表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある騎士団員のとある過去話  作者: 柘榴石
幼馴染【アキハ・コクラン】
6/21

 銀色の筋が虚空に現れる。その直後、それを赤い絵の具で上塗りしていく。

 声すら無く、ただ無言で地面に伏せていく彼らが最期に見たのは、妹を守る為に奮闘する兄の姿だった。



 * * *



 コクランは一人、背中に大鎌を携え、山道を歩いていた。城下町ロザリアの裏道を通り、クァールトへと向かっている。

 キールの家があったのは東の町、カンパヌラ。そこからアキハ達が住むクァールトへ向かうとなると、国を横断することになる。歩いていける距離ではないが、今の状態を考えると、とても電車が出ているとは思えない。現に、ロザリアを通ったときに見た駅は無人だった。

 この足だと、いったい何日かかってしまうのだろうか。考えるだけで頭が痛くなる。

 けれど諦めるわけにはいかなかった。キールとの約束なのだ、絶対果たしてみせる。

 その意志が重荷になっているのかもしれないが、ともかくコクランは諦めようとはしていなかった。



 ようやくロザリアに差し掛かる。思わずコクランは立ち止まり、息を呑んだ。


 そこに広がっていたのは、思っていた以上に酷い光景。


 焼け焦げた家、折れた剣、飛び散った血。凄惨たる足跡を残しつつ、ソルティーナは侵攻を進めているようだ。

 城を陥落させる為には、クァールトを通らなければならない。勿論森を通るなら別だが、今更隠れる必要もないのだろう。

 爆発音が轟く。西の方向――クァールトに近いところで煙が上がっている。

「くそっ……!」

 どうか無事で――そう願い、コクランは走り出した。



 * * *



「大丈夫か、アキハ!」

「う、うん……」

 アキハは数回咳をする。シンヤはソルティーナ軍を睨み付け、ブロードソードを握った。

「……やめて!」

「!」

「ここでじっとしてなきゃ、死んじゃうよ」

 彼は肩をすくめる。妹の願いとあれば、無闇に出ていくわけにはいかない。――兵が言っているのが本当ならば、アキハを一人にしてしまうことになりかねない。


 ――キールが、死んだ。


 最強の傭兵、キールが。誰よりも頼れる存在だった、兄が。

 二人とも信じきれていない。しかし、複数の兵がそう話しているところをみると、真実なのは疑いようもない。

 血のついたブロードソードを少しはらい、鞘におさめる。先程の戦いで少し刃がこぼれてしまった。あとどれくらいもつだろうか?


「――!」


 誰かの声。聞きなれている感じがする。


 空を切る音。

 殺気。


 ――間に合わない。


 剣を抜くのが間に合わないと踏んだ彼は、咄嗟にアキハに覆い被さる。

 それは振り下ろされる。


「ぐぁああぁぁぁああああっ!!」


 肉が裂ける音がした。――シンヤは振り返る。

 その瞬間、ゆらりとその兵が倒れた。その先に、見慣れた姿があった。


「……コクラン!」



 正直助けられるかどうかはわからなかった。鎌が分厚いジャケットを裂くとは思えなかったのだ。

 せめて俺の存在に気づけばいい、そう思っていた――コクランは西へ逃れる途中、そう言った。

 クァールトにはまだ兵は進んでいない。いずれは来るだろうが、城に向かうことは予測できる。つまり、城から離れればいいのだ。

 となると、向かうはロザリアから見て北西。ヌーヴァ遺跡に向かって行けばいい。

「コクラン、お前は知ってるのか? ……兄貴が」

「……俺は――」


 空気が、震えた。


 三人が振り返ると、ソルティーナが思っていた以上のスピードでクァールトに突入したらしいことが分かった。クァールトは最後の砦、フィオーレ軍も迎え撃つ。

 三人は近くにあった家の後ろに隠れ、様子を窺うことにした。下手に動いて、相手にこちらを見つけられてしまうことを危惧したのだ。

 ぶつかり合う両軍。しかし、戦力差は明らかだった。

 当然だ。大国ソルティーナと、小国フィオーレ。何もかもの桁が違いすぎる。

 次第にフィオーレが押されていく。しかしそれでも、ソルティーナの戦力は削られたようだ。

 フィオーレ軍がついに沈黙すると、大部分が城へと向かっていく。しかし何人かの兵士は、残兵がいないか見回っているようだ。

 残すはフィオーレ宮廷軍だけ。王宮直属の軍隊は少数精鋭だが、いつまで耐えられるか。


 彼らは、立ち上がった。


「アキハ、ヌーヴァ遺跡に行け。援軍が来る可能性もあるからな」

「え……二人はどうするの?」

「俺とシンヤさんはあいつらと戦う。フィオーレ宮廷軍だって、後に援軍は来てほしくないだろ」

 コクランは大鎌を、シンヤはブロードソードを。それぞれ構えると、大地を蹴って飛び出していく。アキハは呼び止めようとするが、彼らはもうすでに声の届かない場所にいた。


 ――あの馬鹿共……!


 アキハは駆け出した。向かう方向はクァールトから北、ヌーヴァ遺跡。



 急に飛び出してきた二人に、兵も驚いたようだ。

「貴様ら……軍のものではないな。何者だ? 我らに敵うとでも?」

 シンヤが口を開いた。


「戦争のルールに民衆を巻き込まないというものがある。お前達はそれを破った」

「俺達は……民衆代表だ!」


 二人は駆ける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