雨
人の気配がしない廃墟の集まったこの腐りかけの町で、誰かが殺生した小鳥を右手の杖で浄化させる。
杖の先は、それ自体を陣としている円形の輪になっていて、そこへと吸収された小鳥の亡骸は輪を通ると無数の光の玉になり、空へと向かっていく。
これは仕事だ。
ただ、好きでやっているわけではなく、この血の流れる家に生まれた者の使命とのことらしい。
この仕事を始めたのは一年前だ。
齢十五にもなった俺なら、と当時は意気込んでいたが、人間やその他動物の骸を自ら探すこの仕事をするには時期が早すぎた。
この一年で、俺は変わった。
良く言えば物事を冷静に感じ取ることができるように、悪く言えば物事を冷たく感じ取るようになった。
周りの仲間は、異常な捻くれ方をした俺と接して離れていった。
別にいい。
変な気を遣わすくらいなら、こっちの方が何億倍も。
ふと、肩を叩かれた気がした。
振り返る、しかしそこに人はいない。が、雨が降り始めていることに気が付いた。
降り始めの一滴を人の手と勘違いするには、雨はあまりに冷た過ぎる。きっと、去っていった仲間を思い出したことによって、無意識に人の温もりを欲したのだろう。
嫌気が差した。
きっと、この先人の温もりを感じられる日が来ることはないのだろうと、これからの人生に。
さあ、帰ろう。この仕事を始めたと同時に貰った、古臭い家に。自分しか住んでいない家に。
あいにく俺は、いくらこれからの人生に嫌悪を示したところで、自らを死、させることができるほどに、度胸はない。