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わが社の自慢

大丈夫かなぁ?この話。

 いまから2日程前の事だ。

 俺はまだ日本の本社にいた。


 なぜ海外にいくことになったかについて話す前に、すこしうちの会社のPRでもしていこうか。

 おっともちろん話を簡単に説明するための下準備だ。けっしてこれは「宣伝」じゃあない。


 うちの会社、

株式会社弐面にめんは、たくさんの中小企業、いわゆる子会社をまとめて率いている中の頂点に位置する大会社である。いわゆる「財閥」ってやつだ。弐面財閥とでも言おうか。


 収益額は、一兆を超え、

 経済不安が進む現代社会においては、唯一大きな赤字が無い会社としても有名である。


 そんな巨大財閥も昔は、大会社に目をつけられたらあっという間に潰れるぐらい小さな会社で、

 ビルの一室を借りて十数名の社員と共にパーソナルコンピューターを目の前に見ているとまるでくるくると踊るような動きで指を動かしている。ここらは今とそんなに変わらない。


この会社は、

 主に情報を扱うセキュリティ会社で、当時は、大企業のコンピューターの下仕事を請け負う小中企業、まぁ決算が億超えていればバンザイという程度の従業員十数名、

 1ヶ月の社員の給料も当時の社長の懐を崩さねばならないときがあるほどだ。


 そんな先行き不安な状況を変えたのが

 当時27歳の若社長

弐面小次郎にめんこじろうである。

 彼は今も会社の社長である。


 親の会社を継いだ彼は、

 今のままでは、いずれ倒れると不安に思い、ある分野に手を出した。

 それは投資である。


 投資とは、とある社に活動資金を渡して、その後とある社で儲けた金の何パーセントかを貰うというものである。

 もちろんそれには、大きなリスクもあり必ずしも、もうけられるわけではなく、失敗したら投資した金が吹っ飛ぶこともある危険な勝負である。

景気という盤面に対し、

一手一手にたくさんの負担がある。判断力、読みの力等の能力がなければ無理だが、

 無論小次郎もただ、興味本意で、投資と言う分野に入ったわけではない。

小次郎には、

大きな武器があった。

小次郎は言う。

 「情報を取り扱う仕事で本当によかった」と。

 会社にはいくつもの大企業の情報がたくさん集まってある。小企業の強みは、

警戒されないことだ。


 (小企業が投資する金額などたかが知れているため出る杭叩きは避けやすい筈だから。)なので、大企業の経済状況等を知ることはそう難しいことではない。

 「所詮小企業。やることと言ってもどうせ大したことではないに違いあるまい。放っておけ」というある種の偏見のような物を大企業は、持っていた。


 社長自身にも、一つの特筆すべき能力がある。

それは、暗記。

彼は、小さい頃から教えられたことは、そんな簡単には、忘れなかった。


とある雑誌に書いてあったことだが、

彼は、小さい頃から落語や狂言などの劇物が大好きで、じゅげむや柿主と山伏などの台詞や演技は、勿論、顔の表情や細かい挙動すらも数回見てそれを全部記憶し

学校の隠し芸大会なんかで披露した。

するとみんな大爆笑だった。


彼もただ真似したわけではなかった。

自分なりの工夫を凝らしてどうすれば人を笑わせられるのか楽しめさせられるのかを考えて披露した。

彼は、小学生には、あまり受けが悪いこれをどうすれば面白くできるのか。

それを考え工夫を凝らたり練習をしたりした末に披露した。

そしたら皆が笑ったのだ。彼は、それがとても嬉しかった。


 彼は、この経験から人の前で話すことを躊躇わなくなり、その上自分なりの台詞や挙動を考えて、

どうしたら人を楽しませられるのか、どうしたら人に受け入れられるのかを事あれごとに考えるようになった。



 彼の才能は、そうやって開花していった。暗記だけではなくそこから発展していったのだった。



 さて、彼が社長を継いだ時、日本はある大きなイベントが行われていた。


 第二回東京オリンピック(又はオリンピアード)である。


 オリンピックは、急激な経済成長を促す式典である。理由は、世界中の人々が開催地に訪れるから。


 それによる経済効果は、まさに圧倒的で、これまで目も当てられない程の大赤字だった日本の金が数ヶ月で、黒く染まる程である。


 当時の首相は、オリンピック後の日本の経済を見て「ヒャアホィ!」と国会議事堂の公の場で、今年の国の収益額を聞いた際大喜びで、右腕を天井に思い切り突き上げながら跳びはねる様子がカメラに写され話題になった。


 オリンピックのもたらす恵みは無論政府だけではない。

 経済成長に乗って起業した者や

大赤字で、今にも潰れかけていた企業などが奇跡の再生を遂げることができた。

 まさに日本最強の切り札と言うには十分である。

 (しかし、それ以外に打つ手が無かったとも言える)


