第2話
ゾンビだ。
従業員だろうか、青い作業着に赤い血が付いている。
俺は教材用のビデオでしか見たことがない。
『世界危機』
あれはたしか俺が生まれる1年前だったらしい。
マジか。
あれで人口が8割減ったって聞いたぞ。
ガラスを隔ててそいつは、通路でひっそりとたたずんでいた。
「おい、どうするんだ!?」
音に向かって叫ぶ。
今の俺には銃はおろかナイフすらない。
武器になりそうなものといえば、バッグの中にあるフライパンぐらいだ。
空港なのだから当たり前だ。
「問題ない、入国検査員は拳銃を所持することが可能だ」
男は誇った顔をしながら、腰の拳銃のケースから角ばった灰色のオートマチックピストルを取り出す。
「あんまり訓練はしてないけどな」
男は拳銃を構え、俺はバッグを背負う。
こいつ適当に入れやがって、ずいぶんバランスが崩れてるぞ。
男は扉を開け、すでに知っている1体に向かって撃った。
5発ぐらい撃ってゾンビは倒れる。
まあ、上手いほうだろう。
俺も撃ったことがあるが、9ミリ拳銃などまず当たらない。
ゾンビとの距離は5メートルくらいだが、訓練されてない俺らはこんなものだ。
よくフィクションでは1発で頭に当てるが、そんな奴はいない。
俺は男の後ろをついていくしかない。
白い通路を行く。
ここは従業員通路なんだろうか。
ゾンビがいない。
本当に騒ぎが起こっているのか?
「だいぶやばいことになっているらしいぞ。空港内はおろか、この周辺でパニックになっているらしい」
男は携帯端末を見る。
マジか、大丈夫か?会えずに葬式はごめんだぞ。
男はドアの前で立ち止まる。
手を読み取り装置にかざす。
ピッ!という音が鳴り、次いでロックが外れる音がした。
ドアを開け、男と共に中に入る。
「空いてよかった。どうやら緊急事態が正式に発表されたようだ」
男はロッカーを開ける。
中にはライフルが入っていた。
「持ってろ、緊急事態だからな」
男はこちらに1丁手渡す。
こちらも灰色で角ばっている。
意外と軽い。
最近は軽量化が進んでいるのか。
男は銃の横にあるレバーを指す。
「ここが安全装置だ。今はロックがかかっているが回すと、単発、連発、3点バーストに切り替わる。おすすめは3点バーストだ」
さらに近くのボタンを押す。
「このボタンを押しているとマガジンが外せる。押しながら外すんだ」
マガジンポーチが4つ付いているカーキ色のベルトを渡される。
「1つ30発入ってる。生きてるやつには向けるな」
マガジンが1個、銃に装着された。
さっきドアを開けた場面を思い出した。
「どうやって開けた?指紋?」
男はこっちに手のひらを見せつける。
「マイクロチップだ。1年前ドイツ地域で試験的に導入されている」
「チップ?」
「ああ、極小のサイズで、健康、セキュリティ、同意すれば位置情報なんかが携帯端末から見れる」
「ふぅん」
そんなものがあるのか。
「確か、名前はアレクセイ・アンドレーヴィチ・ヴィタリーだったか」
「ああ。よく覚えてるな」
「俺はダニエル。ダニエル・カウフマンだ」
ダニエルはドアノブに手をかけ、ゆっくりと確認しながらドアを開ける。




