ジャスティスそれは勇気の言葉
よう、輝だ今日もよろしく。年長組になった俺は、いつものメンバーとサッカーをするっつぅんで仕方がねぇから河川敷に向かってる。
妹との一時を邪魔した奴らに地獄よりも辛い生き地獄を味あわせてやろうと検討中ではあるが、さすがに大人げないので勘弁してやることに結論ずけた、ほんの3秒前にだが。
そんな俺の前に一人の少女が立っている、服が汚れていて、暗めの雰囲気を纏った少女だ、ぼぅ、とこちらを見ているのが気になって声をかけてみたらビクリと体を震わせて脅えられた。
おいおいハニー勘弁してくれよ、俺はそんなに悪人面か? 見ろよ俺の顔を、妖精さんもびっくりな世間一般的に言えば普通過ぎる顔だぜこの野郎。
顔に文句はねぇよ、でもな? 目と鼻と口があるんだからおびえちゃいけねぇぜお嬢ちゃん。
おう、こいつぁ失礼俺の名前は月光 グレイツ 輝。グレイツは大事だからな付け忘れちゃいけねぇ。
「え、え」
おっと難しすぎたか悪かったな。俺も日々年長組としての精神鍛錬を行っているんだがまだまだってぇ訳だ、許してくれ。俺もお前もここであったが何かの縁、地球規模のビックインパクツってわけさ、わかるかハニー?
そんなわけで名前を教えてくれないかいマドモアゼル、もといマンドラゴラ。
「マンド? えと、うんと、かな……、さおとめ、かな」
おうよ! これで俺とお前はソウルブラザー、今から河川敷でサッカーをやるんだけど一緒にくるかい? むしろ河川敷の野郎どもを潰して茜に会いに戻るのを手伝ってくれるかい?
「ぶらざー……?」
なんてこったい、こいつはなんてこったい、俺としたことがこの燃え上がるハーツを伝え損なうとは。絶望した、己の力不足に絶望したっ!
ブラザーフレンドマイハニー、ダチってことよお嬢ちゃん! 友達、戦友、イエスシスターノータッチ!
「ともだち? かなと友達なの?」
おうよ、でもちぃと違う、友達じゃねぇ、ソウルブラザーよ、ソウル、燃え上がるソウル、それこそが俺たちのジャスティス。俺たちの行動原理さ!
さぁ、いこうぜあの地平線の彼方へ、見ろよ、あの青い大空を、鳥のように自由に飛ぼうぜ、世界を股に掛けて俺たちは船をこぐ、まだ見ぬ世界の神秘をその手に掴むために!
「う、うん。でもかなおうちに帰らないとおとうさんに怒られちゃうから」
なんだって? 遊んで怒られるってぇどういう了見だい、そいつぁおかしい、おかしすぎねぇかい?
「ごめんなさい、でもおとうさんおこるから、わたしかえるね。友達になってくれてありがとう」
おいおいおい、ちょっとまてよおい、そりゃぁねぇぜ、そのお父さんとやらと話をさせてくれよ、心配いらねぇ、うまく話を付けてやるからよ。鬼の副長ここに有りってな。
そう伝えてその子の手を掴む、びっくりするほど細いその腕、少しだけ見えたその肌に小さな青痣が見えた。
おい、そいつぁなんだ?
「ひっ……、なんでもない、なんでもないの、かなが悪いの、かながいい子じゃないから」
へいへいへいへい、どういう事だいそいつぁ、ちょいときな。心配いらねぇ、俺に全部任せときな。
「え、だめ、かえらないと」
正臣ぃぃぃ、ちぃとこいやぁあ!
「おおう、どうした輝、そんな大声出して、って誰だその子」
おう、悪いな。ちぃと組の連中呼んでくれや、集合場所は幼稚園のホールだ。男、いや漢だけで良い、わかるな。
「そいつぁレッドかい?」
おうよ、レッドもレッド、頼んだぜ兄弟。
「任せときな、30分もあればすぐに集めてやるぜ」
かなちゃんよ、心配いらねぇ、大丈夫。何かあったら俺が守る、お前を守ってやる、だから心配するな。俺の傍にいな。
「でも、でも、だって、輝君が、輝君が」
かなよぅ、甘えられる時に甘えるのが悪い事じゃねぇんだぜ? 俺の目を見な、この燃え上がる情熱の炎、グレイツの名は伊達じゃない事を見せてやるぜ。
「やっぱりだめ、だめだよ! ごめんね、ありがとう!」
おい、ちょっとっ!
