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第4話 異常の始まり

2日目


「はぁ・・・とんでもなく最悪な一日だった・・・。」


浩史と慎太郎が教室に入り、真っ先に見たものは、机でうなだれている瑠衣の姿だった。


「その様子だと、だいぶ絞られたみたいだな。」

「・・・・・ご愁傷様。」


二人は彼に向かって声をかけるが、しかし返事がない。

どのくらい持って行かれたのか気になった彼らは、瑠衣に聞こうとしたのだが、先に瑠衣が何かを言った。


「・・・・・・あと、千円。」


その一言には、昨日の屈辱、悲しみ、怒りなど、その他諸々な感情が全て注ぎ込まれているようにも聞こえた。


「千円とはまた・・・えらく持って行かれたなぁ。」

「・・・・・節約云々でどうにかできる額じゃない。」

「今後一年間、俺はどうやって生活すればいいんだ・・・こんなんじゃ、カラオケ1回行っただけで終わりじゃねぇか・・・・・。」

「まあ、そう気を落とすなって。帰りになにか奢ってやるからさ。」

「・・・・・俺たちだって金を取られた。」


二人に励まされる瑠衣だが、しかし元気が出る素振りは見られない。

どうしたものか、と二人が頭を悩ませている時に、彼女は現れた。


「おっはよ~・・・って、なんでこんなに暗い雰囲気になってんの?」


この事態を招いた元凶である、美樹だ。

朝っぱらからハイテンションである彼女は、昨日瑠衣から巻き上げたと思われる大金を見せびらかせており、そちらをちらりと見た瑠衣は、さらに落ち込んでしまって。

彼のテンションはまるで二次関数のグラフ(比例定数は負)のように下っていった。


「そーれにしても、昨日はいいタイミングで収入があったなぁ。ちょうど新曲が出てて、でも金欠で買えなかったんだよねぇ・・・。それが、黒蜜堂のプリンと一緒に、1万円を超える大金まで転がり込んできて・・・。瑠衣、ごっつぁんです!!」


皆さんは、反比例というものをご存知だろうか。

それは一般に、片方が上がれば片方が下がる(一部を除く)・・・といったものなのだが、まさに美樹のテンションと瑠衣のテンションは、それを体現したようになっていた。


「・・・・・因みに・・・・・慎太郎の財布だが。」

「?」


と、そこで、テンション逆MAX状態の瑠衣が呟く。

その呟きに嫌なものを感じたのか、慎太郎が体を震わせる。

そんな様子にも構わず、瑠衣は続ける。


「慎太郎の・・・財布は・・・・・美樹に金を払うために・・・・・売った。」

「・・・・・え?」

「・・・・・俺の持ってた金じゃ・・・・・足りなくなったから・・・売って・・・足しにした。」

「!?!?!?」


衝撃のカミングアウトに驚いた慎太郎は、文字通り固まっていた。


「そうそう。瑠衣のお金だけじゃ足りなくなったからさ、前に慎太郎が自慢してた財布を売っちゃったんだよね~。それが意外に高値がついたもんだから、瑠衣のもとにも千円が返ってきたんだよ。」

「ってことは、実質一番の被害者は、いっさんじゃなくて慎太郎なん?」

「ああ・・・・・最終的には・・・・・そうなる・・・・・。」

「・・・・・なんということを・・・・・ッッ!!」

「だから、慎太郎も・・・ごっつぁんです!!」


再び美樹が手元の札をひらひらさせる。

状況はほぼ変わらないが、唯一変わったのは、励ます側にいた慎太郎が落ち込む側にいることぐらいだろう。


「・・・・・慎太郎・・・・・お前の気持ち・・・・・わかるぞ・・・・・。」

「・・・・・あの財布は・・・・・ものすごく高かった・・・・・。」

「・・・・・慎太郎・・・・・でもな・・・・・起きてしまったことは・・・・・取り返しが・・・・・つかないんだ・・・・・。」

「・・・・・あの財布・・・・・折角・・・手に入れたのに・・・・・ッッ!!」


なにか尋常じゃないほどのどす黒いオーラが慎太郎から立ち上るが、それに反応するのは瑠衣程度のものであり、ホクホク顔の美樹には微塵も届かない。

小中高の一貫校であるこの学校は、人数が足りないために全ての生徒が同じクラスに配属されている。

なので、彼が立ち上らせるオーラに『お気の毒に・・・。』といった視線を向ける奴もなかにはいるのだが、いかんせん彼らは小学生である。このような時にどう声をかけたらいいのかもわからないし、ならば高校生が励ましたらいいじゃないか、と思うのだが、実は高校生はこの学校には1人しかおらず、その生徒はまだ学校に来ていなかった。


「まあ二人共、元気出しなよ。確かにちょっと額が大きかったかもしれないけど、そこはホラ、自己責任でさ?」


そんな彼らに、美樹は明るく声をかけた。少しは罪悪感を感じているのか、その顔には多少の反省の色が伺える。

しかしすぐにそれを引っ込めると、彼女は二人をさらにからかいにかかった。


「そんなに落ち込むことないじゃない? ほら、早く元気出さないとこうしちゃうぞ~?」


言った途端に、机に突っ伏す瑠衣の上から抱きつく彼女。

あまりの出来事に驚いた彼は、目を白黒させながら飛び上がり、


「わ、わ!?」


よくわからない奇声を発していた。

彼女いない歴=年齢である彼からすれば、それは重大事件だった。

顔を赤らめながら必死に美樹を引き離そうとする彼を満足そうに見たあと、美樹は次のターゲットに移った。


「わっ!」


そんな声と共に慎太郎に抱きついた美樹だったが、抱きつかれた彼の反応は、周りが予想したものを遥かに超えていた。

呆然としていた彼は、美樹が抱きついてきたあと──



ガシャァァン!!



──彼女を思い切り突き飛ばし、並べられた机に叩きつけた。

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