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素人が勢いだけで投稿してしまったものです。

読みにくかったり、展開がおかしかったりなど、粗が多いと思います。

それでもいいという寛大な方は、どうぞお読みください。

 この世界には、共人(ともびと)と呼ばれる、神海に生きる『さかな』達を自在に呼び出し、操ることのできる人間たちがいる。


 その昔、人間があまりに自惚れ、世界を壊しかけたことがあった。神は、あまりの醜さに激昂し、世界を神界の海と繋げ、世界そのものを海の底に沈めてしまった。

 神海の海水は、心悪しきものたちのみを滅ぼし、世界を浄化し始めた。


 しかし世界の浄化には、気が遠くなるほど、長い年月が必要だった。

 永く神界の海に生きているうちに、生き物の一部が進化を遂げた。神界の海水に適応し、この世とは異なる理を持つ存在になったそれらを、人々は畏敬の念を込めて『さかな』とよんだ。


 神界の海水のなかで、世界が美しい姿を取り戻したとき、『さかな』の種類は多岐にわたっていた。そのなかには、神の使わした御使いもまざっていた。

 神は、世界を元に戻そうとしたが、変質してしまった彼らを海水と共に神界に戻すこともできず、かといって世界に留めるわけにもいかず、神界と世界の間に神海を作られた。

 また、世界から引き上げる際、再び世界が荒廃しないように、自らの血で神獣を生み出し、世界の監視者として残すことにされた。

 そうして神は神界に戻り、『さかな』は神海へと移り、世界には、元々の生き物と神獣が残された。


 それから時は経ち、世界は再び人が支配するようになっていた。神の怒りは、御伽噺に姿を変え、人の心は、戒めを忘れ、再び同じ過ちへと歩みを進めていた……。




滝のような雨が降る中を、一台の馬車が走っていた。その馬車は、雨で視界がほとんどないなか、かなりのスピードを出していた。

 しかも、ほとんど舗装されていない街中の道を。

 いつ、人を轢いてもおかしくないし、ちょっとした運転ミスで、今すぐ大事故になっても全く不思議ではない。むしろ、無事に走り続けている現状の方が異常だ。

 そんな常人なら絶対に乗れないだろう恐怖の馬車の御者台に、男が一人座って、ぶつぶつと文句を言っていた。まだ若い、17歳くらいの青年だ。


「だいたい、寝坊したのはユアンでしょ!なのに、なんで俺がこんなおっそろしい事しないといけないのっ!?」


 この場合の恐ろしいこととは視界ゼロの中猛スピードで走る馬車を操ることであると推測される。

 どうやら、彼はまだ常人の感覚を持っていたようだ。まあ、この馬車を操っている時点で、感覚を持っているだけで常人ではないことは明白なのだが。

 そんな彼に、馬車の中から声がかけられた。


「だから、ごめんってば。でも、アデルは私に運転させたくないのだろう?」


 激しい雨音と、車輪の回る大きな音とで、聞き取ることは難しかったが、よく通る低い男の声だった。

 そんなつもりは全くないのに、自然と耳が声を拾ってしまうのだ。その言葉を聞くと、御者台に座っている少年、アデルはむぅっと唸った。

 雨に濡れて長い髪が顔に張り付いている。春先とはいえ、雨が降っていて寒いし、おまけにびしょ濡れになっているから、それは辛いに違いない。しかも、猛スピードで走っているせいで、雨粒が痛い。物凄く痛い。特に、顔とか露出している部分が。

 だが、アデルにはそれでも自分が運転しなければならない理由があった。


「…だって、ユアンに運転させたら、間違いなく事故るでしょ…」


 さすがにそれはまずい。いくら遅刻しそうなこの事態がユアンのせいであっても、なおさら事態を悪くすることは避けたい。

 

 腹が立っていても、そのくらいのことを考えられるだけの理性は、まだ何とか残っているのだ。

 大分ギリギリで残っているというか、しがみついているといった方が近いのかも知れない。しかし、彼の崖っぷちの気持ちは伝わらなかったようだ。


「大丈夫だよ。この間練習したし。前ほどではないよ。ねぇイディーアン?」


 ユアンはそんな必死のアデルをそっちのけで、お気楽に馬に話しかけた。話しかけられたイディーアンは、それに沈黙を持って返した。


「ユアン、イディーアンは走るので精一杯なの。ユアンの話に反応する余裕はないの。ただでさえ視界が悪いのに!!」


 沈黙の馬イディーアンをアデルは庇った。確かにこんな悪天候の中、猛スピードでかっ飛ばしている馬の注意を引こうとするユアンは、馬鹿だとしか言いようがなかった。


「この程度の雨、イディーアンには問題ないだろう?」

「雨と『海』とは違うっての!!じゃあ聞くけど、ユアンは水の中で泡がたくさん出てきてもよく見えるっ?」


 ユアンはしばし考えた。アデルも静かにそれを待つ。

 ザァザァという音と、馬車の車輪がガタガタいう音、そして雨の打ちつける音だけが響いた。


「……見えない、ね…」


 ようやくユアンが結論を出したのは、10分くらいたってからだった。その頃には、アデルはなんかもうどうでもいい気分になっていた。


「…そんなに考えることかっとツッコミたい気もするけど…まあいいや。つまりはそういうことだよ」

「ふうん…。そんなものか。でもさ、イディーアンには、乾燥しているより、このくらいの雨の方がいいのではない?」


 雨の方がいいと言われたように、実際イディーアンは生き生きと淡い水色の毛皮を輝かせている。

 ふつうの馬ではありえない毛の色だ。実際、イディーアンはふつうの馬ではないので、そこのところに問題はない。雨で生き生きして見えるのも、元々水中に住んでいるようなものだからだ。


