小さい雀を選んだら
恋愛要素は薄めです。
昔から、こんな言い言い伝えがある。
森の奥深くには、雀たちが暮らす隠れ里がある。
雀たちは、恩を受けた相手へ、感謝のしるしとして、宝物を選ばせてくれるのだという。
**
エレノアは、気づけば三度目の大木の前に立っていた。
「……また、ここ」
目印に刻んだ剣傷が、しっかりと幹に残っている。
間違いない。自分は全く同じ場所へと戻ってきているのだ。
旅慣れた彼女だが、この鬱蒼とした森はあまりに深く、手元の地図はまるで役に立たなかった。
太陽の光さえ遮る木々のせいで方角も分からない。まるで森そのものに意思があり、自分を惑わせているかのようだった。
それでも、引き返すわけにはいかなかった。
少し前から、森のさらに奥から、微かに助けを求めるような声を耳にしていたからだ。
エレノアはただ、その声だけを頼りに一歩一歩、薄暗い藪をかき分けて歩き続ける。
そして、何気なく一歩を踏み出した、その瞬間だった。
昼なお薄暗かった深い森が不意に途切れ、目の前には陽だまりの広がる里の景色が広がった。
木々の間には規則正しく畑が並び、澄んだ小川がせせらぎ、質素ながらも温かな家々が建ち並んでいる。
ゆっくりと、穏やかな空気が流れる里だ。
「ここは一体……」
立ち尽くす彼女の耳に、今度ははっきりと、切迫した叫びが響き渡った。
「魔物だ!」
森の奥から現れた醜悪な魔物たちが、瑞々しい畑を踏み荒らしながら、怒涛の勢いで里へ雪崩れ込んできた。
里人たちは一斉に避難を始める。
よくあることなのか、驚くほど身軽に塀を飛び越え、目にも留まらぬ速さで木の上へ駆け上がる者もいた。
逃げ惑う人混みの中、小さな子どもが転びそうになり、
「ちゅっ……!」
と、妙に高くて可愛らしい声を上げた。
すぐさまその子を大人がひょいと抱き上げると、再び一目散に駆け出していく。
しかし、今のエレノアには、そんな様子を気にする余裕はなかった。迷わず腰の剣を引き抜き、真っ直ぐ魔物へと駆ける。
「こちらです!」
魔物の注意を引きつけながら、鋭い踏み込みで刃を振るった。一体、また一体。正確な剣筋で、鮮やかに魔物を切り伏せていく。
最後の一体が倒れて地面に伏すと、里には一転して静寂が戻った。
やがて、あちこちの物陰から里人たちが恐る恐る姿を現し、一様にほっと胸をなでおろす。
「助かった……」
「ありがとう」
「お姉さん、本当にありがとう!」
里の子供たちも笑顔で駆け寄ってきた。
やがて、人だかりを割って一人の老人が前へ進み出る。
「旅のお方」
白髪の老人は、実におだやかに、深く頭を下げた。
「この度は、我が里を救ってくださりありがとうございました」
「お気になさらないでください。困っている方を助けるのは当然のことですから」
エレノアが剣を鞘に収めながら微笑むと、老人は納得したかのように、ゆっくりと頷いた。
「ですが、受けた恩は返さねばなりませぬ。どうか、お礼をさせてください」
「そんな、大したことはしていませんから……」
「遠慮なさらず」
老人が静かに手を叩く。
すると、どこからともなく二羽の雀が羽音を響かせて飛んできて、老人の前へちょこんと降り立った。
一羽は胸を張った堂々たる大きな雀。
もう一羽は、丸々と肥えた、ころんと丸い小さな雀。
「……え?」
思わず素っ頓狂な声が漏れた。
老人はさも当然のことのように言った。
「森の出口まで、このどちらかがお供いたします。お好きな方をお選びください」
「......えっと?」
案内役が、まさかの雀?
