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赤い涙  作者: 神山 備
13/15

祈り

 学校から昂が何者かに呼び出されて姿を消したとの連絡を受けた昂の両親は、血眼になって息子を探した。

 だが、ようやく母親が彼を通学路近くの小高い丘の上で発見したのはもう夜も更けた頃で、長時間京介の深層心理まで読み続けた事の疲労と、雨に当たり続けたのがたたって、元々軽い風邪を引いていた昂は既に虫の息だった。

 慌てて現在地を夫に知らせた彼女は、これ以上雨が息子の体力を奪ってしまわないようにすっぽりと身体を包んで抱きしめた。


 その息子の口からは荒い息とともに、

「ゴメンな……ゴメンな……」

としきりに誰かへの謝罪の言葉が発せられる。

(違う)

「ちゃう、ホンマに謝るんはお母さんの方や、あんたが謝らんでええ」

彼女はそう叫んで、尚更きつく息子を抱きしめた。この時、昂は樹に謝罪していたのだが、樹の存在を知らない彼女は、それが自分が生まれてきたことに対しての彼女への謝罪だと受け取ったのだ。

そう……昂に読心能力があると知った時、化け物呼ばわりして遠ざけたのはこの自分だ。

(罰が当たったんやきっと……)

裁かれなければならないのは自分の方なのに……彼女はそう思って涙にくれた。


「おそらく今夜が峠でしょう。合わせたい方がいらっしゃったら、すぐ連絡してください。」

そして、辿りついた病院でそう言われた時、彼女はついに半狂乱になった。

「お願いです。昂を、息子を助けてください! 今あの子が死んでしもたら……ねぇ、助かると言うてください!! お願いやから……」

「どうしたんや、ちょっと落ち付けや!!」

彼女がそう叫んで医師にしがみつこうとしたのを、慌てて夫が止めに入る。

「お気持ちはお察しします。そやから、我々もできるだけの事はしてるんです。けど、後は昂君の生命力にかけるしかない状態なんです。解かって、頂けますか。」

そんな医師の事実上の「最後通告」に彼女は顔を覆って号泣することしかできなかった。


 結局、昂は一週間生死の境を彷徨い続けた。そんな息子の側を母は片時も離れようとはしなかった。どんなにその疲労が色濃くなっても、周囲が休めと引き離そうとすれば暴れるので、しまいには鎮静剤を投与して息子の横の簡易ベッドに寝かせなければならなかったほどだ。

 

 一方警察は、昂を呼び出したササガワとイツキ言う男を探したが、行方はようとしてしれない。事務員が電話で『樹の事で話がある』という言葉に昂が慌てて反応したと言う証言から、警察ではこの二人の行方を追っていた。

ただ、樹というのが名前とは思わずイツキという名字で、二人とも男性であると誤解していたのだが。あのあと、“協力者”を失って失意のまま元の時代に帰った京介を探すことは、今の警察には不可能だった。

―まるで、煙のように消えたとしか言い様がない―

「一体、ササガワとイツキって奴はどこのどいつや! 見つけたらタダでは置かん!!」

父は警察の報告を聞いて、病院の壁に自分の拳を打ちつけた。

 

 そして、母親はその目が開いている間中、

「昂、お母さんは昂の事大好きやよ。世界中の全員が敵になっても、お母さんだけはあんたの味方やからね」

と囁き続けた。彼女は、息子がササガワたちにその能力の事で自分の存在意義さえ疑うほどに傷つけられたために、あの雨の中を彷徨い歩いていたのだと、そう解釈していた。


 何にせよ……母のその言葉は昂の潰えそうな命をギリギリの所で引き留めた。


 事件から10日後、昂はやっと昏睡状態から目覚めた。

「昂、良かった。ホンマによかった……」

そう言って手を握り涙する母親に、昂はきょとんとした様子で返した。

「すんません……あなたは誰ですか。……それで、僕は……」

しかし、その昂の一言で、母の感涙は悲鳴に変わった。

 昂はその一切の記憶を失ってしまっていたのだった。



 

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