第7話 車中にて
「で、瑠衣、美樹。例の物を売ったのはどこの店なんだ?」
「えーと・・・確か、六丁目に新しくできたコンビニみたいな店だったんだけど・・・。」
「六丁目に店? そんなもんができていたのか。」
瑠衣と京介が先頭に立ち、その後ろに3人がついていく形で街の中を進む。
周りを山に囲まれ流石に都会とまでは言えないが、それなりに文化や交通網も発展してきた街なので、気を抜くと偶に出くわす人集に流されてしまいそうだ。
「なあ、いっさん。これ、俺行く必要あるのか?」
「・・・・・邪魔。」
「浩史は迷惑ね。・・・主に私たち視点で。」
そんな中、ただでさえ殆ど関係のない浩史は酷い扱いを受けており、おまけに余所見をしたせいで電柱にぶつかるなど、不幸に見舞われ過ぎなのであった。
「俺、帰ろうかな・・・。」
「浩史、お前が今帰ったら後でボコボコにするからな。」
「一応浩史も『謝るから』という理由で早退扱いにしてるんだ。それが教師に『遊ぶために』早退したと後で知られたら・・・どうなるかなぁ?」
「・・・・・道連れ。」
「浩史にも少なからず責任はあるからね。」
「・・・・・。」
おまけに言外に『逃げたら殺す』とまで言われ、声を押し殺してさめざめと泣く浩史だった。
「しかし、六丁目となると・・・ここからバスで行くことになるな。」
京介が呟くと、すぐさま全員財布の中を確認する。
・・・のだが、
「──しまった。俺、美樹にごっそり持ってかれたんだった。」
「俺はいっさんに一気に持ってかれた。」
「・・・・・そもそもの財布がない。」
「え? 財布の金額分しかお金持ってきてない・・・。」
「全く、お前らは・・・。まあ、バス代くらいは奢ってやるから早く行くぞ。丁度バスが来たみたいだしな。」
京介が見た方に視線をずらせば、確かにそこにバスが止まっていた。
そこそこの広さがあるとは言えど、たかが一つの街程度にいくつものバスは走っていない。
この宇美白には、基本的に全てのバスが停まるバス停が存在するのだ。
つまり、どのバスに乗ろうが関係無く同じバス停を最低一回は通るということなので、いくらバスのデザインが違おうが全く関係無い。
行き先の表示を見ぬままに、京介一行はバスに乗った。
──バスに揺られること数十分──
「なんかおかしくないか? 全然目的地に着かない気がするんだが。」
京介が言った。
確かに、宇美白はそんなに広い街ではない。車なら少しの時間があれば一周できるようなものなのだが・・・。
「六丁目までだし、15,6分で着くと思ったんだが・・・。」
「浩史、ちょっと路線図見てきてくれないか?」
そこで浩史に話が振られる。
勿論、こういう面倒臭い役は皆したくないので、ちょっとした振りからでも周りは空気を作り上げることができる。
即ち、
「まあ、一番近くにいるからしょうがないわよね。」
「・・・・・いちいち俺達が行くよりは、そっちのほうが楽。」
「ということで、浩史。」
「行ってきてくれ。」
「ええ!? なんかさっきから俺の扱いが悪化してない!? 俺ってそんな役回りばっかだけど!?」
バスの中にもかかわらず、大声を張り上げて抗議する浩史。
それに対して周りは、迷惑にもなるし面倒臭いからごちゃごちゃ言わずにさっさと行けよ、という視線で対抗する。
結局、4人以外の乗客からも睨まれて、何も言えなくなった浩史は、
「なんで俺こんな目に遭ってるんだろ・・・。」
悲しみに明け暮れながらの一言は、人生を達観しているのではないかと思える程に落胆していた。
「・・・えーと・・・。本日は六丁目付近の事故のために、一部路線を変更して運行しております・・・? てことは、六丁目は通らないのかな?」
首を傾げる浩史に、浩史の独り言を聞いていたのか、バスの運転手が言う。
「今日は六丁目のバス停で交通事故が起きちゃってねぇ・・・警察が現場検証をするって言うんで、近くに寄れない状況なんだよ。悪いねぇ。」
「あ、いえ、大丈夫です。教えて頂いてありがとうございます。」
大体の経緯を教えてもらった浩史は、最後部座席でのんびりと待っていた4人に報告する。
「そうか。じゃあ、六丁目から一番近いバス停・・・四丁目あたりで降りて、そっからは歩いていくか。最近六丁目の方には足を伸ばしてなかったし、いい気分転換になるだろう。」
「そうですね。美樹、慎太郎、それでいいよな?」
「うん、私は別にいいわよ。」
「・・・・・異論は無い。」
そこで自分の名がなかったことに不満を持った浩史は、瑠衣に問う。
「ねえ、俺には聞かないの?」
「お前は別にどうでもいいからな。なんと言おうと引き摺ってでも連れて行くから、聞く意味がない。」
「・・・最早俺って、犬以下の扱いなんだね。」
「浩史、言葉の使い方を間違えてるぞ。『以下』じゃなくて、『未満』だ。」
あまりの扱いに浩史が涙するが、それに感化される者などいる訳もなく。
浩史の『僕は悲しいです』アピールは、誰にもフォローされずに存在を消した。