芸術なんて魂で感じるものだろうがっ
「あーちゃん、あーそーぼー!」
あぁ、由美か、茜成分が不足してる俺に何を求めてるんだ? 俺に何を求めているんだお嬢ちゃん。俺は今ガソリンが無いベンツ、バッテリーの切れたアイ○、コンセントが行方不明のテレビ、つまりは役立たずって奴だよ。
「さばくであそぼー!」
砂漠じゃなくて砂場だろうが、砂漠で遊ぶとか流石の俺もきついぜ。干からびちゃうぜ、まだミイラの仲間入りは勘弁してもらいたい所なんだ。
しかしまぁ仕方が無い、いつまでも落ち込んでてもしょうがないからな。正臣、行こうぜ、俺ちょっと元気でたからよ。
「大丈夫か輝、まじさっきまでのお前、周囲だけ世界がゲシュタルト崩壊していたぜ?」
そうだね、まじ崩壊してた、というか崩壊すれば良いのに。いや、だめだ、こんな考えじゃ駄目だ。こんなうじうじした俺は俺じゃねぇ、こんな簡単に凹んじゃいけねぇ! そうさ、魂を燃え上がらせろ、立ち上がれ俺! 立ち上がれガン○ム、立ち上がれ大仏! 大仏よぅ、お前いつも胡坐かいて大変だろうよぅ、だからよぅ、ちょっとよぅ、立ってくれねぇかよぅ。
「あーちゃんがまた変なこと言い出したよー」
「由美、先に行ってようぜ、こうなったら暫く戻ってこないからよ」
まてぇい! まてまてまて、俺も行く、今閃いた、つくろうじゃないか砂場、そう砂場の王、俺は今日砂場の王になる。
組の連中を集めな、いくぜフリィィダム! 俺達の世界は俺達で作る!
「へっ、戻ってきたな輝、待ってたぜ輝、いや副長!」
すまねぇな正臣、ちぃと迷惑をかけちまったようだ。俺としたことが手間かけちまった、この借り、わすれねぇぜ。
「気に済んじゃねぇよ、ダチだろう? 俺達ダチだろうよ!」
おうよ! いくぜフリィィダム!
「それで? 何を作るんだぃ副長」
平等院鳳凰堂、こいつでいく! 聳え立つ巨頭、それに挑む俺達、不可能を可能とするその過程、進捗、進化、進撃、激震、撃滅、そう、今こそ俺たちは歴史に名を残す時。トゥルゥゥゥゥス!
いくぜ野郎ども、夕日に向かって駆け抜けろ! 砂浜は最早戦場、容赦はするな、組の敵はダチの敵、ダチの敵は組の敵。
立ちふさがるならぶちのめせ! 俺達が、俺達こそが、そう、俺達こそが鳳凰堂!
砂とて俺はあなどらねぇ、油断なんてしねぇ、そこにある、それこそが伝説、そして砂。そう、砂無限に広がる可能性、そしてプラネッツ、無限に広がるプラネッツタイム。
さぁ、いくぜ! 夢を叶えろフレンズ! 世界は俺が回してるっ!
そうして平等院鳳凰堂は出来上がった、園長もといPGEが涙を流しながら感動していたのは良い思い出だ。
◇◇◇◇◇
ワシは相良 権蔵、人間国宝などと世俗に塗れた称号を、不本意ながら頂いた人間だ。所詮人間なぞ国宝になれるほどの価値など無い、いや、そもそも国宝とはなんだ、栄光なのか? くだらない。ワシはワシの作りたいものを作っておるだけと言うのに。
ワシは煩いマスコミの連中と、次回作を、と求める馬鹿どもから離れ、一人外を歩いている。
どいつもこいつも芸術と言うものを分かっておらん、二言目には金、金、金だ。
醜い人間ばかりでやってられない、ワシの作りたいものを、ワシの魂を理解してくれる人間など何処にもいない、そう思っていた。
ワシは自分の目を疑った、気が付いたらそこに居たのだが、良く見ると幼稚園。だがその中の景色は幼稚園とはとても思えない光景だった。
砂場に平等院鳳凰堂が建っているのだ、それも砂で。
何度も何度も目をこするがその現実は消えてくれない。まさか、そんなまさか、いやきっとプロの人間が、と思うがそれも直ぐに否定される。
指示をしている人間が居たのだ、明らかに幼稚園児、明らかに4歳か5歳児、明らかに100cm無い身長。
ありえない、まさかこんな、ありえない。
ワシは自然とその幼稚園児の元へ足が進むのを自覚した、止められなかった、このありえない現実の前にこのワシが、このワシが感動すらしてしまったのだ。
君は何者だ、思わず聞いてしまった、何を聞いているのだワシは。たかが幼稚園児になにを……。
しかし、直ぐにそれは間違いでなかったことを理解する。声をかけた事それこそが運命、それこそがディスティニー。
そう、ワシの声に振り返ったその幼稚園児。その目にはワシの若かりし頃の情熱の炎が宿っていたのだから。
「俺かい? 人は俺の事をこう呼ぶ、月光 グレイツ 輝、とな。グレイツでいいぜブラザー」
ブラザー、なぜブラザーなのだ。急に兄弟にされたワシは戸惑う。英語だって問題ないワシはその意味を理解していたのだ。
「あんたの目、その魂のソウルファイヤー、ブラザーの証拠じゃねぇか。他に言葉はいんのかぃ?」
雷が落ちた、いやまさにワシの中で、指先から爪先に至るまで痺れた、まさにシビレタって奴だ。こいつはぱねぇ、こんなところで芸術の真髄を知るものに会う事になるとは。
そう、芸術とはソウル、芸術とは魂の嘆き、芸術とは命を燃やすファイヤーソウル。まさか、まさか、こんな所で会う事になろうとは。
ワシは目から心の汗が出るのを止める事が出来なかった。理解されなかった世界、金と欲に塗れた世界、だが、だが、だがっ!
世界はまだまだ捨てたものではない、ここに、ここに芸術の真髄を知る男が居たのだから。
「魂が叫ぶかい? 魂が訴えるのかい? それは間違いじゃねぇ、魂に従った行動は間違いなんかじゃねぇんだぜ」
ああ、そうだ、そうとも、そうともさ! ワシはまだいける、まだやれる、そう、そうだワシにしか出来ない芸術作品を作ってみせる。
ありがとう月光 グレイツ 輝。君の事は忘れない。もしなにか困ったことがあれば手を貸そう。ワシの名前は相良 権蔵、覚えておいてくれ。
「フ、なにいってんだい権蔵。アンタの名前は違うだろ? 相良 アーティスティック 権蔵 イン グレイツ。それが今からアンタの名前さ」
フ、言うじゃないかグレイツ 輝。その名前頂こう、見ていろグレイツ 輝。ワシの芸術はまだまだ伸びる、まだまだ世界を変えて行く。
そしてワシはその場を後にした、もはやワシ等に会話は要らない。ワシの芸術で語る、そうワシは芸術で語ってみせる、このソウルボイスをっ!
「あーちゃん、あーちゃん、さっきのおじーちゃん誰ー?」
「愚問だな由美、漢と漢が出会った瞬間。それはもはやソウルブラザー。それ以上の言葉はいらねぇはずだぜ?」
「誰か、誰か突っ込んで、もう先生無理よ、先生のライフはゼロよ……」