エレノアは困惑しながらも、二羽を見比べる。
大きな雀は、いかにも優しげで穏やかな瞳でこちらを見つめている。
対して、小さな雀は、今にも腕でも組み始めそうな勢いで、小さな身体をいからせてジトッとこちらを睨みつけていた。
その不遜な態度が可笑しくて、エレノアの唇から思わず笑みがこぼれる。
「じゃあ……この子で」
そう言って、小さな雀を指差した。
次の瞬間、小さな雀の身体が、ぽうっと柔らかな光に包まれる。
光が収まったとき、そこに立っていたのは――一人の小柄な少年だった。
ふんわりとした茶色の髪に、くりりとした丸い瞳、ほっぺたがまだ少しふくふくとしており、可愛い顔立ちをしている。
「えっ……」
エレノアは今度こそ目を丸くした。
「あなた……雀の獣人だったんですか?」
少年はひどく面倒くさそうに首の骨を鳴らし、肩をすくめる。
「今さらかよ。そういう里だ、ここは」
呆気にとられていたエレノアだったが、どこか腑に落ちたように小さく笑った。
「そうだったんですね。驚きました。……君のお名前は?」
少年はふいと視線を泳がせ、少しだけ間を置いて不貞腐れたように答える。
「……スズ」
「スズ?」
そのあまりにも愛らしい名前を聞いた途端、エレノアは耐えきれずに吹き出してしまった。
「……ふふっ」
少年の眉がぴくりと跳ね上がる。
「あぁん? 何笑ってんだよ」
「ご、ごめんなさい。あまりにもぴったりというか、雀さんのお名前がスズなんだなって思ったら、おかしくて」
「文句あっか?」
「ううん。とても素敵なお名前だなって思ったのよ」
スズはちっと舌を打ち、ふいっと顔を真っ赤にして背けた。
「……どうせ可愛いとか思ってんだろ」
「少しだけね」
「ぶっ飛ばすぞ」
初対面とは思えない二人のやり取りを見ていた里人たちが、一斉にどっと笑い出した。
「ははは、スズのさえずりがまた始まったぞ」
「いかにもスズらしいや」
老人も白い髭を蓄えた肩を震わせながら、ほっほっほと笑う。
「それではスズ。旅のお方を、無事に森の出口までお送りするように」
「……へいへい」
不満そうにぶっきらぼうな返事をしながらも、スズは躊躇なく前を歩き出した。
「ほら。少し休んだら行くぞ、置いてくからな」
「あ、うん。待って」
エレノアは楽しげに微笑み、その小さな背中を追いかけた。
**
里を出て森を進むにつれ、頭上を覆う木々はさらに深く生い茂り、昼間だというのに薄暗い影が足元に落ちていた。
「こっちだ」
先を歩くスズは振り返りもせず、小気味よい足取りで進んでいく。
エレノアはその小さな背中を追いかけ、黙って後をついていった。
「――そこ、踏むな」
不意にスズが足を止めて鋭く声をあげる。
エレノアが慌てて足を浮かせると、そのすぐ先、湿った土から一輪の白い花が可憐に咲いていた。
「綺麗なお花だけど……これが何か悪いの?」
「だから危ねぇんだよ。無知な旅人はこれだから困る」
スズは近くに落ちていた枝を拾うと、その花弁を軽くつついた。
次の瞬間、ぶわっと紫色の細かな花粉が周囲に舞いあがる。
「わっ……!」
「そいつは毒花だ。まともに吸い込めば半日は身体が痺れて動けねぇ」
エレノアは思わず口元を押さえ、小さく息を呑んだ。
「危なかった……」
「森じゃ、綺麗なもんほど疑えってのが鉄則だ」
スズは枝を放り投げ、再び前を向いて歩き出す。
「あっちに見える赤い実は腹を壊す。逆にあの黒い実は食える。……水が飲みたきゃ、あの苔むした岩の裏に湧き水がある」
迷いなく森の秘密を解き明かしていく姿に、エレノアは心から感心して目を細めた。
「本当に何でも知っているのね」
「当たり前だ。この森は俺の庭みてぇなもんだからな」
スズはふん、と鼻で鳴らし、少しだけ小さな胸を張る。
