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妄想恋愛ばかりしていたら、金曜日に本物がきた。  作者: つなかん


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第92話 Sunday Evening:ふたりの未来を、ひとつずつ形にしていく日

Bar Toyo を出て、冬の風が頬を撫でる。


(……言ってよかった)


 胸の奥で何度もつぶやきながら、航平は美月のマンションへと向かった。


 インターホンを押すと、すぐに扉が開いて——

 少し不安そうな、それでもどこか期待めいた顔の美月が立っていた。


「航平さん……?」


「うん。話したいことがあって」


 そう言うと、美月は自然と笑った。

 緊張がほぐれるような、柔らかい笑みだった。


 部屋に入ると、優しい香りが迎えてくれる。


「……豊さんにも言いました。“同棲したい”って。

 昨日話したのと、同じこと」


 美月の瞳が大きく揺れた。


「お父さん……何て?」


「“お前と美月のことだ。自分たちで決めろ”って」


 その瞬間、美月は胸の前に手を当て、小さく息を吸った。


「……よかった……」


 その声が震えていて、航平の胸を強く締めつける。


「じゃあ……もう、進めていいんだよね」


「うん。だから……今日は未来の話、したくて」




 テーブルにノートパソコンを開き、

 航平と美月は肩を並べて座った。


 ほんの少し触れるだけで緊張し、

 触れたくて仕方がない距離。


「ふたりで住むなら……光が入る部屋がいいな」


「うん……キッチン広めがいい」


「え、料理したいの?」


「うん。航平さんのためにも」


 その一言に、航平は言葉を飲んだ。


(……どうしよう。好きすぎる)


 画面の物件よりも、横顔ばかりが気になった。


 気づけば、手を重ねていた。


「……一緒に選ぼう。全部」


「……うん」


 長い沈黙はなく、

 ふたりの呼吸だけが静かに重なっていく。




 気づけば夕方。


「そろそろ……行かないと」


 美月がコートを手に取ると、航平は少し名残惜しそうに笑った。


「仕事終わるころ、また迎えに来るよ」


「……はい」


 その返事が、恋人らしい甘さに満ちていて、

 航平の胸がまた熱くなった。




 夕暮れの Bar Toyo。


「ただいま戻りました」


 美月が暖簾をくぐると、豊がグラスを磨きながら顔を上げた。


「おう。……で?」


 美月は一歩前へ進み、迷わず言う。


「——私、航平さんと同棲します」


 豊はほんの一瞬だけ動きを止め、

 そしてゆっくりグラスを置いた。


「……そうか」


 短い返事なのに、妙に温かい。


 カウンターの引き出しをごそごそ探り、

 名刺を一枚差し出した。


「知り合いの不動産屋だ。腕は悪くない。

 時間ある時、ふたりで行ってみろ」


「……お父さん……ありがとう」


「礼はいらん。……自分の人生、しっかり歩け」


 その言葉に、美月は思わず胸をぎゅっと掴んだ。


(お父さん……本当に、ありがとう)




 夜の店内。


 航平は約束どおり、閉店の頃に戻ってくる。


 店の灯りに照らされた美月の顔は、

 昨日よりも、もっと柔らかく笑っていた。


(……この人と、生きていくんだ)


 その確信が、二人のあいだに静かに灯っていた。

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