第90話 土曜日の夜:未来の形を告げるキス(美月サイド)
航平に抱きしめられたまま、胸がぎゅっと苦しいほど高鳴っていた。
(……航平さんと一緒に住む……)
まだ現実じゃないみたいで、夢の続きを歩いているみたい。
そっと離れた航平が、美月の顔を覗き込む。
「……美月。
本当はね、もっと先の言葉まで考えてた」
「先の言葉……?」
「うん」
照れたように笑いながら、でも目だけは真剣。
「……美月と、家族になりたいって思ってる」
(……家族……っ)
重くて、温かくて、胸の奥が一瞬で満たされる。
言葉が出なくて、ただ航平の胸に手を置いた。
彼はその手をそっと包み込み、
「でも……焦らせたくない。
今すぐじゃなくていい。
美月のペースでいい。
それでも……いつか、そうなりたい」
真っ直ぐすぎる言葉に、涙が滲む。
「……航平さん」
「うん?」
「……はい」
短い返事なのに、すべてを込めた。
航平の目が驚きで大きく開く。
「……今の、“はい”は……」
「言葉のまま、です」
自分でも驚くほど素直に言えた。
すると航平は、少年みたいに笑った。
「……美月……好きだよ。本当に」
「……私も」
再び唇が触れた。
今度のキスは、ゆっくりと深まっていく。
遠くで電車の音がした。
公園の街灯の下、ふたりの影がひとつに重なっていく。
この夜を――
ずっと忘れないだろう。
未来の扉が、静かに開いた瞬間だった。




