仁義なき戦いスミレ組の乱
「あーちゃんなにやってるのー?」
あん? おお、由美か、さっき先生からカエルの歌やってくれって言われてな。とりあえずドイツ語で行こうと思うんだがどう思う?
それとあーちゃんだと茜とどっちか分からなくなるからあきちゃんとかにしてくれ、割と切実に。
「どいつー? どいつってなぁに? 後あーちゃんはあーちゃんだよ!」
あーちゃんはあきちゃんなんだよ、今この瞬間あきちゃんに変わったんだよ。世界的な変革が起こったんだよ、だからそうしとけやこの野郎。
つーか、まぁそんな事はどうでも良いんだよ、ドイツ語でカエルの歌やるから皆呼んどけ、あぁ、いいや俺が呼ぶ。
おらぁ! スミレ組ぃぃ! 集合せいやぁ!
「へい兄貴! 組員集合いたしやしたぜ!」
おう、俊平ご苦労。おめぇらぁ、スミレ組の訓示を述べやがれ!
「仁義、任侠、酒と喧嘩は江戸の華、筋通さねぇ野郎はぶっ潰せ!」
おうよ! いいかおめぇら俺らの組長の真由美が仕事だそうだ、歌の時間らしいがそっちを優先してもらった、俺達が負担になっちゃいけねぇ。神輿担いでる俺達が甘えちゃいけねぇ、わかってんな? 何かあったら俺に言いな! 鬼の副長がケツもってやんぜ!
「「「いえっさー!」」」
よぅし、じゃぁ歌の練習だ! 今から配った用紙通りに発音すれば問題ねぇ。
「あーちゃん、これ何の歌なのー?」
ふ、参謀よ、お前も良く知ってる曲さ、そいつはカエルの歌ドイツ語バージョンだ。
いいかお前ら、常に俺たちは時代の先端を走らなけりゃならねぇ。それは何故か? 前も言ったと思うが次の世代を担うのは俺達だ、俺達が日本を支えていくんだ、ならば今から時代の最先端をとっちまう、そう考えた。
将来? はっ、笑わせる。舐めてもらっちゃ困る俺達は将来にならないと時代を引っ張っていけねぇのか? ちげぇだろ! ちげぇだろう皆!
俺たちは今からもう行ける、行けるんだ、立ち上がれ! 俺達にはその力があるんだぜ!
「「「あきらくん! 僕達(私達)がんばる!」」」
よぅし、いくぜ! 俺についてきな!
「真由美先生、すみれ組が騒がしいのですが……」
「えぇっ、お歌の授業中のはずなんですけど」
「いやぁ、真由美さん凄いですよ、ドイツ語ですよ。僕大学の時選択してたからなんとなく聞き覚えがあったんですけど」
「真由美先生、ちょっとお話が」
「え、えぇぇぇぇえぇ」
なんか悲鳴が聞こえたな、まぁ気のせいだろう。
だが、ソウルブラザーたるこいつらも良いやつらに育った、組のモンも他の組との抗争が偶にあるみたいだがスミレ組は負け知らずだ。組に負けは許されねぇ、ダチの負けは組の負け、ダチの恥は組の恥、ダチの借りは組の借り、俺達の義兄弟の契り舐めちゃいけねぇぜ。
これで来月の発表会も余裕でトップだな、たんぽぽ組やあさがお組なんざ勝負にすらならん、年長組すら食ってやるぜ。
フフ、フハハハハハ。
「あきらくんがまたへんな笑いしてるよー、ゆみちゃんだいじょーぶかな?」
「えー? だいじょーぶだよ。あーちゃんいっつもあんな感じだもんー」
なんだ、失礼な事言ってるな。いつもじゃないぞ、茜の前では超猫被ってるから、30枚くらい被ってるから。超いいおにーちゃんだから。あぁ、茜に会いてぇ。茜禁断症状が出てきた、まじ死ぬ、死ぬ、ほんと死ぬ。
意識が朦朧としてきた、こういうときは懐のこいつで。
懐から出すのは一枚の写真、そこにはきゃっきゃと笑いながら此方に微笑みかけてくる茜が写っている。
ふひ、うひひひ、かわゆすぎる、やばすぎる、もうだめ、俺死ぬ。
しかーしまだ死なん! 茜に付く悪い虫を全て駆除するまでは死ねん、俺は死ねんのだ!
