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長編ネタ集

小さい雀を選んだら

作者: おかゆ
掲載日:2026/07/20

恋愛要素は薄めです。

昔から、こんな言い言い伝えがある。


森の奥深くには、雀たちが暮らす隠れ里がある。


雀たちは、恩を受けた相手へ、感謝のしるしとして、宝物を選ばせてくれるのだという。




**




エレノアは、気づけば三度目の大木の前に立っていた。



「……また、ここ」



目印に刻んだ剣傷が、しっかりと幹に残っている。

間違いない。自分は全く同じ場所へと戻ってきているのだ。



旅慣れた彼女だが、この鬱蒼とした森はあまりに深く、手元の地図はまるで役に立たなかった。

太陽の光さえ遮る木々のせいで方角も分からない。まるで森そのものに意思があり、自分を惑わせているかのようだった。



それでも、引き返すわけにはいかなかった。

少し前から、森のさらに奥から、微かに助けを求めるような声を耳にしていたからだ。



エレノアはただ、その声だけを頼りに一歩一歩、薄暗い藪をかき分けて歩き続ける。



そして、何気なく一歩を踏み出した、その瞬間だった。

昼なお薄暗かった深い森が不意に途切れ、目の前には陽だまりの広がる里の景色が広がった。



木々の間には規則正しく畑が並び、澄んだ小川がせせらぎ、質素ながらも温かな家々が建ち並んでいる。

ゆっくりと、穏やかな空気が流れる里だ。



「ここは一体……」



立ち尽くす彼女の耳に、今度ははっきりと、切迫した叫びが響き渡った。



「魔物だ!」



森の奥から現れた醜悪な魔物たちが、瑞々しい畑を踏み荒らしながら、怒涛の勢いで里へ雪崩れ込んできた。



里人たちは一斉に避難を始める。

よくあることなのか、驚くほど身軽に塀を飛び越え、目にも留まらぬ速さで木の上へ駆け上がる者もいた。

逃げ惑う人混みの中、小さな子どもが転びそうになり、



「ちゅっ……!」



と、妙に高くて可愛らしい声を上げた。

すぐさまその子を大人がひょいと抱き上げると、再び一目散に駆け出していく。



しかし、今のエレノアには、そんな様子を気にする余裕はなかった。迷わず腰の剣を引き抜き、真っ直ぐ魔物へと駆ける。



「こちらです!」



魔物の注意を引きつけながら、鋭い踏み込みで刃を振るった。一体、また一体。正確な剣筋で、鮮やかに魔物を切り伏せていく。

最後の一体が倒れて地面に伏すと、里には一転して静寂が戻った。



やがて、あちこちの物陰から里人たちが恐る恐る姿を現し、一様にほっと胸をなでおろす。



「助かった……」


「ありがとう」


「お姉さん、本当にありがとう!」



里の子供たちも笑顔で駆け寄ってきた。

やがて、人だかりを割って一人の老人が前へ進み出る。



「旅のお方」



白髪の老人は、実におだやかに、深く頭を下げた。



「この度は、我が里を救ってくださりありがとうございました」


「お気になさらないでください。困っている方を助けるのは当然のことですから」



エレノアが剣を鞘に収めながら微笑むと、老人は納得したかのように、ゆっくりと頷いた。



「ですが、受けた恩は返さねばなりませぬ。どうか、お礼をさせてください」


「そんな、大したことはしていませんから……」


「遠慮なさらず」



老人が静かに手を叩く。

すると、どこからともなく二羽の雀が羽音を響かせて飛んできて、老人の前へちょこんと降り立った。



一羽は胸を張った堂々たる大きな雀。

もう一羽は、丸々と肥えた、ころんと丸い小さな雀。



「……え?」



思わず素っ頓狂な声が漏れた。

老人はさも当然のことのように言った。



「森の出口まで、このどちらかがお供いたします。お好きな方をお選びください」


「......えっと?」



案内役が、まさかの雀?

