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まるで嵐が過ぎ去った後のように、フィオーレは元の美しい姿をとどめてはいなかった。
ミルは足をひきずりながら、ゆっくりと城から離れていく。
もうじき、城にはソルティーナの指揮官が入る。その前に、出来るだけ離れなければならない。
……未だに信じられない。
つい数日前まで平和だった日々が、一瞬にしてぶち壊された。
寄り添う場所も失われ、孤独となったミル。
「……どうしよう、かなあ」
空を見上げれば、燦然と星が輝いている。
今日は新月らしい。月の明かりがない為に、星がいつもより多く見える。街の明かりがない、というのも理由のひとつなのだろうか。
いつだっただろうか。ステラと一緒に、丘で星空を眺めたことがある。彼は星について詳しかったので、知識を披露される度、ミルの知識も増えていっていた。
指先を空へと伸ばし、星を繋いで星座をつくる。目の奥がじわりと熱くなった。
時間は止まらない。記憶も風化していく。
ステラのことも、きっと忘れてしまう。
「……絶対、忘れないからな」
私は。俺は。
俺は、決して忘れない。
ミルの口調は、ステラのそれへと変わっていた。彼女なりの結論である。
忘れてしまわぬように、彼女は、自ら彼の言葉を紡ぐようになった。
空に星が輝いている。ミルは視線を前に向けて、再び歩き出した。
赤く染まった薔薇が揺れていた。
ミルの過去話はこれにて終了。
次は奴等だ。