しかし茜も1歳、まじかわいい、最初にしゃべったの『にーに』、だぜ。両親を抜いて俺が最初だ、もう俺死んでもいい、三歳だけど死んでも良い。
まじもー、俺一生かけて貢ぐわ! 茜に貢ぐわ!
お年玉とか全部茜行きだな、翻訳の仕事とかするかな、3歳じゃ無理か、悔やまれるこの何も出来ない年齢が悔やまれる。だがあんまり年が離れると妹を守れない。ギリで1年生と3年生のレベルだ、なんか対策を考えないといけないな。
「あーちゃん、あーちゃん」
ええい、なんだ。俺は今、全人類男子撲滅計画を練っているんだ、邪魔をするな!
「なんか園長先生がきてるよー?」
あん? なんだ? 俺に用か? 組のモンが迷惑かけたんか? わりぃな副長の俺がケツもつぜ、なにがあったんでぇ?
「輝君、すみれ組はヤクザじゃないからね。さっき歌ってた歌なんだけど、輝君が教えたのかな?」
おお、カエルの歌か。ただ歌うだけじゃつまんねぇからな、ドイツ語バージョンにしたんだ。まぁ発音がまだまだ甘いけどよ、結構な出来だと思うぜ。
「ええと、普通に日本語で良いのだよ?」
園長先生、あんた駄目だよ、ほんと駄目だよ。型にはまってて楽しいのかい? 人生それで楽しいのかい? そりゃぁ人様に迷惑かけるような事はいけねぇよ? そいつはいけねぇ。けどな、ただ言われたとおり、今までやって来たことをそのままなぞって出来上がる人は良いもんかい? それで子供達の人生をレールにのっけちまっていいんかい? ちげぇだろ、あんたの仕事は子供の可能性を延ばすことじゃねぇのかい?
教育者としてその夢を追ったときの事を思い出そうぜ、入学式のあの時、春の風、春の匂い、その思い出、その熱く滾っていた思いを思い出そうぜ園長先生!
子供を常識にはめ込んで将来性を奪うような教師になるのがアンタの夢だったんかい!
「そ、それは……」
そうだろう、ちげぇだろう? わかる、俺にはわかる、園長先生も大人になっていろんなしがらみがあるのは分かってる、分かってるさ。だから無理はいわねぇ、けどな? 俺の組のモンは可能性を潰さないで欲しいんだ、心配いらねぇ、俺がケツ持つからよ。
「あ、あのだね、それとこれとは違って……」
そいつはちげぇ! 逃げちゃいけねぇよ先生! あんたの思いは何処に行った! 教師の心は何処に行った! 俺はアンタを尊敬してるんだ、いや世界中の幼稚園児がアンタに期待してるんだ! やってくれるって、やってくれるって皆期待してるんだ、その期待に答えないでどうするんだよ園長先生!
「そ、そうだな、そうだった。よし、やりたまえ輝君! 大丈夫大人は私が説得してみせる!」
へっ、良い目になったじゃねぇか園長、いや、ソウルブラザー。アンタなら出来る、世界中の幼稚園の頭に立てるぜ。
「ちょっとぉぉぉ! 園長先生説得されないで下さい!」
「園長せんせええぇぇ! なに子供に説得されてるんですか!」
「フ、何を言ってるのかね近藤先生、斉藤先生。今の私はプリスクールグレートティーチャーエンチョー。略してPGE、今の私に不可能はありません」
「あぁぁああぁ、園長先生まで壊れたあぁぁ」
「絶望した! 就職先を間違ったことに絶望した!」
うるせぇなぁ、一人の男が夢を思い出したんだろ? 何をそんなに騒いでいるんだよ。
「あんたが原因でしょぉぉぉおお!」
はぁ、瑞穂ちゃんよぅ、そんなんだから静雄さんに振られるんだぜ?
「なんであんたがそんな事知ってるのよぉぉぉおお! もうやだ! もうやだ! この幼稚園もうやだあぁぁあ!」
あーもう、泣くなよ瑞穂、ほら、胸かしてやるよ。泣けよ、俺が傍に居てやるよ。
まったく、世話の焼ける先生が多い幼稚園だぜ。