エレノアは困惑しながらも、二羽を見比べる。



大きな雀は、いかにも優しげで穏やかな瞳でこちらを見つめている。

対して、小さな雀は、今にも腕でも組み始めそうな勢いで、小さな身体をいからせてジトッとこちらを睨みつけていた。



その不遜な態度が可笑しくて、エレノアの唇から思わず笑みがこぼれる。



「じゃあ……この子で」



そう言って、小さな雀を指差した。

次の瞬間、小さな雀の身体が、ぽうっと柔らかな光に包まれる。



光が収まったとき、そこに立っていたのは――一人の小柄な少年だった。



ふんわりとした茶色の髪に、くりりとした丸い瞳、ほっぺたがまだ少しふくふくとしており、可愛い顔立ちをしている。



「えっ……」



エレノアは今度こそ目を丸くした。



「あなた……雀の獣人だったんですか?」



少年はひどく面倒くさそうに首の骨を鳴らし、肩をすくめる。



「今さらかよ。そういう里だ、ここは」



呆気にとられていたエレノアだったが、どこか腑に落ちたように小さく笑った。



「そうだったんですね。驚きました。……君のお名前は?」



少年はふいと視線を泳がせ、少しだけ間を置いて不貞腐れたように答える。



「……スズ」


「スズ?」



そのあまりにも愛らしい名前を聞いた途端、エレノアは耐えきれずに吹き出してしまった。



「……ふふっ」



少年の眉がぴくりと跳ね上がる。



「あぁん? 何笑ってんだよ」


「ご、ごめんなさい。あまりにもぴったりというか、雀さんのお名前がスズなんだなって思ったら、おかしくて」


「文句あっか?」


「ううん。とても素敵なお名前だなって思ったのよ」



スズはちっと舌を打ち、ふいっと顔を真っ赤にして背けた。



「……どうせ可愛いとか思ってんだろ」


「少しだけね」


「ぶっ飛ばすぞ」



初対面とは思えない二人のやり取りを見ていた里人たちが、一斉にどっと笑い出した。



「ははは、スズのさえずりがまた始まったぞ」


「いかにもスズらしいや」



老人も白い髭を蓄えた肩を震わせながら、ほっほっほと笑う。



「それではスズ。旅のお方を、無事に森の出口までお送りするように」


「……へいへい」



不満そうにぶっきらぼうな返事をしながらも、スズは躊躇なく前を歩き出した。



「ほら。少し休んだら行くぞ、置いてくからな」


「あ、うん。待って」



エレノアは楽しげに微笑み、その小さな背中を追いかけた。




**




里を出て森を進むにつれ、頭上を覆う木々はさらに深く生い茂り、昼間だというのに薄暗い影が足元に落ちていた。



「こっちだ」



先を歩くスズは振り返りもせず、小気味よい足取りで進んでいく。

エレノアはその小さな背中を追いかけ、黙って後をついていった。



「――そこ、踏むな」



不意にスズが足を止めて鋭く声をあげる。

エレノアが慌てて足を浮かせると、そのすぐ先、湿った土から一輪の白い花が可憐に咲いていた。



「綺麗なお花だけど……これが何か悪いの?」


「だから危ねぇんだよ。無知な旅人はこれだから困る」



スズは近くに落ちていた枝を拾うと、その花弁を軽くつついた。

次の瞬間、ぶわっと紫色の細かな花粉が周囲に舞いあがる。