「だから、視界の問題だってば。いい?ユアン、今度口利いたら、御者台交代してよ」


 ユアンのあまりにも惚けくさった物言いに、ついに、辛うじて保たれていたアデルの理性もプッツンしたのかと思われた。

 まず、暇なときにユアンが黙ることなど有り得ないし、アデルはユアンのことを誰よりも理解している。たとえ天地がひっくり返ったとしても、これだけは断言できた。

 それだけに、自分の事をよく理解しているユアンにとっても、この発言は意外だった。そのため、速攻で禁を破ることになってしまった。


「いいの?私が動かしても?」

「はい。今しゃべったから交代。平気でしょ?もうあそこに“学舎”見えてるんだし。」


 アデルの示す方向には、巨大な屋敷がそびえていた。いつの間にか町もぬけ、森の中を走っていた。視界が全くないことと、考えに夢中になっていたせいで、ユアンは気づかなかったのだ。

 確かに、森の深部であるここならば、普段から人もいないので、人を牽く心配は少ない。第一、いくら状況が悪くても、イディーアンは常に細心の注意を払って動いているので、たとえどんなに小さな虫であろうとも、傷つけることはしない。

 これ以上無いほど心根の優しい馬。それがイディーアンだ。だというのに、そんな半分慈悲で出来ているようなイディーアンでさえ凶器にしてしまえるほど、ユアンの操縦は下手なのだった。


「だいぶ時間も稼いだし、ゆっくり行ってもこの距離なら余裕っしょ?練習がてら交代しよ」


 賢いイディーアンは、アデルのその言葉で速度を落とし始めた。雨音と蹄の音が少しずつ落ち着いてくる。


「ありがとう、イディーアン。そろそろ止まって?」


 イディーアンは摩擦などを利用して、静かに止まった。まさに計算され尽くしたような完璧な止まり方だ。およそ並の馬にできる芸当ではない。

 それを確認すると、アデルは馬車の中に向かって声をかけた。


「ほら、俺が横で見てるから、やってみ」


 すると、馬車の扉が開き、アデルと同じくらいの青年が出てきた。かなり整っている部類に入るだろう顔立ちは、匂い立つような品性を感じさせる。美しい金の髪、碧の瞳と、なめらかな白い肌が、彼をまるで絵本の中の王子様のように見せていた。浮き世離れした頭の中とあいまって、実際彼のあだ名は王子だった。


「了解。よろしくね、イディーアン♪」


 もちろんイディーアンがよろしくなどしたくないのは明白だった。爽やかな口調が、よりアデルとイディーアンの不安を掻き立てた。

 ユアンは、場所を譲ったアデルのそばに優雅に腰掛け、優雅に手綱を握り、優雅に手綱を引いた。イディーアンはビクビクしながらも、ユアンに従い、ポクポクと進み始めた。

 しかし、少しも行かないうちに、


「まてっ、ユアンそっちは入らずの森だ!!というかすでに道じゃない!!」やら、

「このまま行ったら底なし沼だ!そしてよく見るんだ、俺たちの現在地は川の中だ!!」とか、

「ここで加速したら、カーブ曲がれないでしょ!?あの崖は即死できる高さだよ!?」

「なる程、ということは、今このまま行けば、人間死ぬときは独りという運命を覆せるんだね…」

「いやいや待てって!俺とイディーアンを巻き込むなよ!!一人で逝ってね!?」

 

 などと、アデルに多量に軌道修正されていた。

 

 僅か20分くらいの間に、大雨の中2時間走り通したときよりも遙かに疲れはてたアデルが出来上がった。しかし、その頃には、アデルの教えにより大分上達したユアンがいた。といっても、元がかなりひどいので、普通に毛が生えた程度だが、十分上達したと言えた。

 そんな感じで、ポックポックと平和に行っていたのだが、やはり安らぎとは長くは続かないもので、ユアンが急にアデルに話し掛けた。


「ねぇアデル。このままじゃ私たち遅刻するのではない?」


 その言葉について深く考えられるだけの力は、悲しいかなアデルには残っていなかった。


「ん…。あー…。そーかもね…。いいや、もう無事にたどり着けたらそれだけで…」


 ユアンはアデルの言葉にしばし首を傾け、頷いた。


「そうだね。じゃあちょっと急ごうか。イディーアン!」


 ポックポックカッカッカッガタゴトガタゴト…


 ぐったりと疲れ果てていたアデルは、徐々に馬車が速度を上げていることに気づくのが遅れた。普段の、ユアンを知り尽くした冷静なアデルなら、まずしでかさないミスだった。気づいた頃には、結構危険なスピードになっていた。


「…ちょっ、えっ、ユアンっ、やめっ、止め…っ!!」

「えっ、アデル、何か言った!?」


 上達したことに気を良くし、ハイになっているユアンには、馬車のたてる音が大きいこともあって、アデルの言葉は届かなかった。

 かくして、危険だらけの“海の大森林”にひとりの青年の悲鳴が響く事となったのだが、悲劇はそれだけでは終わらなかった。



 この後、彼ら(主にアデルとイディーアン)の抱いた不安は、まさに最悪の形で襲いかかるのだった。


拙い文章にお付き合い下さり、ありがとうございました!

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