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とある騎士団員のとある過去話  作者: 柘榴石
星屑【ミル】
10/21

 快晴だ。

 高く昇った太陽が、ミルの肌をジリジリと焦がす。思わず時計を覗くと、待ち合わせの時間まで一分を切っていた。

「……あーもうっ! 日焼け止め塗り忘れたんだから早くしてよねー!」

「それはそれはご愁傷さま」

「ちょっ、そんなこと言わずっ……いたっ」

 コツン、と頭に何かが置かれる。いい音鳴ったなあ、じゃなくて地味に痛い。ぶつぶつと文句を呟きながらミルは振り返るが、その犯人を見た瞬間口が止まった。

「ん? もう文句はいいのか?」

「……」

 笑顔さえ浮かべながら首をかしげる。絶対わざとだろコイツ。

 少年のようなあどけなさを残しつつも、背はスラリと高い。白い瞳はじっとミルを見つめ、口元は笑っている。


「……なぁーにやってんのよ、ステラ!」


「はは、ごめんごめん」

 ステラと呼ばれた青年はカラカラと笑いながら、ミルの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。せっかくセットしたのに、とミルが呟くと、ステラはまた笑った。

「だーめ。ミルは美人なんだから、他の男を近づけてしまうぜ? ミルは良くても俺は嫌だからな」

「……っ、よくそんな台詞言えるわねっ」

 ぷいとそっぽを向くミル。しかしその頬は赤くなっていたことを、彼氏たるステラは見逃さなかった。



 二人が交際を始めて数ヵ月になる。ミルは普通の学生なのに対し、ステラは傭兵だった。

 ふと立ち寄った喫茶店で会話を弾ませた二人。いつしかその店に通うようになって、やがて惹かれあうのも時間の問題だった。

 ステラの傭兵という立場上、二人が一緒に遊びに行ける機会は少ない。そして今日は、そんな数少ない一日だったのだ。

「ほら、映画のチケットなら取ってあるから」

 前売り券を見せると、ミルはパッと顔を輝かせる。何でも、彼女が好きな本が原作となっている映画なんだそうだ。

 以前面白いのか、と何気なく聞いてみたところ、小一時間熱弁された覚えがある。

「……でねっ、この後原作だとねっ……って聞いてる?」

「あ、ごめん聞いてなかった」

「もー! せっかく私が話してるのに!」

 ぷぅ、と頬を膨らませるミル。


 怒っている姿も可愛いな、なんて。


 そう思ったけれど、何となく自分に意地を張ってみたくなって、とりあえず風船のように膨らんだ頬を両側から潰しておいた。

 またミルが怒るが、やがて諦めたように笑った。

「そういうとこも大好きだよ、ステラ」

「それはどーも」



 映画を観終えると、時計の短針は12を指していた。

「あー、腹減らねえ?」

「そうだね。食べに行こうか……あっ、ジパング料理食べたいな!」

 ミルが指差した先には、周囲の店とは異なる雰囲気を纏う和食専門店があった。ステラは半ば引きずられるように歩いていく。

 店内は柔らかい明かりに照らされ、落ち着いた雰囲気だ。テーブルに案内されると、ミルは蕎麦を、ステラは親子丼を注文する。

 ステラは何度かこの店を訪れている。傭兵団の仲間がジパングが大好きで、この店がおすすめだと何度も連れていかれたのだ。

「ミル、和菓子って好きか?」

 ふと思い出したのは、同じように紹介された和菓子専門店だ。確かチュリア商店街にあるから、ここからは遠くない。

「うん、好きだよ。どうしたの?」

「実は美味しい和菓子の店を知ってるんだ。この後行くか?」

「本当? 行く行く!」

 パッと顔を輝かせるミル。すると、そんな彼女の元に蕎麦が運ばれてきた。間もなく親子丼も運ばれてきて、二人は食べ始める。

 いちいち美味しいとジェスチャーを大げさにするミルを見、ステラは笑った。

「何がおかしいのよー!」

「だって……ミル、いちいち反応が面白いんだよ」

 そんなことないよ、とミルは反論する。はいはいと軽くあしらうと、彼女は拗ねるどころか笑い出した。

「……あははっ! ステラも十分面白いよ」

「ん、そう?」

 次は何処へ行こうか――そうステラがミルに聞いた直後のこと。


 そう遠くない場所で聞こえた爆発音が、二人の鼓膜を震わせた。


 何が起こったのか。そう考える間もなくサイレンが鳴り響き、避難勧告が出されたことを知らせるアナウンスが繰り返し放送された。

「何……!? 何が起こったの!?」

「ミル、とにかく逃げろ!」

 ステラに手を引かれ、ミルは店を出て走り出す。燃え盛る炎は、ネピの森で間違いないだろう。そしてたびたび聞こえる爆発音は、森の奥にある砦を壊しているのだろうか。

 チュリア商店街を走り抜ける。大勢の人々が避難をしていて、何度かステラを見失いそうになった。

 固く結ばれた手。それが離されたのは、商店街を抜けて城のふもとまで来てからだった。

 流石にここまで来るのには時間が要される。暫くは安全だと思い、国民達は城の内部へと避難していった。

 ステラとミルも城に入る。豪華な内装が施されていて、汚れなどどこにも見当たらない程美しい。大広間から繋がる長い廊下の先には、幾つもの部屋があるのだろう。

「此処にいてくれ。俺は傭兵団の奴等と連絡を取る」

 緊急事態だということは、戦闘に関して素人のミルでも分かる。ここは彼を信じて待つべきだと考え、彼女はおとなしく待つことにした。

 ステラは大広間を出て、電波の良い場所を探しに行く。


 不穏な日々が、始まった。

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