「わっ……!」


「そいつは毒花だ。まともに吸い込めば半日は身体が痺れて動けねぇ」



エレノアは思わず口元を押さえ、小さく息を呑んだ。



「危なかった……」


「森じゃ、綺麗なもんほど疑えってのが鉄則だ」



スズは枝を放り投げ、再び前を向いて歩き出す。



「あっちに見える赤い実は腹を壊す。逆にあの黒い実は食える。……水が飲みたきゃ、あの苔むした岩の裏に湧き水がある」



迷いなく森の秘密を解き明かしていく姿に、エレノアは心から感心して目を細めた。



「本当に何でも知っているのね」


「当たり前だ。この森は俺の庭みてぇなもんだからな」



スズはふん、と鼻で鳴らし、少しだけ小さな胸を張る。



「頼りになる案内人で助かったわ」


「……へっ」



まっすぐな称賛が予想外だったのか、スズはあからさまに顔を逸らした。



「当然だ。しっかりついてきやがれ」




**




しばらく進んだ頃だった。

前方の草むらがガサガサと大きく揺れ、低い唸り声とともに三体の魔物が姿を現した。



「来たか」



スズは身を翻すと、迷わずエレノアの前へと躍り出た。



「下がってろ!」


「スズ、一人じゃ危険よ――」


「案内役は俺だ!」



そう言い切るや否や、スズは小さな身体で魔物へと果敢に飛び込んでいった。



驚くほど素早い。

森の地形を熟知したその動きは、襲いかかる魔物たちの一歩先を行っていた。

俊敏に翻弄し、一体の攻撃を鮮やかにかわす。

しかし、かわした瞬間、死角となっていた横の茂みから、もう一体の魔物が鋭い爪を剥いて襲いかかった。



「しまっ――!」



空中で体勢を崩したスズでは、到底避けきれない。

万事休すかと思われた、その時だった。



「スズ、下がって」



背後から、凛とした声が響いた。

次の瞬間――銀色の剣閃が、薄暗い森の空間を鮮烈に走り抜けた。

一閃。二閃。そして三閃。

それはまるで、流れる水を切り裂くような、美しい舞のような剣筋だった。



三体の魔物たちは、自分たちの身に何が起きたのかすら理解する間もなく、どっとその場へ崩れ落ちる。



スズは地面に着地したまま、呆然と立ち尽くしていた。



(……強ぇ……っ)



自分が手も足も出なかった相手を、彼女は一瞬で片付けてしまった。その圧倒的な実力に、言葉を失う。



エレノアは流れるような動作で剣を鞘へ納めると、すぐにスズの前へと駆け寄り、その場にしゃがみ込んだ。



「怪我はない?」


「……え?」


「どこか痛むところはない? 大丈夫?」



肩にそっと、温かい手が添えられる。スズは目を丸くしたまま、目の前の優しげな瞳を見つめ返した。



「なんで……」



スズは戸惑いを隠せないまま、ぽつりと言葉を漏らした。



「なんで......俺が勝手に飛び出したのに」



エレノアは不思議そうに、小首を傾げた。



「私達は、今、旅の仲間でしょう?」


「は?」


「仲間が目の前で危ない目に遭っているのに、助けない理由なんてどこにもないわ」



あまりにも自然に、あまりにも当然のように彼女が言うものだから、スズは次の言葉を完全に失ってしまった。



(仲間……)



