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赤い涙  作者: 神山 備
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ガラス越しの家族

 一時間目終了後、担任に了承を取り付けた昂は、自宅に向かった。


 途中、行きと同じく笹川家の前を通り過ぎる。ひっそりとはしていたが、そこにそれはちゃんと存在していた。

(やっぱり俺の勘違いやったんかなぁ。そやな、今まであそこにあんなかわいい娘が住んでるなんて知らんかったから、家自体カウントしてなかっただけなんや)昂は、樹の顔を思い出して、少しにやけながらまた自転車を走らせて帰途についた。

 

 家に着いて制服から私服に着替えていると、机の上に置かれた携帯が鳴った。着信元を見る…母からだった。

「あ、何なん?」

「今どこ?もう、帰ってるの?先生から電話もうたんやけど。大丈夫なん?」

「うん、家で今着替えた。吐き気がしてただけやし、薬飲んだから心配しやんでええよ」

昂は飲んでもいない胃薬を飲んだと母に告げると、母の声が安堵に変わる。

「そう、お母さん今から家帰らんでええ?」

「うん、そんな大したことないから。ほんなら俺、もう寝るから。帰って来ても起こさんとってな。たぶん寝不足やから、寝たら治ると思うし」

「わかった。ほなお休み」

「お休み」

そう言って、昂は電話を切った。ごくごく普通の母子の会話。電話ではこうして普通に接することができるのに、直接目を合わせては話せない。怖がっている母の心に昂は歩み寄れない。いや、歩み寄っていると気づかれたら最後、母はそこから逃げ出すだろう。それが解かっているから、歩み寄る努力ができない。


 それにしても、何だか今日は本当に疲れた。思った以上に力を使い過ぎているのだろう。ベッドに横になった昂はそのまま眠りに落ちて行った。


 それから数十分後、昂の部屋に彼の母が入ってきた。彼女が熟睡している息子の頭を、涙を流しながら優しく撫で続けていたことを、彼は知らない。


 昂は夢の中で広大な草原にいた。彼の頬を優しい春の風が撫でていく。その風に煽られて露が一滴、また一滴と彼の顔に当たる…そんな夢だった。





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