習い事は大事です
あ、どうも輝です。幼稚園の入学式です。なんか制服とか着せられて小さい椅子に座ってなんか聞いてます。
つーか椅子ちっちぇなぁ、こんなにちっちゃかったんだなぁ。
というかそもそも、幼稚園って入学式あったのか、全然覚えてなかった。しかし、どいつもこいつも間の抜けた顔しやがって、そうだ3歳になったから剣道と空手と柔道と合気道とボクシングとレスリングを習おう。1個増えたような気がするけど気のせいだろう。
「あーちゃん、あーちゃん」
お、なんだ由美か? 大丈夫だぞ、ここは幼稚園だ迷子になってないぞ心配いらない。そしてお前の両親はあそこだ、面倒事は是非向こうに持っていってくれたまえ。
「ちがうよー。いっしょなんだよー」
一緒? ああ、そうだな来るとき一緒だったな。横で騒がれて俺は大変だったんだよ、昨日、夏目漱石を読みなおしてたらちょっと夜更かししてしまってな、この子供ボディーには少々きつかったようで眠気がMAXオーバーフローしてたんだよね。その辺察してくれると結構嬉しかったんだけどどうだろう。
「すみれ組なんだよー」
すみれ? ああ、花の名前ね。スミレ科スミレ属の総称だね狭義にはViolaMandshurcaって言ってその種の和名だ。
春に咲く野草で深い紫の花を咲かせるのが一般的、花は独特の形状で、ってなにさ? ああ、聞いてないって? そいつは申し訳ない、そいですみれがどうしたんだ?
「一緒の組なの!」
怒らなくても良いじゃないか、短気は損気、怒ってばっかりじゃ背は伸びないぜ。
「のびるもん!」
横に延びないように気をつけてな。
「のびないもん!」
どっちだよ。
「ううぅ……」
ああああ、ごめんってマジごめんって、俺が悪かったって。機嫌なおしてくれ、ほら、そうだ冷蔵庫の俺のプリンあげるから。
「ほんと?」
ほんとほんと、あげるあげる。そんなに食べたい訳でもなかったから。
「ありがとう! あーちゃんだいすき!」
いやーごめん俺はそうでもないんだけどね。むしろ茜と一緒になりたかったよ、茜に群がる虫どもを駆逐したかったよ。
くそう、2歳の差が悔やまれる。なぜ両親は俺を2年遅らせて生まなかったのだ、恨むぞ。
だがしかたがあるまい、兄としての立場に立てていることに感謝しよう。以前では出来なかったが俺が全身全霊を持って守ってやる、まかせろ茜!
「輝ー、帰るわよー」
お、母さん! なぁなぁ剣道と空手と(以下略
「駄目よ、どれか1個にしなさい」
そいつはいけねぇよ! 害虫駆除、じゃなくて日本男児として武道を嗜むのは常識じゃないか!
「よく言った輝! ならば極めて見せよその道を!」
親父! 任せとけ、俺は行くぜあの地平線の向こうに!
「あーもうわかったから、じゃあ2個までにしなさい。月謝も馬鹿にならないんだから」
む、金のことを言われると辛い物があるな。しかたがない、じゃあ空手と剣道でお願いします。申込用紙はこれです。
「準備万端ね、輝……」
「おお、父さんが先週集めた奴じゃないか、急に言うから何かと思ってたぞ」
「あなた……? 帰ったら少しお話があります」
「え、ちょっと、輝?」
親父、心配いらねぇよ親父の背中、輝いてるぜ!
「おう、俺の背中についてこい息子よ!」
あぁ、どこまでもついていくぜ親父!
「良いから行くわよ馬鹿二人」
とりあえず親父の小遣いが減らされたことだけはここに記しておこう。