獣人だからでも、子供のように見えるからでも、道案内役だからでもない。

エレノアはただ、一人の「仲間」として、自分の身を案じてくれたのだ。

そう気づいた瞬間、スズの胸の奥が、むず痒く、ほんのりと熱くなる。



「……ちっ」



スズは気恥ずかしさに耐えかねて、乱暴に顔を背けた。



「……ありがと」



蚊の鳴くような声でぼそりと呟くと、エレノアは本当に嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。



「どういたしまして」



その笑顔が、薄暗い森の中で、妙に眩しく見えて仕方がなかった。




**




翌日。森はいよいよ終わりを迎えようとしていた。

スズはある大樹の前で足を止め、その遥かなる頂を見上げる。



「ここだ」



それは、見上げても天辺が霞んで見えないほど、圧倒的な存在感を放つ巨木だった。

幹からは、まるで人間が登るために誂えられた階段のように、太い枝が何本も交互に伸びている。



「この森を抜けて外に出るには、この上を渡っていくしかねぇんだ」


「木の上を? ……ふふ、なんだかわくわくするわね」



二人は息を合わせ、一本ずつ太い枝を伝いながら、ゆっくりと上を目指して登っていった。



やがて、頭上を覆っていた最後の青葉をくぐり抜け、視界が一気にひらけた、その瞬間。



「……っ」



エレノアも、そして案内役であるはずのスズも、同時に息を呑んで言葉を失った。



目の前には、見たこともないほどの広大な世界が広がっていた。

夕日に染まり、黄金色と深緑が混ざり合う「緑の海」。ぽつぽつと見える人の集落。遥か彼方の地平線まで、幾重にも連なる山々の稜線が美しくグラデーションを描いている。



心地よい風が梢を揺らすたび、木々は本物の波のように大きなうねりを見せ、その上を無数の鳥たちが、美しい群れをなして茜色の空へと飛び立っていく。



「すげぇ……」



スズはただただ、呆然と目の前の光景を見つめていた。



「こんな場所......あったんだな」


「スズは、ここに来たことがなかったの?」


「……ああ。里の奴らは滅多に外に出ねぇし、俺も出口まで案内する役なんて、今回が初めてだったから」



エレノアは風に髪をなびかせながら、穏やかな眼差しで景色を見つめ、微笑んだ。



「本当に綺麗ね」


「……ああ」


「スズと一緒に見られてよかったわ」



その言葉に、スズは耳まで真っ赤にしながら、照れくさそうに人差し指で鼻の頭をこすった。



「……まあ、悪くねぇな」



沈みゆく夕日を浴びながら、スズはぽつりと、心の奥に秘めていた想いを言葉にする。



「なぁ。外の世界ってさ……もっと、色んな景色があるのか?」


「ええ。ここよりもっと広い海も、一面真っ白な雪景色も、賑やかな大きな町も……まだまだ、数え切れないくらいたくさんあるわ」



スズは遠い空の向こうを見つめた。ドクドクと、胸が高鳴る音が聞こえる。

この狭い森の外には、自分の知らない果てしない世界が広がっている。

その景色を、できることならこの先もこの人と一緒に、隣で見てみたい。

そんな暖かで、確かな想いの灯火が、胸の奥底で小さく揺らめいた。




**




巨大な大樹の枝道を通り抜けると、そこには一本の街道が真っ直ぐに伸びていた。



しっかりと人や馬に踏み固められた土の道。深く刻まれた馬車の轍。それは、さっきまでの鬱蒼とした森の中には決して存在しなかった、確かな「人の営み」の跡だった。



「……出た、のか」



スズはゆっくりと立ち止まり、背後を振り返る。

そこには二人が歩んできた、どこまでも続く深い緑の海が広がっていた。

さっきまで二人がいたはずの巨木も、こうして少し離れて見上げれば、他の木々に紛れてどれが出口だったのかもう判別すらつかない。



「本当に……外なんだな」



初めて見る、遮るもののない広い空と平原。

スズの丸い瞳が、見たこともないほどきらきらと輝いていた。



その時、街道を一台の荷馬車がのんびりと通り過ぎていく。

荷台いっぱいに積まれた色鮮やかな野菜。御者台から聞こえる、旅人たちの朗らかな笑い声。視線をさらに遠くへやれば、小さな町の赤茶色の屋根がいくつも並んでいるのが見えた。



