みにくいおやどりのはなし
あるところに、醜い親鳥がいました。
親鳥は永い間、巣から出ずに、たまごをあたためていました。
それは永い間、ずっとずっとあたためていました。
しかし、たまごはなかなか孵りません。
それもそのはず、そのたまごには、中身がなかったのです。
そうとも知らず親鳥は、孵らないたまごをあたため続けました。
それから、月日が経ちました。
やはりたまごは孵らないまま、親鳥はどんどん弱っていきました。
彼女は永い間、何も食べていなかったのです。
そう、彼女には、餌を運んでくれる「つがい」の鳥がいませんでした。
そもそも、たまごとは、「つがい」とふたりでなければ生むことができません。
親鳥は、そんなことすら知らなかったのです。
だから、疑うこともなく、誰のものかもわからないたまごを、あたため続けました。
けれども、弱った親鳥のからだは、どんどん冷たくなっていって。
彼女はついに、眠るように、そのからだを横たえました。
親鳥は、夢をみました。
真っ白な、あたたかい世界で、4人のこどもたちが遊んでいました。
らくがきのような街の中を駆け回るこどもたちの中に、
親鳥は、白い色をした、可愛らしい男の子を見つけました。
「あれは、わたしの子だわ」親鳥は言いました。
すると、親鳥のからだは、どんどん空へ昇りはじめました。
細い線で描かれた街が、みるみる遠ざかっていきました。
光を孕んだ白い世界の中で、あの男の子は、小さく笑っていました。
親鳥は、しあわせでした。
横たわって動かなくなった親鳥のからだの下で、
小さなたまごの、かたい殻がはじけました。
その割れ目から、小さな光の球がひと粒、
穏やかに眠る親鳥の顔を優しく撫でると、
しずかに、しずかに、消えていきました。