ダッと駆け出す香奈、あわてて捕まえようとするが横から飛び出てきた自転車に強制的に分断される。
そうして気が付いたときには少女はいなくなっていた。
何と言うことだ、俺としたことが、俺としたことがぁぁぁっ!
悔しさに耐え切れず地面に拳を振り下ろす、ズガッ、という音と共にコンクリートの道路に突き刺さる拳を悔しげな目で見つめる。
悔やんでいる場合ではない、すぐに俺は懐に入っていた携帯を取り出す。特殊技巧高速連打により、コンマ2秒で画面に浮き出てきたソウルブラザーに電話をかける。
「ゴルバス、仕事だ。早乙女 香奈、この子の住所を調べてくれ」
『了解ボス 3分で調べあげて見せまさぁ』
頼もしいソウルブラザーの声を聞き、電話を切る。後は、ダチの意志だけだ。
30分後、そこは幼稚園の多目的ホール。そのフロアには幼稚園のダチ、いやブラザーが集まっていた。
ようみんな、忙しいところ悪いな。今回集まって貰ったのは他でもねぇ。
今日俺のダチになった子供、その子供が虐待を受けている可能性がある。
俺のツテを使ったところ、どうやらかなり可能性は高い。俺はゆるせねぇ、俺は絶対にゆるせねぇと思っている。
だからこれから救出にいく、てめぇら、ついてくるかい?
当然先鋒は俺がやる、だが、だがな、お前等にはもしもの為に俺を助けてほしい。
「た、たすけてって、でもそれ本当かどうか分からないんでしょ?」
「そんな事したらお母さんに怒られるかもしれないよ」
「もし間違いだったらどうするの、お父さんとお母さんにまた怒られちゃうよ・・・」
ざわざわと騒ぎだす児童達、だが、だがしかし。
バン、と机を叩きつける。その音はホール隅々までに響きわたり、騒いでいた子供たちは水を打ったように一気に静まり大人しくなる。
叩いた本人の顔は俯いており、よく見えない、良く見ると肩が震えている。
己の力不足を嘆いているのか、いや、違う、ブラザーの情けなさを感じているのだ。
ゆっくりとあがる顔、その顔、いや瞳には燃え盛るソウルファイヤーが輝いていた。
紡がれる言葉、語り継がれる伝説のセリフ、心に残るブラザーソウル。それが今ここに顕現する。
おめぇらよう、少女が一人泣いている。心ん中で泣いている。他に理由はいんのかぃ?
その声が、消して大きくはない、その声が、ホールに集まる児童達全員の耳に届いた。鼓膜を叩き脳にゆっくりと染み込んだ後、己の弱さに皆絶望の色を目に宿す。
俺たちは自分の保身しか考えていなかった、漢になったと思っていたのに、結局俺たちはなにも変わっていなかった。
ある者は嘆き、ある者は苦悩する、己の弱さに直面し、突きつけられたがために。
もしかしたら、けれども、だから、だって、でも。そう、そんな言葉は漢にはないのだ!
潮が引くように、潮が満ちるように決意の光が、決意のファイヤーが燃え盛る。
「副長、どうやらもう言葉はいらねぇみたいだぜ」
正臣、すまねぇな、熱くなっちまった。みんな守りたい物があることは分かっていたんだがな。
「なに弱気になってるんだい副長、あんただから俺たちは付いていくと決めたんだ。そうだろうブラザー」
ふ、じゃあいこうか、半ズボン組は膝のけがに注意しな、気合い入れるぜ野郎ども、帽子をかぶれ!
合図と共に藍色の帽子を各々かぶり出す。学者風の帽子をアレンジし、幼稚園児にもかぶれるように小型化したその帽子には、風で飛ばないように細いゴム紐が付いており、一定の安心感が得られるシロモノだ。
そのゴム紐を首にかけた後、一気に下へ引く。そして離す! バチンという音がホールに広がり、気合いが注入される。
いくぜお前等、こっから先は戦場だ!