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第3話 盛者必衰

『これで帰りのHRを終わります。起立、礼!』


前の教壇に立っている今日の日直だった生徒が号令をかけるのを横目に、瑠衣はポケットから財布を取り出した。

・・・自分のものではなく、朝慎太郎から没収したものだ。

それを出したのと同時に、慎太郎から恨みがましい視線が向けられたのだが、彼はそんなことなど気にせずに、真っ直ぐに美樹の元へと向かった。


「さて、例のモノを買いに行こうか。」

「あれ? 朝はあんだけ暗かったのに、やけに明るくなったね。校内で100円玉でも見つけた?」

「ん? ああ、まあ、臨時収入があったからな。」


その臨時収入が同級生からパクったものだとは言えまい。


「さ~て、黒蜜堂に行ったあとはゲームでもすっかな! 浩史、慎太郎、今日来るか? 俺ならいつでもリベンジの相手してやるぞ?」


そんな言葉と共に、挑発的な態度をとる。

実はこいつら、『Hard Boxing X』という格闘ゲームで、俺に10連敗くらいしていたりする。

本体とカセットの両方を持ってなかったので多少高い買い物にはなったが、いい物を買ったと思う。

CPUも強いし、単純な分飽きが来ないし、実力差が出やすい。

結局実力差が出やすすぎたせいで、強い方は何十連勝もしたりするのだが。

おかげで負け続けた慎太郎たちからは、合法的な賭け(笑)の賞金を巻き上げることができたので、彼はホクホク顔なのだ。


「・・・・・今日のレートは?」

「こないだみたいなレートだとお前らが可哀想だからなぁ・・・w 今日は賭け無しでやってやってもいいぞ?」

「いっさん、負けるのが怖いんか? こないだ勝ちすぎたせいで今日は負けるかもー、なんて考える引けりだったかなー?」


それに対して、浩史も挑発的な態度で返す。


「ほう。なら、今日もこないだのレートでいいんだな? 負けても知らんぞ?」

「・・・・・望むところ。」

「こないだの分を巻き返したる!」


因みに前回のレートでは、一回負けると勝った人に200円、2回負けると、200×2で400円、3回負けると400×2で800円といったように、賞金が倍になっていくレートでやった。

結果、二人に5連勝ずつしたので、一人3200円×2で6400円もの大金を得ることになってしまった。

しかし慎太郎と浩史は全く懲りておらず、(全く学習能力がないのか)再び同じレートでやるという。

今日も勝ち続けたら二人があまりにも可哀想だ、という考えで賭け無しのゲームを提案した瑠衣だったのだが、逆効果だったようだ。


「なら、決まりだな。黒蜜堂に行ったらその足で家まで来いよ。どうせ慎太郎は実質一人暮らしだし、浩史の家も夜以外は留守だろ?」

「・・・・・問題ない。」

「さっさとやること済ませてリベンジタイムだなー。」

「へー。浩史たちは瑠衣の家で遊ぶんだー。そうだなー・・・暇だし、私も行っていい?」


と、ここで、瑠衣の予想外な展開が起きた。

三人の会話を隣で聞いていた美樹が、瑠衣たちと一緒に遊びたいと言うのだ。

勿論、彼女いない歴=年齢よろしくな彼らなので、美女がいるかいないかで言われたらいる方が圧倒的にいいのだが、忘れてはならないことが一つある。


『いくら女子とは言え、反射神経及び運動神経が男子よりいい奴に格ゲーなどをやらせたら、どうなるか。』


結果は、火を見るより明らかである。

いくらゲーム慣れをしている瑠衣であっても、そもそもの飲み込みが早い彼女が来れば、たちまち借金の嵐である。

無論、それは浩史や慎太郎にも適用されるので、三人の心は決まった。

・・・のだが、


「しまった、今日は爺ちゃんの法事だった。いっさん、悪いが俺は降りるぜ。」

「・・・・・そういえば、叔父の家に行かなければならなかった。悪いが、俺も止めておこう。」


言いだしっぺである自分が、『用事を思い出した。』などと言ったら不思議ではなかろうか。

そんな矛盾によって、慎太郎たちには出来た『用事を思い出したから遊べない』という言い訳が、瑠衣には出来なかった。

しかし他に策が思い浮かぶわけでもなく。


「そっかー。二人は遊べないのかー。なら、私と瑠衣だけで遊ぶことになるねー。」


瑠衣の頭の中で、『早く逃げろ! お前は借金塗れになりたいのか!?』という緊急警報がグワングワン鳴っているのだが、当の本人は言い訳が全く思い浮かばず、フリーズしてしまった。


「ああ、残念だなぁ。折角女子と遊ぶ機会ができたのに、法事で遊べないなんて。」

「・・・・・心から瑠衣を羨ましく思う。」

「お前ら絶対わかってて言ってるよな!?」


最終的には浩史たちに釘を刺されてしまい、とうとう逃げることが不可能になってしまう。

ダメ押しと言わんばかりに、最後には、


「そういえば、瑠衣はさっき、賭けがどうのこうのって言ってたよね? それって、勝ち負けで負けたほうが罰ゲームとか、そういうやつなの?」


唯一残っていた、『美樹が賭けについて聞いていない可能性』まで消えてしまって。

瑠衣の心はまるで、K.O.寸前のボクサーのようにボロボロになっていた。

そして。











その日、浩史たちから巻き上げた6400円と、瑠衣の手持ちであった6400円、総計12800円が美樹の手に収まり、瑠衣は盛者必衰の理を学んだ。












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