 勿論、弐面もその例外ではない。


 小次郎は、このビックイベントに対し思った。

「これは、千載一遇の大チャンスだぞ。」


 世界が動くレベルの大イベントである金が右に左にと大きく動くことは予想できた。

彼は、咄嗟に社員を集めて、社員らにこう述べた。

「これから私は、株に命を賭ける。」


 これは、一介のセキュリティ会社から、大株主に転身することの宣言であった。


 そして社員にこう命令をした。

「いまある情報、表も裏も全部持ってこい。」


彼は、それらの情報を使って大金をつかみとりそれを使って様々分野に手をだしまたまた成功させ、20年たたぬうちに大企業へと昇格した。

 小次郎がしたことはこれだけではない。

彼は自らの経営方法つまり投資の術を他の企業に売った。


 これはフランチャイズという商法に似ている。フランチャイズとは、

 その会社の名義を貸す代わりにノウハウや信用などを売ることだ。

 しかしここで重要なのは、会社の名義を貸すことである。

 確かに利益はその店のオーナーの者になるのだが、店の信用を得ることはできない。信用は、全て大会社のものになるのである。


 重要なのはここである。大会社にとっては目先の利益よりも見えない信用の方がほしいのだ。

しかも店の死活問題も全て大会社側がやるのである。

弐面は、つまり、

自らの商法の出来を他の会社に見せてこう思わせたいのである。「弐面という会社の情報は、信用できるな」と。

結果は、どうなっても知らない。

事実この商法で得た利益と信用は、相当なものだった。これにより弐面という会社は、財閥と言われるまでに発展するのである。


また、様々な分野にも挑戦している。


情報分野はもちろん、

金融、ロボット、発電所経営、農業等々....

先程、「百手先を読む」

と言ったが、

いまは、「その行動力百手の如く」と言われる程である。

これは、僅か十年ほどで日本の企業の中でもトップクラスの力を持ち、

これは、百手なければ出来ないようなことである

という意味だ。

 こうして情報を整理したり処理したりする一介の請け負い人から、日本経済の一柱を担う大企業へと成長していったのです。」


 以上、わが社の社長の半生を大まかにかつ美化したものである。


 参考文献

 ○○○○○○○......

 ■

 弐面の本社に就職してからはや十年俺は、現在営業部を担当していた。


 年齢は三十路に突入し、、鼻の下に髭を蓄えそれも

 もはや髪の毛と同じような感覚を抱くようになり若々しかった身体もだんだんたよりげない姿へと変わりつつはあった。


 今、自分の姿を鏡に映すとその情けない姿にため息がついてしまう。

 営業部の外回りの仕事のお陰か

 一応デブというほどではないが男らしい、逞しい体とは到底言えなかった。


 若い頃部活に入っていて、その頃は、男子らしい凛々しい体型だったのだが。


 ポン。

その行為は自分への戒めかかただ気合いをいれるためか。

彼は、今度、スポーツジムにでも通うかな?

このままでは狸になりそうだ。とジブリの映画のワンシーンを思い出しながら、叩いたので恐らく前者だろう。


白ワイシャツのボタンを外は暑いので第一ボタンだけは外し他は全部ずれもなくしめ、黒スーツを着てネクタイをつけて、襟を正すと

椅子に置いてあった革製のバックを手で掴み

玄関に向かいバックを置きながら

頑丈そうな、でも、長く履き続けたせいか少しよれよれになった黒い革の靴を靴箱から引き出して土間にきっちり並べてから、

靴の口に足を通すが、

かかとで靴の縁が曲がったので、玄関に座り込み

靴箱に差し込んであった靴直しを使って何とか履いたあと立ち上がるついでに倒れているバックを拾い上げる。

バックは軽い。だから片手で持てた。


顔を前に向けて

玄関の重い扉を開いた。

外に出る前に何を思ったかふと、家の方へ体ごと振り返り、呟くような声で言う。


「行ってきます。」


哀しいかな独身だから

返事をしてくれるような伴侶はいなかった。


呟きは、廊下にただただ響くのみであった。



垣山は、その後は無言で外に出た。

バタリ。と扉がそのあとゆっくりと閉まる。


その時に出た衝撃は、家をわずかに揺らした。

オートロックなので自動的に鍵が閉まる。



その後、家の主が帰ってくるまで特に大きな変化はなかった。


今の時代において、歩きで、仕事場に向かうような職業というのは、ま、せいぜいもの作りを生業とする職人、それも伝統工芸品等を作る人ぐらい今の時代において、歩きで、仕事場に向かうような職業というのは、農家かもの作りを生業とする職人、それも伝統工芸品等を作る人ぐらいだろう。

しかも都内となるとその人数は更に少なくなって行く筈だ。

俺は、袋の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれた安売りの靴下の気持ちになりつつそんな下らないことを考えていた。


(やはり毎度のことながらこの時間は混むなぁ。)

