差出人不明の手紙 2
彼には疑問があった。数日前、彼の妻の誕生日だった。彼は妻のために誕生日ケーキを買って、二人で仏壇の前で誕生日の歌を歌ってお祝いをした。
仏壇に飾られた娘の笑顔の写真を見るだけで、二人でぼろぼろと泣いてしまったが。
妻は、誕生日当日にプレゼントを受け取った。
ネットで注文された、造花の花束と温かそうなブランケット。それを抱きしめながら、妻は仏壇の前で何度も何度も泣きながら娘にお礼を言っていた。娘の分のケーキも仏壇に供えて。
そして、彼の妻は泣きながら、こぼした。
「ほん、とは・・・あなたの、まえで・・・こんなこという、のは、ひっく! ははっおや・・・しっかく、かも、しれ・・・ない、っけど・・・ころし・・・やりたっ・・おもっ・・・うぅ」
涙を流しながら、妻は告白する。妻が殺してやりたいと思う相手に心当たりがあった。娘を間接的に殺したと言っても過言ではない相手。
「だっ、て・・・もう、あな、たは・・・あなたといっしょ・・・たんじょうび、おいわい、さえ・・・もぅ・・・でき、な・・・」
再び涙で声を詰まらせる妻を、彼は抱きしめた。
「あぁ、そう、だな。おれも、・・・っ!おんなじきもちだよ。ほんとうは、ゆるせていない。ゆるすきも・・・ない」
「・・・・・・・・・うわぁぁああああ!!うぅぅうううああああああ!!」
悲しみで壊れそうだ。それでも。それでも。
(吹っ切れることなんて金輪際ないだろう。それでも、あの手紙に俺も妻もほんの少しだけでも、救われた気がしたんだ)
だからこそ。彼は妻にも言えてないが、手紙の差出人を探したいと思った。
※※※
(死にたい・・・死にたい、死にたい、しにたいしにたいしにたいしにたいしにたい・・・)
娘が亡くなってから、母である彼女から消えない想い。希死念慮。
泣いても叫んでも、悲しみは。苦しみは。痛みは。喪失感は。少しも薄れてくれない気がして。
そして、そんな彼女の心を守るかのように、希死念慮の次は復讐心が湧いてきて。
最早、自分自身でさえもコントロールできない感情に、母であった彼女は押しつぶされそうになっていた。
自分の誕生日プレゼントである、ブランケットを彼女は抱きしめた。娘の代わりに。
「ごめ、ごめんね・・・。ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい・・・」
就職を機に、一人暮らしを始めた娘。久々に顔を見ることができる、と楽しみにしていた。
だが、それは永遠に叶わない。痛い。
あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。
だって、写真はしゃべらない。
お母さんと呼びかけてくれることもない。
一緒にご飯を食べることも、買い物に行くこともできない。
娘の存在がどれだけ自分の中で大きかったか。
娘を失ってから、思い知らされている。
日常の食料品の買い物でさえも行けなくなってしまった。
子ども連れの親子の姿をみてしまうと、涙があふれてダメだった。
子どもの「お母さん!」や「パパ、ママ!」という無邪気な呼びかけにも反応してしまう。
娘がまだ小さかった頃を思い出してしまう。
子どもがいる家族の風景がうらやましくて、憎らしくて。
それ以上に、幸せそうで。それ故に娘を想い、悲しくて。
泣きながら暮らしていた。暮らしのことは、俺がなんとかするからと、夫に頼りきってしまった。パート先はやめた。この状態でまともに仕事などできなかった。
泣きつかれて、彼女は横になった。仏壇の前だった。
ふわり、と頭に温もりを感じた気がした。
「〇〇?」
彼女は娘の名前を呟いていた。娘は、小さい頃よく母の頭を撫でてくれた。「お母さん、大好き!」の言葉と共に。
手紙のメッセージの一文を思い出す。
『触れ合えないけどさ、近くでちゃんと見守ってるから』
(あぁ、ちゃんと側にいてくれているのね。でもね、お母さん、あなたに直接会えないことが悲しくて寂しくてつらいの)
「・・・心配ばかり、かけてごめんね。ちゃんと・・・立ち直るから。少しずつ、でも」
お母さん、大好き。そんな言葉が聞こえた気がして。
「お母さんも、お父さんも〇〇のこと、大好きだよ。今でも、うっ。愛してるから・・・」
ゆっくりと温もりが離れていく。
「まだ・・・もう少しだけ。ここにいて」
娘が困ったような笑みを浮かべた気がした。
母親は抱きしめていたブランケットを広げて、自分にかける。
「これなら、風邪ひかないから。だからまだいかないで」
少し経って、温もりは消えた。気配と呼ぶべきものも。彼女は悲しみながらも小さく微笑んだ。
ブランケットを丁寧に畳んで、寝室まで持っていく。
(今日は、あのこが好きだった料理をつくろう)
久々に彼女は台所に立って、夫が帰ってくる前に夕食をつくったのだった。
拙作をお読みくださり、ありがとうございます。正直、こちらの作品のつづきを書く気はなかったのですが。
初回と同様、泣きながら書く羽目になり・・・。作者として言わせてもらうなら。感情的には、あまり進んで書きたい作品ではないです。




