↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

差出人不明の手紙 2

作者: 美月
掲載日:2026/10/12

 彼には疑問があった。数日前、彼の妻の誕生日だった。彼は妻のために誕生日ケーキを買って、二人で仏壇の前で誕生日の歌を歌ってお祝いをした。

 仏壇に飾られた娘の笑顔の写真を見るだけで、二人でぼろぼろと泣いてしまったが。

 妻は、誕生日当日にプレゼントを受け取った。

 ネットで注文された、造花の花束と温かそうなブランケット。それを抱きしめながら、妻は仏壇の前で何度も何度も泣きながら娘にお礼を言っていた。娘の分のケーキも仏壇に供えて。

 そして、彼の妻は泣きながら、こぼした。

「ほん、とは・・・あなたの、まえで・・・こんなこという、のは、ひっく! ははっおや・・・しっかく、かも、しれ・・・ない、っけど・・・ころし・・・やりたっ・・おもっ・・・うぅ」

 涙を流しながら、妻は告白する。妻が殺してやりたいと思う相手に心当たりがあった。娘を間接的に殺したと言っても過言ではない相手。

「だっ、て・・・もう、あな、たは・・・あなたといっしょ・・・たんじょうび、おいわい、さえ・・・もぅ・・・でき、な・・・」

  再び涙で声を詰まらせる妻を、彼は抱きしめた。

「あぁ、そう、だな。おれも、・・・っ!おんなじきもちだよ。ほんとうは、ゆるせていない。ゆるすきも・・・ない」

「・・・・・・・・・うわぁぁああああ!!うぅぅうううああああああ!!」

 悲しみで壊れそうだ。それでも。それでも。

(吹っ切れることなんて金輪際ないだろう。それでも、あの手紙に俺も妻もほんの少しだけでも、救われた気がしたんだ)

 だからこそ。彼は妻にも言えてないが、手紙の差出人を探したいと思った。

 

※※※


(死にたい・・・死にたい、死にたい、しにたいしにたいしにたいしにたいしにたい・・・)

 娘が亡くなってから、母である彼女から消えない想い。希死念慮。

 泣いても叫んでも、悲しみは。苦しみは。痛みは。喪失感は。少しも薄れてくれない気がして。

 そして、そんな彼女の心を守るかのように、希死念慮の次は復讐心が湧いてきて。

 最早、自分自身でさえもコントロールできない感情に、母であった彼女は押しつぶされそうになっていた。

 自分の誕生日プレゼントである、ブランケットを彼女は抱きしめた。娘の代わりに。

「ごめ、ごめんね・・・。ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい・・・」

 就職を機に、一人暮らしを始めた娘。久々に顔を見ることができる、と楽しみにしていた。

 だが、それは永遠に叶わない。痛い。

 あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。

 だって、写真はしゃべらない。

 お母さんと呼びかけてくれることもない。

 一緒にご飯を食べることも、買い物に行くこともできない。

 娘の存在がどれだけ自分の中で大きかったか。

 娘を失ってから、思い知らされている。

 日常の食料品の買い物でさえも行けなくなってしまった。

 子ども連れの親子の姿をみてしまうと、涙があふれてダメだった。

 子どもの「お母さん!」や「パパ、ママ!」という無邪気な呼びかけにも反応してしまう。

 娘がまだ小さかった頃を思い出してしまう。

 子どもがいる家族の風景がうらやましくて、憎らしくて。

 それ以上に、幸せそうで。それ故に娘を想い、悲しくて。

 泣きながら暮らしていた。暮らしのことは、俺がなんとかするからと、夫に頼りきってしまった。パート先はやめた。この状態でまともに仕事などできなかった。

 泣きつかれて、彼女は横になった。仏壇の前だった。

 ふわり、と頭に温もりを感じた気がした。

「〇〇?」

 彼女は娘の名前を呟いていた。娘は、小さい頃よく母の頭を撫でてくれた。「お母さん、大好き!」の言葉と共に。

 手紙のメッセージの一文を思い出す。

『触れ合えないけどさ、近くでちゃんと見守ってるから』

(あぁ、ちゃんと側にいてくれているのね。でもね、お母さん、あなたに直接会えないことが悲しくて寂しくてつらいの)

「・・・心配ばかり、かけてごめんね。ちゃんと・・・立ち直るから。少しずつ、でも」

 お母さん、大好き。そんな言葉が聞こえた気がして。

「お母さんも、お父さんも〇〇のこと、大好きだよ。今でも、うっ。愛してるから・・・」

 ゆっくりと温もりが離れていく。

「まだ・・・もう少しだけ。ここにいて」

 娘が困ったような笑みを浮かべた気がした。

 母親は抱きしめていたブランケットを広げて、自分にかける。

「これなら、風邪ひかないから。だからまだいかないで」

 少し経って、温もりは消えた。気配と呼ぶべきものも。彼女は悲しみながらも小さく微笑んだ。

 ブランケットを丁寧に畳んで、寝室まで持っていく。

(今日は、あのこが好きだった料理をつくろう)

 久々に彼女は台所に立って、夫が帰ってくる前に夕食をつくったのだった。

 

拙作をお読みくださり、ありがとうございます。正直、こちらの作品のつづきを書く気はなかったのですが。

初回と同様、泣きながら書く羽目になり・・・。作者として言わせてもらうなら。感情的には、あまり進んで書きたい作品ではないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。