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アイリーの入院している病室に、ホリィがやってきて、学長室での顛末を聞かされた瞬間のアイリーの台詞は以下の通りである。
「えぇっ!?アデルさんとユアンさん、もう次の実技にでちゃうの!?」
「ていうか俺らがいくはずだったやつな。つか、つっこみどころそこかよ。お前どんだけ先輩たち中心なんだよ…」
「だって…。お話聞きたかったなぁ…」
しょんぼりとするアイリーに、呆れると同時に少し腹が立ってくる。思わずきつい声が出てしまった。
「あのな、お前の怪我のせいで、俺まで初実践行けなくなったんだぞ?わかってんのか?」
「あぅ…。ごめんなさい…」
ますますしょんぼりする。その姿がかわいかったので機嫌を直し、同時にちょっと反省する。美少女のしょんぼりした姿は、一般的な人の3倍くらい申し訳なさを抱かせる。
ホリィにも、八つ当たりをしている自覚はあった。アイリーの悲しい顔が見たいわけじゃない。先輩たちへの嫉妬や、ユアンに関わる破目になったせいで受けた精神的な負担をアイリーにぶつけてしまったのだ。
「ま、いいけど。話の方は残念がるな。帰ってから沢山話聞けるように約束してもらったから」
ホリィは、素直に謝ることが苦手だった。そのせいで、ちょっと怒ったような話し方になってしまい、内心で大いに落ち込んでしまっていた。本当は、普通に優しくしたいのに。
「ほんとっ!?ホリィ、大好き!ありがとうったたた」
しかし、アイリーにはそんなホリィの内心の葛藤など関係ない。気付かない。純粋に自分の感情に従う。一瞬でショボンだった顔がパアッと輝く笑顔になった。
喜びに一瞬全てを忘れたアイリーは、全てを忘れ、骨折した腕でホリィに抱きつこうとした。だが、当然ながら途中で痛みに悶絶することになる。その様子に苦笑して、ホリィはアイリーの頭を撫でた。早く治ると良い。痛々しくて、自分が辛いから。
結局、アデルが身体を張ったおかげでアイリーは助かった。自分は、何もできなかった。目をつぶって、怯えていただけ。二度と、そんなことはしない。
アイリーは、自分が守る。今度こそ、命に代えても。だから…
「怪我人は大人しく寝てろよ……。早く治して、俺らも実践行こうぜ?」
優しく言ったホリィの言葉に、アイリーは嬉しそうにうん、と頷いた。
「じゃあ、先輩たちが帰ってくるのが早いか、お前の怪我が治るのが早いか賭けようぜ?」
「え、やだ!そんなこと言って、また私のチョコケーキとるんでしょ!?」
「お前が勝てばいい話だろー?つか、喰い過ぎ。デブるぞ」
「女の子にその話はしないでー!」
アイリーは真っ赤になって首を振る。ホリィは思わず笑ってしまった。可愛すぎる。
やっぱり、アイリーを守るのは自分でありたい。先輩たちには譲りたくないと強く思う。
「お前が寝てる間に、俺強くなっておくから」
「…?うん」
「足手まといになる度、チョコケーキ一つ俺に献上な」
「ええー!?」
アイリーが必死に抗議する。そこまでチョコケーキが大事なのかと、食べるより作る方が趣味のホリィには、その執着がいまいち理解できない。
それでもいい。だってアイリーは可愛い。可愛いものは守られるべきで、ホリィは守る者になりたいのだから。
「嫌なら早く治して、足手まといにならなきゃいいじゃん」
「……そっか。ホリィ天才!うん、チョコケーキのためにあたし頑張る!」
決意を新たに、やる気十分のアイリーを眺めながら、ホリィは一言だけ言った。
「…やっぱり、そこなのか…」
アイリーの芯はぶれないが、その芯は普通から一歩ズレた所にあるに違いない。
せめて、ユアンや学長のようにならにように気をつけようとホリィは新たに決意しつつ、その二人から逃げられないアデルに向かって、心の中でエールを送った。