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1歳になりました

 どうも1歳になりました、御免なさい嘘です、もうちょっとで1歳です。

 サバを読みたい年頃なんです、背伸びをしたい年頃なんです。まだ立てないけどね。


 何だよこの膝、ふにゃっとしやがって、俺の膝の癖に生意気だ。頑張れよ、まじ頑張れよ、俺の足頑張れよ!

 生まれたての子羊だって腹の中から出て直ぐに立つじゃねぇかよ、あ、ちなみにハイハイは出来るよ。寝返りとか余裕。

 でもまだしゃべれないっす、なんか舌が上手く動かない。勘弁して欲しい、もう一番最初にしゃべるのは勘弁して欲しいにしようかと真剣に考え中だ。


 ちなみに今、橘の家だ。ママさん同盟って奴だ、別に構わんがこの女が叩いてくるのはどうにかして欲しい。


「あー? あっあっ、きゃっきゃ」

 おうおう、元気だね由美さん。俺はもう一杯一杯だよ、Mじゃないから勘弁してくれ。そんな所に目覚める俺じゃないんだ、すまねぇが他の男を捜してくれ。ちょっと痛い、痛いって、ガラガラは叩くものじゃないから。


「あ゛ー?」

 なんだよおい、ガン垂れてるんじゃねぇよ。お前、俺が女性に優しく紳士的な対応をしているからって調子に乗るんじゃねぇぞ、そのガラガラをこの場で分解してやっても良いんだぜ? ああん?

 きゅっきゅと回せば取っ手が外れることは既に確認済みだぜ? 本当だぜ? 脅しじゃねぇんだぜ?



―――――ゴン



 いでっ……、ふ、ふふふ、てめぇは俺を怒らせた、やったるわオラー!


「ちょっと! 由美ちゃん駄目よ。御免なさい早苗さん……」


「あらあら、大丈夫よ、ほらほらおいであきちゃん、痛くないわよー」

 ちっ、命拾いしたな、俺のこのぷにぷにコラーゲンたっぷりパンチを食らわせられなかったのは残念だが仕方がねぇ。親に感謝するんだな。


 まったく、暴力はいけねぇよ暴力は。無抵抗の俺にバンバンガラガラで叩きやがって。ガラガラの音がガダガダになってたじゃねぇか、俺が吸音材かよ、くそったれ。多少軟骨が頑張って堅くなってきてるけどまだまだなんだぜ? 馬鹿になったらどうすんだよまじで、むにゅって脳が隙間から出たらどうすんだよまじで。


 とりあえず結果オーライ、脳の流出は無かったみたいだ。俺の軟骨に感謝しろよ由美、土下座して感謝しろ。


 やっぱ格闘技を習う必要があるな、このままじゃガラガラ撲殺殺人事件が起きてしまう、電車に轢かれた後はガラガラで撲殺されるとか浮ばれない、自縛霊になる自信が有るね、むしろなってやる。毎晩ガラガラーガラガラーって唸ってやる、夜布団の上でガラガラを鳴らしてやる、睡眠妨害で道連れだ。


「よしよし、こぶは出来てないみたいね」

 ちょっと、母さん、あんまり強く押さないで。まだ出来上がってないから、俺の頭出来上がってないから。大体出来上がってるけどまだだから。


「ごめんなさいね早苗さん、輝ちゃんもごめんね」

 いいってことよ、過去には拘らない男だからな俺は、心配すんなガラガラをバラすだけで許してやらぁ。はっはっはっは。


「あら、笑ってるわこの子」


「お母さんの腕の中が良いんじゃないかしら?」


「そうかしら……、なんか違う気がするのだけれど……」

 気のせいだぞ母よ。







◇◇◇◇◇





「ハッピバースデー、あきちゃーん」

 満面の笑顔でケーキに1本の蝋燭を立てて祝ってくれる両親二人、でも俺ケーキ食えないけどね。

 ケーキを買っている時二人で食うの? その大きさ二人で食うの? って思ったら橘家も呼んでいた。コラーゲンパンチが火を吹くときか、と思ったら由美は寝ていた。さすがに寝てる相手に暴力はいけねぇ、女子供相手にムキになっちゃいけねぇ、気を付けないといけないな俺も。

 暴力をむやみやたらに振るっちゃいけねぇ、それはやっちゃいけねぇ事だ。でもたまにはきっと良いだろう。


 ぐーすかと暢気に寝ている由美を横目にため息を付く、最近母さんに買ってもらった本を読む俺、でもつまんない。しょうがないので壁伝いに立ち歩きをして親父の部屋へ向かう。


 ってまじか! 俺立ち歩きしてる、俺の足頑張ってる、超頑張ってる、日々の努力が身を結んだ。ハイハイ部屋20週とか日々の訓練が身を結んだ、やったぜ俺、やったぜ俺の足。


「ちょっと! あきちゃん! あきちゃんが! 早苗さんあきちゃんが!」

 うるせぇな、俺は今俺の足に感動しているんだ。まじ良く頑張った、ハイハイとかもうおさらばだ。まじほんとやった、感動で前が、見える。

 もうこの思いを叫びたい、声に出したい、感動を皆に伝えたい。


「あきちゃあああん、あなた! あきちゃんが立ってるわ! 立ってるわよ!」


「なに! 本当か!」

 騒ぎを聞きつけた家族と橘家が集まってくる、そのオーディエンスに向かって姿勢を正す。

 皆有難う、俺の頑張りをたたえてくれて有難う、この思いを伝えたい、心の思いを伝えたい。


「イィィヤァァ!」

 握り拳を作ることも忘れない、やり遂げた、俺はやり遂げたよ。


 なんとも言えない空気になったのは気のせいだろう。


「あの、早苗さん……?」


「最初の言葉がこれなんて……」


「握り拳、握り拳かわいいぞ、かわいいぞ輝!」


「あなた、それ違う気がするわよ……」

 なんだ騒がしいな、もう一度ご所望なのか? しょうがないな期待に答えるのが息子、見てろ母さん。


 ぐっと握り拳を前に作り前傾姿勢をとる。ちなみに片方の手は壁に付いたままだ。

 今度は指で天井をさし、ポーズを決める。


「ヒーハー」

 ふふふ、このくらいならしゃべれるんだぜ。驚いたか!


「かわいい、かわいいわあきちゃん!」


「いや、おまえ、さっきのほうが可愛いだろう?」

 親馬鹿二人がカメラを持って俺を撮影している。この体勢結構辛い、腕の筋肉がまだ微妙なんだ、そろそろ限界。

 

「あの、両方どうかと思うのだけれど……」

 ぼそりと橘の奥さんがしゃべっていたのは聞かなかったことにしよう。

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