「なぁ」


「ん?」


「外ってさ……こんなの、まだほんの一部なんだよな?」


「ええ」


エレノアは楽しそうに深く頷いた。



「もっと大きな町もあるし、果てしない海もある。綺麗な雪が降る国もあれば、一年中太陽が沈まないような暑い国もあるのよ」



スズは再び、遠くの地平線を見上げた。

ドクドクと、胸の奥が高鳴り続けている。

自分の知らない景色、知らない人々、知らない世界――。もっと見てみたい、もっと知りたい。その純粋な衝動は、もう誰にも止められなかった。



「……決めた」



スズがぽつりと、しかし決然と呟く。



「俺、お前についてく」



あまりに突然の宣言に、エレノアは目を丸くした。



「えっ?」


「外の世界、見てぇんだ」



スズは少年のように少しだけ頬を染め、照れくさそうに言葉を繋いだ。



「……それに、お前と旅してりゃ、退屈しなさそうだしな」



エレノアの唇に思わずクスリと笑みが浮かぶ。

しかし、彼女はすぐにその笑みを収め、年長者らしい優しい表情でスズを見つめた。



「でも……里のみんなは? 長老さんも心配するんじゃないかしら」



その指摘に、スズは静かに森の方へ視線を戻した。

しばらく黙って、自分の故郷があった緑の深淵を見つめていたが、やがて悪戯っぽく小さく笑う。



「長老なら、たぶん全部お見通しだ。俺がこう言うこともな」



そう言って、小さく鼻の頭をこすった。



「それに……もし『帰れ』って言われたら、その時はちゃんと帰るさ。でも、一回くらい、自分の目でこの広い外の世界を見てみてぇんだよ」



迷いのないそのまっすぐな瞳を見て、エレノアは静かに、そして深く頷いた。



「……分かったわ。じゃあ、一緒に旅をしましょう。町も、海も、まだ見ぬいろんな景色を、一緒に見に行こう」



その瞬間、スズの表情がぱっと大輪の花が咲いたように明るくなった。



「おう!」



その返事は、出会ってから今までの中で、一番素直で、一番力強いものだった。

エレノアは微笑みながら、スズの前に右手を差し出す。



「改めて、よろしくね、スズ」



スズはその小さな手のひらを見つめ、少しだけ気恥ずかしそうにしながらも、自分の手をしっかりと重ね合わせた。



「……よろしく、エレノア」



ぎゅっと握り返されたスズの手は、一回り小さかったけれど、不思議なほど温かく、そして頼もしかった。



「まずは、あの近くの町へ行ってみましょうか」


「町!」


スズの目が、再びきらきらと輝き出す。



「市場ってやつがあるんだよな!?」


「ええ、あるわよ」


「食べ物の屋台とかも!?」


「もちろん。美味しいお菓子もたくさんあるわ」


「すげぇ!」



今までのぶっきらぼうに尖っていた少年は、どこへやら。まるで初めておもちゃ箱を開けた子どものようにはしゃぎながら、スズは勢いよく歩き出した。

その現金な後ろ姿に、エレノアは声を立てて笑ってしまう。



「ほら、エレノア! 早く行こうぜ!」


「そんなに急がなくても、町はどこにも逃げないわよ」


「町が逃げなくても、俺が待ちきれねぇんだよ!」



二人の楽しげな笑い声が、どこまでも続く街道に心地よく響き渡る。



人間の旅人と、小さな雀の獣人。二人の新しい旅が、今、鮮やかに始まった。




**




その頃。深い森の奥にある雀の里では。

長老が、静かな縁側で温かい湯飲みを傾けながら、目を細めてじっと森の境界を眺めていた。



そこへ、静かに羽音を響かせて、あの体格の良い大きな雀がやってくる。



「長老」



大きい雀は、少し寂しそうに声を落とした。



「スズ、本当に行ってしまいましたね」



しかし、長老は驚く風でもなく、ただ穏やかに髭を蓄えた口元を緩めた。



「……そうじゃな」



そのあまりに平然とした口ぶりに、大きい雀は不思議そうに首を傾げる。



「驚かれないのですね。あの子が人間の世界へ行くことを」


「ほっほっほ」



長老は静かに肩を震わせて笑った。



「あの旅人が、あの子を選んだ時から分かっておった。雀は、恩を受けた相手へ、その者にとっての宝物を授けるものです。」



そして少し目を細める。



「あの旅人はあの子を選んだ。ならば、ああなるのは必然でしょう。」



大きい雀が笑う。



「では、スズも。」



長老も笑う。



「......どうやら、あの子も自分の宝物を見つけたようじゃ。」



一陣の柔らかな風が、さわさわと森を渡っていく。

どこからか、里に残った雀たちの楽しげなさえずりが降るように聞こえてきた。



長老は、その愛らしい音に耳を澄ませながら、静かに微笑み続ける。



昔から伝わる言い伝えは、本当だった。

雀は恩を受けた相手へ、その者にとっての宝物を選ばせてくれる。



その宝物は、金銀財宝とは限らない。

人との出会い。

忘れられない旅。

そして、人生を変える縁。



雀たちは今日もまた、誰かの人生へ、小さな宝物を届けている。







お読みいただきありがとうございました。

いつか続きも書きたいな、と考えてます。

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― 新着の感想 ―
仕切り雀を想像してしまいました。 彼女の次に悪い旅人が里を訪れたもう片方を選択した結果、ざまぁが起きるかと思いきや、悪い雀などいなかったのですね。
感想一覧
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