このこみぐあいはいくつになっても慣れないものである。


電車の、まぁ贅沢なのかもしれないが、無理やり柔らかくしたようなあのソファーで、のんびり肩をかけるタイプのバックより、先週発売されたミステリー小説を優雅に足をくみながら、読む余裕などあるわけないし、

足を組むやつがいたら他の人から憎々しげに舌打ちされるし、(俺もそう思うし、)

そもそも椅子に座れないから靴下の気持ちを十分に味わっているわけである。


ところで混むと言えば、インド辺りでは電車からはみ出るくらい人が乗っていると聞く。

非常に尊敬できる話だ。それには流石に及ばない我々には。まぁ現状我々ですらぎゅうぎゅうづめなのにこれ以上は、ごめんである


でも人がはみ出るくらいという位なのだから、電車自体のスピードは、あまり早くないのだろうな。

あまり早いと公園にあるあのぐるぐる回す球体のアレみたいに吹っ飛ばされてしまう。


だとしたら古いストリートトレイン?だったか正式名称は、

忘れたが、あの程度のスピードだとぐらいかな?

ぶっちゃけ車でいった方が早くなぁい?と聞きたいくらいの。

ストリートトレインと言えばやはりジブリ映画の

アレを思い出すのは、俺だけか?あるいは東京タワーが作られた位の時代をモデルにした漫画か。


俺は、後者の漫画を読んでああ。昔はよかったな。

としみじみと思う。


その頃はまだ、生まれてすらいないのに。



と下らない事を考えていると車内の上についているスピーカーより

若い女性の声がした。


「次はうへの~うへの~

お出口は、右です。アクセントは、ウです。」

その後続けてお乗り換え云々の事を述べた。


きっと紙に書かれている事をなるべく棒読みにならぬよう精一杯の感情をこめて言っているのだろうなぁ。

と鉄棒に吊られている吊革を思い切り引っ張り、吊革に負担がかかってぎゅぎゅっという皮が軋む音に俺は、心に安らぎを覚えた。

革がだんだん劣化していってるんだなぁと思った。

この子供のような遊びが朝のちょっとした楽しみだったりする。


足を置く場所すらも考えて置かなければ踏んでしまうことに心をすり減らし、まだ一日も始まったばかりだと言うのにである。

その中でちょっとした楽しみが心を落ち着かせるのだ。


....しかし、三階ほどしかない低い建物の群もだんだんと少なくなっていき、

代わりに見えてきたのは白くて四角い豆腐のようなビルや巨人いたら使いそうな鏡、きっと業者さんが毎日毎日、モップのようなものでビルのガラスを一枚一枚ピッカピカに磨いているのだろう、壁全体がガラスの建物ばかりが目立ってくる。


(あ~あもう仕事かぁ)

そういえば、今日はなんかのプレゼンテーションが会社のホールで行われると聞いたが、まぁ....、俺にはあまり関係の無いことである。


一応、発表のデータをまとめさせられたが、なんのこっちゃ、データをグラフにするだけで、二時間かからなかった。


(そもそも資料が少ないと言うこともあったが。)


むしろ俺がやったのは、

プレゼンテーション前の

会社の宣伝である。


そういえばフランチャイズとか言ってしまったが大丈夫だろうか?

あまりいい意味ではないとネットで言っていたが....


そんな心配にかられながらもまぁ、何事も無いだろうと午後から始まるプレゼンテーションの事を頭から消して電車を降りるためにドアの方へ進んだ。

ドアが開くと一斉に外へ人が流れていった。

だが

まだ電車内は混雑していてなかなか進めなかった。


人の波に呑まれて俺は押し潰されそうになったが、なんとか電車から降りたあとは、人波から抜け出して一息ついた。

 

 「ふぅ。」

 手の甲で額に流れる微量の汗を拭うと再び同じ電車の中へ乗り込んだ。

 

 混雑しているときの電車は、多くの人が降りる所で

 たとえそこが自分の目的の場所じゃなくても一度降りるべし。


 皆が一気に降りるところで呆然と車内の真ん中で棒のように突っ立っていても、人に押されて痛い目に会うのだ。

ならば逆らわずに受け流す方がよい――――。


 これは、約10年社会人やってきて俺が得た知識である。....悲しいかな大したことじゃない。



 小,中,高,大学で得た知識と(普通科文系)

 会社での仕事で必要な

マナー、応対、パソコンでの事務仕事などのいわゆる一般的なサラリーマン、本当にごくごく平凡な技能を持った今年から三十路の中年である。


 エリート様にも馬鹿にはされないような大学を卒業して、

 足手まといにはならないかといって、あっという間に出世できる程度の能力は持たない、このままいつも通り会社に行って、

 上司から与えられた業務を行い、定時から一時間ぐらい残業したあと家に帰るといういつも通りの日常を淡々とこなしていく


 はずだったんだが。  

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