと、一緒に戦ってきたパートナーが、そして、最後の最後に俺の前に立ちふさがった強敵が、わずかにこちらを向いて笑みを浮かべた。
「ああ」
俺は頷いた。
扉が、開く。
部屋の内部が、見えてくる。
「それじゃあまたねー、センセ」とシャツのボタンを閉めながら言う女子生徒が俺たちの脇を抜けて部屋から出ていった。
少しずつ扉が開いてゆく中、俺は、ここ何日かの出来事を思い出していた。
平凡だった、特筆することもなかった俺の日常が、一瞬のうちに壊れ、そして、変わってしまった。
七人の魔法使いの、戦い。
熾烈を極めたその戦いは、思い出そうと思えば、今でも鮮明に思い出すことが出来たのだから。