「頼りになる案内人で助かったわ」
「……へっ」
まっすぐな称賛が予想外だったのか、スズはあからさまに顔を逸らした。
「当然だ。しっかりついてきやがれ」
**
しばらく進んだ頃だった。
前方の草むらがガサガサと大きく揺れ、低い唸り声とともに三体の魔物が姿を現した。
「来たか」
スズは身を翻すと、迷わずエレノアの前へと躍り出た。
「下がってろ!」
「スズ、一人じゃ危険よ――」
「案内役は俺だ!」
そう言い切るや否や、スズは小さな身体で魔物へと果敢に飛び込んでいった。
驚くほど素早い。
森の地形を熟知したその動きは、襲いかかる魔物たちの一歩先を行っていた。
俊敏に翻弄し、一体の攻撃を鮮やかにかわす。
しかし、かわした瞬間、死角となっていた横の茂みから、もう一体の魔物が鋭い爪を剥いて襲いかかった。
「しまっ――!」
空中で体勢を崩したスズでは、到底避けきれない。
万事休すかと思われた、その時だった。
「スズ、下がって」
背後から、凛とした声が響いた。
次の瞬間――銀色の剣閃が、薄暗い森の空間を鮮烈に走り抜けた。
一閃。二閃。そして三閃。
それはまるで、流れる水を切り裂くような、美しい舞のような剣筋だった。
三体の魔物たちは、自分たちの身に何が起きたのかすら理解する間もなく、どっとその場へ崩れ落ちる。
スズは地面に着地したまま、呆然と立ち尽くしていた。
(……強ぇ……っ)
自分が手も足も出なかった相手を、彼女は一瞬で片付けてしまった。その圧倒的な実力に、言葉を失う。
エレノアは流れるような動作で剣を鞘へ納めると、すぐにスズの前へと駆け寄り、その場にしゃがみ込んだ。
「怪我はない?」
「……え?」
「どこか痛むところはない? 大丈夫?」
肩にそっと、温かい手が添えられる。スズは目を丸くしたまま、目の前の優しげな瞳を見つめ返した。
「なんで……」
スズは戸惑いを隠せないまま、ぽつりと言葉を漏らした。
「なんで......俺が勝手に飛び出したのに」
エレノアは不思議そうに、小首を傾げた。
「私達は、今、旅の仲間でしょう?」
「は?」
「仲間が目の前で危ない目に遭っているのに、助けない理由なんてどこにもないわ」
あまりにも自然に、あまりにも当然のように彼女が言うものだから、スズは次の言葉を完全に失ってしまった。
(仲間……)
獣人だからでも、子供のように見えるからでも、道案内役だからでもない。
エレノアはただ、一人の「仲間」として、自分の身を案じてくれたのだ。
そう気づいた瞬間、スズの胸の奥が、むず痒く、ほんのりと熱くなる。
「……ちっ」
スズは気恥ずかしさに耐えかねて、乱暴に顔を背けた。
「……ありがと」
蚊の鳴くような声でぼそりと呟くと、エレノアは本当に嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。
「どういたしまして」
その笑顔が、薄暗い森の中で、妙に眩しく見えて仕方がなかった。
**
翌日。森はいよいよ終わりを迎えようとしていた。
スズはある大樹の前で足を止め、その遥かなる頂を見上げる。
「ここだ」
それは、見上げても天辺が霞んで見えないほど、圧倒的な存在感を放つ巨木だった。
幹からは、まるで人間が登るために誂えられた階段のように、太い枝が何本も交互に伸びている。
「この森を抜けて外に出るには、この上を渡っていくしかねぇんだ」
「木の上を? ……ふふ、なんだかわくわくするわね」
二人は息を合わせ、一本ずつ太い枝を伝いながら、ゆっくりと上を目指して登っていった。
やがて、頭上を覆っていた最後の青葉をくぐり抜け、視界が一気にひらけた、その瞬間。
「……っ」
エレノアも、そして案内役であるはずのスズも、同時に息を呑んで言葉を失った。
