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第8話 神楽

ざわざわ・・・。


バスから降りて例の店へと歩みを進めていた5人は、何かしらの違和感を感じた。


「なあ、なんかさっきからうるさくないか?」

「確かに妙に騒々しい気がするな。」

「何かあってるのかしらね?」

「そんなん決まっとるやんけ。ミスコンでもあってんねや~。」


浩史を完全スルーした4人だが、慎太郎だけ何かを感じ取っていた。


「・・・・・この気配、喧嘩。」

「喧嘩? ・・・なるほど。それで周りが野次を飛ばしてるってわけか。」

「厄介なことには首を突っ込みたくないけど・・・京介さん。確か六丁目に行くためには、この道と『あの道』しかありませんでしたよね?」

「『あの道』が道と呼べるかは疑問だが・・・まあ、『あの道』は通りたくないな。仕方ないか。ここを通っていこう。」


ガヤガヤとした街道を進むが、そこで明確に異変が起きる。


「──ああ、もう!! いい加減に納得しやがれアホ女!! もうそれはいらないから、二度と俺の前に現れるな! 分かったか!!」


野太い声が聞こえたかと思うと、5人の中に割って入ってくる何かが現れた。

──より正確には、突き飛ばされる形で。


「──!?」


その『何か』は瑠衣の体ごと吹っ飛ばし、傍にあったショウウィンドウを粉々に砕いた。

事態を理解しないまま4人は、瑠衣と突き飛ばされた『何か』に駆け寄る。


「大丈夫か、瑠衣!!」

「・・・まあ、なんとか・・・。」


そう答える瑠衣だが、その体には無数のガラス片が突き刺さっている。

一方、瑠衣を突き飛ばす形で店のウィンドウを砕いたもう少女は、


「・・・・・。」


瑠衣と同じく体中にガラス片が散らばっているが、大したことはない、という体でスクッと立ち上がり、野太い声の音源から飛んできた財布のような入れ物を拾った。

そして、


「・・・・・笑止、その程度の、力か、」


そして突き飛ばした男に向かい、素早く肉迫し──


「ッッ!?」

「・・・・・必然、私が負ける、理由は、無し、」


一瞬で頸動脈を制圧していた。

周りから歓声と拍手の嵐が巻き起こる。

しかし少女はそれに応えることなく、その場を立ち去った。

響めく街角で、4人は呆然としていた。



                    ☆



「しっかしこれは、派手に怪我したもんだねぇ・・・俺。」


全身血だらけ、とまではいかないが、所々に出血が見られていた瑠衣は、京介たちに支えられながら四丁目を抜け、例の店へと辿りついていた。

そして店員に事情を話し、とりあえず怪我の手当をするということで通された部屋で包帯を巻いていたところ、ある人物が奥から出てきた。


「・・・・・謝辞、先程は、申し訳なかった、」


そう、あの場で大衆を湧かせていた少女だ。

見ればその少女は、昨日登校時に瑠衣たちを見つめて(?)いた少女であり、こちらに向かって頭を下げていた。


「いや、俺も大した怪我ではなかったし、別にいいんだけど・・・。」


それに対して瑠衣は、可愛い娘に謝られる、というオイシイポジションについており、浩史と慎太郎から発せられる異様なプレッシャーのせいで動きが固くなってしまう。


「・・・・・醜態、見苦しいとは承知、しかし、申し訳を、聞いてはいただけぬだろうか、」


やがて顔を上げた少女は、その端正な顔を歪め、苦渋に満ちた表情をしていた。

5人は一旦顔を見合わせると、


「そんな大袈裟にしてもらわなくてもいいんだけど・・・一応聞かせてもらおうかな。」


新品の畳に座り直し、少女の方へと向き直った。




「・・・・・感謝、最初に、我の名は、神先かんざき 神楽かぐらと申す、」


5人と同じように畳に座った少女は、自分のことを 神崎 神楽 と名乗った。

漢字に『神』だらけだな、などと5人は考えながら、続く言葉を待つ。


「・・・・・静寂、それも又良し、・・・・・我の祖先は、元は、ここら一帯の、地主でも、あった、・・・・・しかし、あるとき、止むに止まれぬ、事情により、幻谷浜げんこくはまに、越すことに、なった、」

「幻谷浜って?」


幻谷浜という地名に聞き覚えのない瑠衣は、素直に周囲へ質問した。


「ここから少し離れた山の中だな。かなりの田舎だが、空気が綺麗だし滝や木々といった自然が溢れてるから、中高年の層には多少なりとも人気があるらしい。」

「それにあそこには、名前の由来でもある『幻の谷』があるらしくてね。噂に過ぎないけど、その森のどこかにこの世とは思えないほどきれいな花々が咲き誇る谷があるらしいわ。ただ、名前の通り幻のままで・・・一切その場所の記録は残されていないそうよ。」

「・・・・・ただ見つかっていないのか、元からそんなものは無いのか、それとももっと別の理由・・・見つけた奴が全員死んでいるのか。色々な可能性として仮説は飛んでいるが、どれも定かではない。」


なるほど、と瑠衣が頷くと、その反応を待っていたように神楽が話を戻す。


「・・・・・無事、それからは、何も起きず、我も、たった最近まで、幻谷浜で、暮らしていた、」


神妙な空気が漂う部屋の中、神楽はさらに話を進める。


「・・・・・無情、しかし、最近、この土地に残っていた、叔父が、亡くなった、・・・・・その葬儀で、我は、棺の中から、叔父が書いた、手紙を、見つけた、」

「手紙? 一体どんな?」


間髪容れずに質問する瑠衣に、若干戸惑いながらも神楽は、その問いに丁寧に答えていった。


「・・・・・熟慮、・・・・・確か、大体の、内容は、『この手紙を見たものに伝える。どうか、俺の探し続けていたものを見つけ出して欲しい。それは形を変え続けているから、見つけ出すことは難しいと思う。だが、あれがないと──』」


そこで神楽が、話を止める。

周囲は続く言葉を待ったが、しばらくして神楽から発せられた言葉からは、何一つ望む答えは出てこなかった。


「・・・・・謝辞、ここから先は、手紙の文字が、かすれていて、読むことが、できなかった、」


正座の体勢から座礼をした神楽を5人は止めながらも、しかしその表情は残念そうだった。


「そうか。・・・しかし、その『何か』がないとどうなるんだろうな?」

「確かに気になりますね。『何か』の正体も、何が起こるのかも。」


そんな何気ない瑠衣の言葉が終わった瞬間、ほぼ同時に神楽が口を開いた。


「・・・・・概況、既に、『何か』の正体なら、わかっている、」

「「「「「・・・は?」」」」」


その発言は5人の想像を遥かに超えたものであり、5人は反応が遅れてしまう。

しかしそんなことはお構いなしと、神楽はさらに言葉を続けた。


「・・・・・『何か』は、形を、変え続ける、・・・・・しかし、その正体を、突き止め、先程、無事、手に入れることが、できた、」


そして神楽は、おもむろにポケットから『何か』を取り出した。

それは、先程男が投げ捨てたはずの、財布のような布切れだった。

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