目覚めと迷い
それでは、3話目です。お楽しみください。
side ボズ
中隊長が倒れて意識を失ってからはや1時間が経過している。後、1時間ほどでうちの中隊を含む2個師団は移動を開始する。中隊長が起きないと彼をおいていくことになる。
軍医のホールド先生に見てもらっているが、どうなるかはわからない。ホルマン中尉がうちの隊長になってから真面目に働いているところを見たことはない。だけど、きさくな人で出身が貴族にもかかわらず俺たち平民にも平等に接してくれた。
ホールド先生は、命の心配はないと言ってくれているが、それでも心配だ。どうにか、回復してくれないかと思う。だが、俺にはホールド先生のような技術的な専門のことは全く知らない。とりあえず、神にでも祈っておこう。それが、俺にできる精一杯だ。
side ホルマン
「う……うぅ…」
視界がぼやけてるな、なんだが、変な霞がかかってるな。それに、少し光も強く感じるな。うん?肩が痛いな、これはさっき倒れたときに打ったかな?ていうか、初めから体調がMAXで悪くないか?これは……さいさきめちゃくちゃ不安だな。
「大丈夫かね?ホルマン君」
ん?だれだ、このおじさんは?なんか、すごいヒゲだな。まさに、ザ・仙人ていう感じだな。えーとホルマンの記憶によると……ホールド先生?ほぉ、軍医なのか。この、中隊の所属する師団の軍医で、もうこの道40年の大ベテランか、これは色々と頼りになりそうな人だな。
「えぇ、大丈夫です。すいません、ご心配をおかけしまして」
「いやぁ大丈夫ええんじゃよ。じゃがな、もうすぐ作戦の開始時間じゃ。もし、本当に体がきついなら後方に下がったほうがええよ。下手なやせ我慢は部下を死なすことになるぞ」
「いえ、本当に大丈夫です。すいません色々と」
「そうか…ならええ。じゃあ、ワシは行くからの。何かあったらすぐに来るのじゃぞ。」
そう言ってホールド先生は天幕から出て行った。もし、なにかあったらお世話になろう。だけど、今はそれどころじゃなくて、これからこの近くで行われる作戦について確認しないといけない。えーと作戦の指令書とかは、俺の机にあるのかな?
「中隊長ご無事でしたか!!」
いきなり、Mr.スキンヘッドのボズ君が抱きついてきた。ちょっと落ち着かせないとまずいな。誰かに見られたらこの体勢は誤解されかねん。それに、これは体中の骨が折れかねん。特に、背骨がヤバイ!
「ちょっ!ボズ曹長!ギブ、ギブ。骨が折れる」
「あっ!これは、とんだ失礼を申し訳ありません。あの?もうお体のほうはいいので?」
「あぁ、ちょっと貧血みたいなやつだったみたいだ。もう大丈夫だ」
「そうですか…それは、良かったです。安心しました」
ふぅ。。とりあえずボズ曹長は落ち着いたみたいだな。だが、ボズってそんな熱い人だったのか……?ホルマンの記憶ではもっとクールな下士官として記憶されているんだが、もしかしてなんか近い人に事が起こると熱くなるタイプの人?まぁいいや、とりあえずそれは置いといて、彼から作戦について色々と聞いておかないといけないな。
「ボズ曹長。作戦の指令書をとってくれないか?」
「はぁ?もちろんです。ですが、それ後30分ほどで燃やしますが…」
「えっ!燃やすの30分後に?」
「ええ、隊長が寝てらしていた間にすでに1時間30分ほど経過しております。なので、後、30分で作戦開始時刻です。なので、30分後に燃やします」
そうか、機密保持のために指令書は燃やすのか……この世界は近世っぽいと思っていたが、意外と色々と発達しているんだな。いや、軍隊では、これが普通なのか……。
「どうかされましたか隊長?」
「いや、なんでもない。それよりも作戦の最終確認がしたいから、指令書取ってきて」
「はい!いますぐ」
ボズはすぐに俺の?ホルマンの机にある箱の中から作戦指令書を取ってきた。
「こちらです」
「うん。これは…」
中身を読んでいくとどうやらこのホルマンの所属するイズベニア王国軍はこのウィドニア高原で侵攻してくる、ルナメス連合首長国を迎撃するつもりらしい。兵力は、王国軍2個師団6000人(1個師団3000人)
これに、現地貴族の連合軍を合わせた総数1万人らしい。
えっ?この兵力は少なくないか?迎撃戦なんだからもっと兵力をそろえるべきだろと思ったが、この指令書を読み進めるとどうやらこの兵力でも足りるらしい。なんでも、ルナメスは首長国すべてで攻めてくるのではなく、あくまでも国境を接している2カ国が攻めてくるらしい。で、この2カ国の最大動員兵力はそれぞれ1万人らしいが、もろもろの事情(国内警備とか国境警備とか)で実際に侵攻に使えるのは、2カ国合計で8000人程度らしい。まぁあくまでもこれはうちの試算だけど。
そんなわけで、1万もあれば十分だろということらしい。なんでも、今この国は北部以外のすべての地域で他の国とにらみ合ってるらしくいくら兵力があっても足りない状況らしい。なので、ここの防衛は貴族と少数の師団に任せておけばいいということらしい。
作戦自体は、非常にシンプル。高原でにらみ合って数の差で押し切るつもりらしい。う~んこれは、きな臭いにおいがするな。例えば、貴族に戦わせてそいつらの力をそぐとかね。でもまぁ、こっちは作戦に口出しできる立場じゃないからね生き残ることを第1目標にすべきだな。
心配なのは、貴族連合軍かな……。まともなのだといいんだけど、常備軍がある国の貴族軍はたいてい役に立たないからな、それさえ大丈夫ならなんとかなるでしょ。
「ありがとう曹長。確認できたよ」
「そうですか、燃やしてしまいますが、かまいませんか?」
「あぁ、燃やしといてくれ」
「分かりました。では、これで、失礼します」
ボズは天幕の外に指令書を持って出て行く。後10分で作戦開始時刻かぁ……。覚悟はできてる。ただ、つい最近までニートやってた俺が果たして人を殺せるか……。部下に死ねと命令できるか……。それだけが、悩みだな……。