目の前には、見たこともないほどの広大な世界が広がっていた。
夕日に染まり、黄金色と深緑が混ざり合う「緑の海」。ぽつぽつと見える人の集落。遥か彼方の地平線まで、幾重にも連なる山々の稜線が美しくグラデーションを描いている。
心地よい風が梢を揺らすたび、木々は本物の波のように大きなうねりを見せ、その上を無数の鳥たちが、美しい群れをなして茜色の空へと飛び立っていく。
「すげぇ……」
スズはただただ、呆然と目の前の光景を見つめていた。
「こんな場所......あったんだな」
「スズは、ここに来たことがなかったの?」
「……ああ。里の奴らは滅多に外に出ねぇし、俺も出口まで案内する役なんて、今回が初めてだったから」
エレノアは風に髪をなびかせながら、穏やかな眼差しで景色を見つめ、微笑んだ。
「本当に綺麗ね」
「……ああ」
「スズと一緒に見られてよかったわ」
その言葉に、スズは耳まで真っ赤にしながら、照れくさそうに人差し指で鼻の頭をこすった。
「……まあ、悪くねぇな」
沈みゆく夕日を浴びながら、スズはぽつりと、心の奥に秘めていた想いを言葉にする。
「なぁ。外の世界ってさ……もっと、色んな景色があるのか?」
「ええ。ここよりもっと広い海も、一面真っ白な雪景色も、賑やかな大きな町も……まだまだ、数え切れないくらいたくさんあるわ」
スズは遠い空の向こうを見つめた。ドクドクと、胸が高鳴る音が聞こえる。
この狭い森の外には、自分の知らない果てしない世界が広がっている。
その景色を、できることならこの先もこの人と一緒に、隣で見てみたい。
そんな暖かで、確かな想いの灯火が、胸の奥底で小さく揺らめいた。
**
巨大な大樹の枝道を通り抜けると、そこには一本の街道が真っ直ぐに伸びていた。
しっかりと人や馬に踏み固められた土の道。深く刻まれた馬車の轍。それは、さっきまでの鬱蒼とした森の中には決して存在しなかった、確かな「人の営み」の跡だった。
「……出た、のか」
スズはゆっくりと立ち止まり、背後を振り返る。
そこには二人が歩んできた、どこまでも続く深い緑の海が広がっていた。
さっきまで二人がいたはずの巨木も、こうして少し離れて見上げれば、他の木々に紛れてどれが出口だったのかもう判別すらつかない。
「本当に……外なんだな」
初めて見る、遮るもののない広い空と平原。
スズの丸い瞳が、見たこともないほどきらきらと輝いていた。
その時、街道を一台の荷馬車がのんびりと通り過ぎていく。
荷台いっぱいに積まれた色鮮やかな野菜。御者台から聞こえる、旅人たちの朗らかな笑い声。視線をさらに遠くへやれば、小さな町の赤茶色の屋根がいくつも並んでいるのが見えた。
「なぁ」
「ん?」
「外ってさ……こんなの、まだほんの一部なんだよな?」
「ええ」
エレノアは楽しそうに深く頷いた。
「もっと大きな町もあるし、果てしない海もある。綺麗な雪が降る国もあれば、一年中太陽が沈まないような暑い国もあるのよ」
スズは再び、遠くの地平線を見上げた。
ドクドクと、胸の奥が高鳴り続けている。
自分の知らない景色、知らない人々、知らない世界――。もっと見てみたい、もっと知りたい。その純粋な衝動は、もう誰にも止められなかった。
「……決めた」
スズがぽつりと、しかし決然と呟く。
「俺、お前についてく」
あまりに突然の宣言に、エレノアは目を丸くした。
「えっ?」
「外の世界、見てぇんだ」
スズは少年のように少しだけ頬を染め、照れくさそうに言葉を繋いだ。
「……それに、お前と旅してりゃ、退屈しなさそうだしな」
エレノアの唇に思わずクスリと笑みが浮かぶ。
しかし、彼女はすぐにその笑みを収め、年長者らしい優しい表情でスズを見つめた。
「でも……里のみんなは? 長老さんも心配するんじゃないかしら」
