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晴れのち僕と彼女

晴れのち僕と彼女

作者:

『晴れのち僕と知らない彼女』


 それは5月終わり頃の良く晴れた別に珍しくない日に起こった。

 僕は普通の高校生で、彼女のことを普通の女の子だと思っていた。


 僕は川原を歩いていた。普通なら学校で勉強しているはずの時間に。


 つまりサボっていた。


 僕は、身長はあるけどヒョロヒョロで、人と目が合うのが嫌で前髪を長くたらしていた。

 自分で言うのも変かもしれないけど、見かけからして根暗なやつだった。

 そんな僕は授業をサボるのも初めてで、校舎内は見回り先生に見つかりそうで嫌だし、かといってゲーセンやファミレスで堂々とサボることなんて出来る訳も無く、通学路の途中にある川原で時間を潰していた。

 川原に来たのはいいもの、僕はなにもすることが無く川に向かって石を投げたり、歩いたり、疲れたらしゃがんでみたりしていた。そんなことを何回か繰りかえし、また歩き出した時、初めて彼女を見た。

 彼女は僕と反対側から歩いてきた。ゆっくりゆっくり、けど確かに。

 僕はボ~っと彼女を見た。年齢は僕より少し年上そうだ。長く綺麗な黒髪を結ばずにそのまま流していて、とても彼女の整った顔と合っていた。

 あと少しで通り過ぎるというとき、彼女は僕の視線に気づいた。

「君、何しているの?」

 いきなり話かけられて僕は驚いた。

「い、いや何も・・・」

 僕はそういうと急いで逃げようとした。こんな平日の昼前に高校生が川原にいるわけがない。しかも僕は制服を着たまま・・・学校をサボってここにいることが一目で分かる。学校に連絡がいったらバレてしまう!!そんな考えが頭の中を巡って僕は逃げ出そうとした。

「待って」

 しかしそれはすぐに彼女に阻止された。元々とろい僕はいとも簡単に彼女に右腕をつかまれてしまった。

 どうしよう・・・学校に連絡が行ったら親にもバレる・・・・。

僕の背中を冷や汗が流れていく。しかし、彼女の言葉は僕が予想していたものとは全く違っていた。

「ねぇ!暇なんでしょう?」

「へ?」

 僕はバカみたいな返事をして彼女に振り向いた。そんな僕を見て彼女は少し笑いながら言った。

「暇だったら少し話さない?」

「え・・・」

「ね?」

 彼女はにっこり笑って言った。

「・・・はい」

 僕は思わず頷いてしまった。あんな顔をされて断れる人がいる分けがない。いるなら連れて来てください。それ位彼女の笑顔は綺麗だった。僕らはコンクリートの上に座り込んだ。

「ねぇ!君学校サボったの?」

「え!あ・・・はい」

 彼女はストレートに聞いてきた。僕はどうやってごまかそうかと思ったがこんな格好で言い訳をしても無駄だろうと思い素直にうなずいた。

「私もそんな感じ。脱け出してきたんだ」

 彼女は何でもないかのように普通に言った。

「え!大丈夫なんですか?」

 彼女は空を見上げていった。

「だってこんな天気のいい日に室内でじっとしているなんてもったいないじゃない」

 僕も空を見上げた。よく晴れた、けど特に珍しくない天気。

「君もきっとこんな天気じゃなかったら学校サボらなかったと思うよ」

 そうかもしれない。彼女の話を聞いて、なぜか僕は素直にそう思った。

 もし今日雨が降っていたら、僕はきっと教室からこの空を見ていただろう。

「そう・・・ですね」

 僕はそう答えながらコンクリートの上に寝転んだ。視界いっぱいに青空が入る。

 5月の日差しは温かく、風は僕の頬を優しくなでていった。ただそれだけだが、それがとても心地よかった。僕はゆっくり息を吐いた。ため息なんかではなく、ほっとして出た息。なんだかとても久しぶりに体の力が抜ける気がした。

「私も寝転んじゃおうかな」

 彼女も僕に習ってコンクリートの上に寝転んだ。彼女の綺麗な髪がなびく。

 それから僕らはしばらく話さなかった。ただ静かに流れていく雲を見て、風を感じていた。


 どのくらい時間がたっただろうか、僕はいつの間にか寝てしまっていた。彼女はもう帰ってしまっただろうと思いながら、僕は体を起こし伸びをした。ふと隣を見ると、彼女はまだ寝ていた。どうやら二人とも寝てしまっていたらしい。

 僕は学生カバンから携帯電話を取り出し時計を見た。11時50分。二時間近く寝ていたらしい。僕は起こそうと彼女を見た。見れば見るほど本当に綺麗な人だと思った。性格はあんなに明るいのに、それと反対に彼女の肌はとても白かった。寝ていると本当に人形のようだった。ずっと室内に居るのだろうか・・・そんなことを考えていたら彼女は目を覚ました。

「あぁ~いつの間にか寝ちゃったよ」

 彼女はそんなことを言いながら伸びをした。

「寝るのにはとても丁度いい天気でしたから」

 彼女は微笑みながらそうだねと言った。

「こんなにぐっすり寝たのは本当に久しぶり。君はいつもぐっすり眠れる?」

「大体は」

 僕は布団が代わろうが周りがうるさかろうが布団に入って10分もあればすぐに眠れる。

「いいね、まだまだ若いね。」

 彼女はやわらかく笑っていった。

「私は・・・夜なかなか寝むれないんだ。明日のことが心配で・・・明日も自分は居るのかなって・・・」

 彼女は悲しそうで、でも笑っているような顔で静かに言った。なぜか僕は、彼女はこのまま泣くのではないかと思った。見ているこっちが切なくなるような表情だったからだ。

「あ・・・あの・・・」

「あ!!今何時!?」

 僕が口を開いたとき彼女は焦った様子で僕に時間を聞いた。

「今は11時58分です」

 僕は携帯で時間を確認していった。

「私もう行かなくちゃ!!」

 そういうと彼女は勢い良く立ち上がり服についているごみを払った。僕も立ち上がり何も言わず、彼女の髪についていた葉を取った。

「あ!ありがとう!!あんまり学校サボっちゃだめだぞ!じゃあね」

 彼女は僕に背を向け来た道を早足で戻り始めた。

「あの!」

 僕は気づいたときには彼女を呼び止めていた。彼女はゆっくりと振り向く。長い髪が一緒にゆれる。

「えぇ~と・・・」

 僕は何も考えずに呼び止めてしまった。とりあえず何か言わないといけないと思い、言葉を探すが何も出てこない。そんな僕を見て彼女は笑って言った。

「またね」

「あ、うん。また」

 彼女は微笑みながら手を振って再びもと来た道を帰っていった。僕は彼女が見えなくなるまでその場に立っていた。なんだか朝と比べてとても体が軽い気がした。また彼女と会って話すことが出来るだろうか。

 僕は自分の服についたごみを払い、カバンを持った。この時間帯なら父さんは確実に仕事で居ないだろう。僕は空を見上げ、彼女が帰っていった道とは逆の道を歩いて家に帰った。




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