悪魔と少女
悪魔は孤独だった。
悪魔は孤独であるがゆえに悪魔であった。
悪魔は寒かった。
少女は孤独だった。
少女は孤独であるがしかし少女であった。
少女は寂しかった。
あるとき悪魔と少女は出逢った。
月の光の冴えた夜に
悪魔はいつもの言葉を唱えた。
"願いを三つ叶えてやる"
少女は悪魔の言葉に答えた。
"願いは一つでいいわ"
悪魔はいつもと違う言葉を聴いた。
"お友達になってちょうだい"
悪魔と少女は友達になった。
少女は世界の物語を知った。
悪魔は人の温もりを知った。
もう悪魔は寒くなかった。
少女も寂しくなくなった。
そして、月日は流れていく。
いつしか少女は老婆になっていた。
悪魔は変わらず悪魔のままだった。
悪魔は言った。
"お前の魂を貰わねばならない"
老婆は微笑んだ。
"ずっと一緒にいられるわね"
いくほどなくして老婆は死んだ。
悪魔は老婆の魂を喰らおうとした。
老婆の魂は余りにも無垢で、
悪魔には喰らうことができなかった。
悪魔の"指"をすり抜けて、
老婆の魂は天高く昇っていってしまった。
悪魔は再び寒さを感じた。
悪魔は初めて気がついた。
その寒さが、
"寂しい"という感情であることに──。
悪魔は慟哭した。
悪魔の"目"から昏い滴が零れるたびに、
悪魔のからだは透きとおっていった。
やがて一筋の光となった悪魔は、
老婆の魂を追うように
空へと吸い込まれていった。