その指摘に、スズは静かに森の方へ視線を戻した。
しばらく黙って、自分の故郷があった緑の深淵を見つめていたが、やがて悪戯っぽく小さく笑う。
「長老なら、たぶん全部お見通しだ。俺がこう言うこともな」
そう言って、小さく鼻の頭をこすった。
「それに……もし『帰れ』って言われたら、その時はちゃんと帰るさ。でも、一回くらい、自分の目でこの広い外の世界を見てみてぇんだよ」
迷いのないそのまっすぐな瞳を見て、エレノアは静かに、そして深く頷いた。
「……分かったわ。じゃあ、一緒に旅をしましょう。町も、海も、まだ見ぬいろんな景色を、一緒に見に行こう」
その瞬間、スズの表情がぱっと大輪の花が咲いたように明るくなった。
「おう!」
その返事は、出会ってから今までの中で、一番素直で、一番力強いものだった。
エレノアは微笑みながら、スズの前に右手を差し出す。
「改めて、よろしくね、スズ」
スズはその小さな手のひらを見つめ、少しだけ気恥ずかしそうにしながらも、自分の手をしっかりと重ね合わせた。
「……よろしく、エレノア」
ぎゅっと握り返されたスズの手は、一回り小さかったけれど、不思議なほど温かく、そして頼もしかった。
「まずは、あの近くの町へ行ってみましょうか」
「町!」
スズの目が、再びきらきらと輝き出す。
「市場ってやつがあるんだよな!?」
「ええ、あるわよ」
「食べ物の屋台とかも!?」
「もちろん。美味しいお菓子もたくさんあるわ」
「すげぇ!」
今までのぶっきらぼうに尖っていた少年は、どこへやら。まるで初めておもちゃ箱を開けた子どものようにはしゃぎながら、スズは勢いよく歩き出した。
その現金な後ろ姿に、エレノアは声を立てて笑ってしまう。
「ほら、エレノア! 早く行こうぜ!」
「そんなに急がなくても、町はどこにも逃げないわよ」
「町が逃げなくても、俺が待ちきれねぇんだよ!」
二人の楽しげな笑い声が、どこまでも続く街道に心地よく響き渡る。
人間の旅人と、小さな雀の獣人。二人の新しい旅が、今、鮮やかに始まった。
**
その頃。深い森の奥にある雀の里では。
長老が、静かな縁側で温かい湯飲みを傾けながら、目を細めてじっと森の境界を眺めていた。
そこへ、静かに羽音を響かせて、あの体格の良い大きな雀がやってくる。
「長老」
大きい雀は、少し寂しそうに声を落とした。
「スズ、本当に行ってしまいましたね」
しかし、長老は驚く風でもなく、ただ穏やかに髭を蓄えた口元を緩めた。
「……そうじゃな」
そのあまりに平然とした口ぶりに、大きい雀は不思議そうに首を傾げる。
「驚かれないのですね。あの子が人間の世界へ行くことを」
「ほっほっほ」
長老は静かに肩を震わせて笑った。
「あの旅人が、あの子を選んだ時から分かっておった。雀は、恩を受けた相手へ、その者にとっての宝物を授けるものです。」
そして少し目を細める。
「あの旅人はあの子を選んだ。ならば、ああなるのは必然でしょう。」
大きい雀が笑う。
「では、スズも。」
長老も笑う。
「......どうやら、あの子も自分の宝物を見つけたようじゃ。」
一陣の柔らかな風が、さわさわと森を渡っていく。
どこからか、里に残った雀たちの楽しげなさえずりが降るように聞こえてきた。
長老は、その愛らしい音に耳を澄ませながら、静かに微笑み続ける。
昔から伝わる言い伝えは、本当だった。
雀は恩を受けた相手へ、その者にとっての宝物を選ばせてくれる。
その宝物は、金銀財宝とは限らない。
人との出会い。
忘れられない旅。
そして、人生を変える縁。
雀たちは今日もまた、誰かの人生へ、小さな宝物を届けている。
終
お読みいただきありがとうございました。
いつか続きも書きたいな、と考えてます。




