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コメディへの道が遠すぎます。

 かといって、シリアスにも程遠い…。

 学舎第三期生アイリーは、敬愛する一期生の二人の先輩が今日から実技実践を終え帰ってくると知り、小躍りしながら小道を歩いていた。さっきまでざあざあ振っていた雨も小降りになり、どうせなら外で待っていようと思ったのだ。

 ルームメイトのホリィからは、「おっ前、ほんとあの先輩たち好きだよな。俺にはわからんわ……」と言われたが、そんなことはどうでもよかった。

 お気に入りの傘をくるくる回して、ツインテールをパタパタと跳ねさせながら、水溜りを飛び越える。ちょっと着地に失敗して、靴下が濡れたけれど、気にしない。


「アイリー、ちゃんと前見て歩けって。危ないだろ。先輩たちに会う前に、泥んこになるぞ」

「はーい。ねえ、ホリィ。アデルさんとユアンさん、今度はどのくらいここにいるのかなあ?いっぱいお話聞きたいなー」

 

 呆れ果てつつも付き合いのいいホリィと共に、二人の先輩を門で出迎え……では、物足りず、ちょっと先まで向かいながら、アイリーの顔は幸せに輝いていた。


「まーな。あの先輩たち、何だかんだですげーし。俺も楽しみだな。でもよ、俺ら明日から実践演習だぜ?」


 海学舎では、三回生から実践が取り入れられる。もともと、共人の育成の場は、知識重視で学者肌、王侯貴族と繋がりのある『神殿』と、実践主義で職人気質、一般市民が主流の『ギルド』の二つしかなかった。これではあんまり極端すぎる、進歩のためにどちらも学ぼうということで、双方の協力のもと試験的に始まったのが、この海学舎なのだ。それも、つい六年前からの話である。


「…………つかさ、お前マジでどっち狙いなわけ?」

「ふへ?どっちねらいって、何が?」

「いや、何って……。アデル先輩と、ユアン先輩だよ。どっちが本命?まー、ユアン先輩何でもできるし、なんか優雅っての?そんな感じだし、めっちゃ美形で王子とか言って憧れてる子多いけどさあ……。あの性格だぜ?」

「あー……。何考えてるかわかんないよねー。一緒にいれるアデルさんすごいなって思う!」


 あっけらかんとしてそう返してくるアイリーを見て、(王子狙いではないな)と心のメモ帳に書き込んだ。それでは、アデルのほうなのだろうか?


「じゃ、アデル先輩か?確かに別に成績悪いってわけじゃない。常に成績をきっちり中の上で行くあの姿は、ほんとある意味すごいと思う。知ってるか?先生たち、アデル先輩の点数をそのまま平均点として出してるらしいぜ。」

「さっすがアデルさんだね!いや、でもさ、先生たちそれ怠慢だよね?駄目だよね?」

「噂だって。そんだけ安定感抜群ってことだろ。まー、気がきくし、優しいし、いい人だよな。見た目怪しいけど。」

「あー。前髪長くて顔隠れててうっさん臭いよねー。顔見たことないもん。平気で隣歩けるのって、ユアンさんだからこそだよね!」


(アデル先輩の隣を歩くつもりはないと。うむ。どっちもないじゃん。)


 結構客観的に先輩を見れているアイリーに対して、なんかかっこよく見えるフィルターかかってんじゃね?というホリィの不安は解決した。しかし、そうなると解せない。一体、アイリーの執着はどこから来るのだろうか。


「……どっちも狙ってねえのに、何でお前そんな先輩たちにこだわるんだ?」

「もう!ホリィ何言ってるの?アデルさんとユアンさんは、二人一緒だからいいんだよ。あの、お互いの近づき難さをお互いがカバーし合ってふつーの人に混ざれてる感じ………。正直、単品と一緒だったら嫌だけど、二人一緒の時のあの居心地のよさったらないよ……!大体、この学舎の一期生で、今まで実践演習失敗なしで、神殿からもギルドからも依頼が来る程優秀なコンビ!うぅ~、最っ高!あの二人の傍にいるだけで、なんか楽しいの!日常から離れられるっていうか…………。あぁ、幸せっていうかね……!」


 アイリーは目をキラキラと輝かせながら、二人の先輩について熱く語った。そのせいで、注意がおろそかになり、周りをちゃんと見れていなかった。そして、ふわふわした足取りのまま、ふっと脇道を出て、本道に飛び出してしまった。

 ちょうどその時、苦笑していたホリィの耳に、遠くからすごい速さで近づいてくる馬車の音が聞こえた。はっとして、叫んだ。


「ばかっ、アイリー、危ない!」

「えっ…?」


 アイリーは、その時になってやっと、すごいスピードで近づいてくる馬車に気がついた。

 御者台で、慌てている二人の先輩の姿が見えた。そして、悟った。


(轢かれる!)


「きゃ…っ」

「アイリー!!」


 ホリィは、とっさに飛び出せなかった。それどころか、次に待ち受けるであろう悲惨な光景を想像して、思わず目を瞑っていた。




 その少し前、アデルは、馬車のスピードがヤバいことに気づき、ずっと必死に速度を落とすようにユアンに説明していた。大声を出しすぎて、少しのどが痛い。

 明らかにこのままでは学舎を超通過することは伝えられたが、今までスピードを落とす練習をしていなかったため、なかなか上手くいかない。スピードが早すぎて、ユアンと交代もできない。ほとほと途方にくれていた。

 そんな中、猛スピードを出している馬車の少し前方に、見知った姿が飛び出してくるのが見えた。


「嘘でしょ…っ!ユアン、止まれ!!人がいる!」

「え!?そんな、急に言われても…っ!」

「貸して!イディーアン、スピード落として!」

 

 アデルは、そう言うが早いか、ユアンから手綱を奪い取った。そして、イディーアンは、アデルがそう叫んだ時には、もうスピードを落とし始めていた。しかし、いかんせんスピードが出すぎていた。間に合わない。

 覚悟を決め、アデルは馬車の上に立ち上がった。ユアンの襟首をがっしりと掴む。


「イディーアン!脇に逸れて!」

「アデル!?」

「危ないから、身体丸めて受け身とってよね、ユアン!」


 言うなり、アデルはユアンを馬車の中に渾身の力で放り込んだ。ユアンが受け身をとれたかは…確認する余裕がない。ユアンの反射神経に期待する。

 言われたとおりにわき道に逸れたイディーアンが、藪につっこむ前に神海へと還す。大きなイディーアンの姿が、空気に溶けるようにゆらめき、一瞬で消える。

 急に変わった方向に対応出来ず、牽き手を失った馬車がバランスを崩して横倒しになる。しかし、つきすぎた勢いは、慣性の法則に従い、屋根からアイリーに向かって突き進む。どうしたって避けられない。

 真っ青になって身を堅くしているアイリーの顔が、アデルの目にもはっきりと見えた。


「間に合え…!」


 横倒しに巻き込まれながら、不安定な御者台からアイリーに向かって全力で跳んだ。


 そして、馬車が人にぶつかる、鈍い音が聞こえた。


 アデルは無駄に苦労性。某相方のおかげで、何でも一人で解決したがる傾向にあります。

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