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とある騎士団員のとある過去話  作者: 柘榴石
幼馴染【アキハ・コクラン】
4/21

 キールが戦場に発ち、丸二日。あれから、一切の連絡が途絶えている。

 昨日から降りだした雨はコクランの不安を強めるかのように激しく降り続け、外に出ることすらままならなくなっていた。

 雨は止みそうにない。しかしいつまでもキールのお世話になるわけにはいかない。――それは分かっているのだが、帰る場所などもはや無い。

 こうして彼は、また涙を流す。どれだけ泣けば、涙は枯れてくれるのだろう?


 ――カタ、


「!」

 何かが動く音。コクランはパッと顔をあげ、そして鎌を掴んだ。

 警戒心が表情に表れる。しかし、それはすぐに和らいだ。


「――キールさん!」


 帰ってきたのは、キールだったのである。

「無事だったんですね!」

「ああ、なかなか苦戦したけどな……つッ」

 キールの顔が歪み、右腕を押さえる。コクランが覗いてみると、そこには痛々しい包帯があった。巻き付けられている範囲は広く、決して小さな傷ではないようだ。更によく見ると、全身に傷があることがわかった。

 あのシンヤさんよりも強いキールさんに、これだけの傷を負わせるなんて。彼は改めて敵の恐ろしさを感じた。

「二日間、大丈夫だったか?」

「はい。雨降ってたんで、あまり外には出られなかったけど。……あ、キールさん濡れてませんか?」

「いや、大丈夫だ」

 コクランが差し出したタオルを受け取らず、キールは服の袖で滴り落ちる雫を拭う。

 そうですか、とコクランは呟き、タオルをまた干し竿にかけた。干し竿とはいっても、湿気が多い為に乾きにくい。

「キールさん達は、もう敵を全て倒したんですか?」

「ああ。しばらくは大丈夫だろうな――


――貴様が、死ねばな」


 銃声。

 雨が降って湿っているというのに――その乾いた音は、辺りへと響きわたった。



 血が滴る。咄嗟に避けようとはしたが、弾丸はそう易々と避けられるものではない。

 赤黒い血がカーペットに染み込み、赤い円を描いていく。

「……ぐっ……キール……さん……?」

「そんな者はおらぬ。貴様は騙されていたのだよ、私の完璧な幻覚によってな」

 キール――だと思っていた男が霧のような白い煙で包まれ、それが晴れたとき、立っているのは金髪碧眼の男だった。

 ナツメとローズを殺した男と、特徴が一致している。金髪碧眼といえば――ソルティーナ連合国だ。

「何で俺なんかを……!」

「あやつが気にしておった。更に貴様はフィオーレ人で武器をも所持している。武器を持つのならば、殺しても構わないと長は仰った」

「……! キールさんに何をしたんだ!?」

「奴は逃げた。この宿命からな!」

 戦わなければならないようだ。しかしコクランは右肩を負傷し、とても満足に戦えるとは思えない。キールが逃げたというのも気になるが、まずはこいつをどうにかしなければ。

 とりあえず先程のタオルを傷口の上から縛り、止血をする。それと同時に、突っ込んでくる男を紙一重でかわした。

 鎌を掴む。そして部屋を飛び出し、外へと誘った。家の中じゃ狭すぎる。

 外へ出る間にも銃弾は撃ちこまれ、火花が飛んで一瞬の熱を感じた。その熱を感じる度、コクランは恐怖を覚える。――いつ死んでもおかしくないのだ。

 広い場所に出ると、右足を軸にして突っ込んでくる男に向かい合う。そして、銀色の弧を描いて鎌をないだ。しかしそれは男の髪をかするだけにとどまり、逆に男の銃がコクランの頬に赤い線をつけた。

 更に連続して撃たれた弾は足を撃ち抜き、コクランは背中から倒れこむ。

「ぅぐ……っ」

「所詮青臭い餓鬼よ。大人しく散れっ!」

 銃口が向けられ、人差し指が引き金を引く。――その直前、コクランは男の足を払い、体制を変えた。

 足を払われバランスを崩した男は、見当違いの場所へ弾を撃った。虚しい音が空気を震わせる。

 背後に回りこんだコクランは、肩が痛むのも気にせず鎌を降り下ろす。背中がざっくりと裂かれるが、分厚いジャケットのせいか肌が裂けることはなく、回転蹴りを脇腹に叩き込まれる。

 口から生温かいものを吐き出す。視界が眩み、息が荒くなる。

 肩や足は痛み、コクランは鎌を落として崩れ落ちた。顎を靴で持ち上げられ、額に銃口が当てられる。


 ――もう、……駄目だ。


 走馬灯のように駆け巡る記憶を思い浮かべ、コクランは目頭が熱くなるのを感じた。

 ……アキハ、ごめんな――



 ――破裂音と共に崩れ落ちる。力が抜けた体が、地面に伏した。

「……」

 男は口から血を流しつつも、ゆっくりと立ち上がる。

「……貴様、逃げたのではなかったか?」

 コクランは茫然自失のまま、突然現れた第三者の姿を見つめる。


「……キール、さん?」


 今度こそ本物だろう。根拠のない自信が溢れ、思わず笑みが浮かぶ。

「一度も逃げてはいない。逃げたのはお前だろう、ツィーダ」

 ツィーダと呼ばれた男は、嘲るように笑った。

「ハッ、死に損ないが冗談を。あの時貴様は死んだはずだ……私の弾丸に撃ち抜かれて、な」

「確認を怠ったのはお前だ。私は弾丸に当たってなどいない」

 キールはレイピアを構える。ツィーダも両手に銃を持ち、引き金に指をかけた。

「コクランは休んでいろ。私がこいつを仕留める」

 ――その言葉が終わると同時に、二人は戦闘を開始する。

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