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妄想恋愛ばかりしていたら、金曜日に本物がきた。  作者: つなかん


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Sunday:恋を知った心は、静かでも苦しい

日曜日の朝。

 カーテン越しの陽ざしが柔らかくて、

 布団の感触までもがやけに気持ちよく感じる。


 目を開けた瞬間、

 胸の奥がじんわり熱を帯びた。


(……昨日のメッセージ)


《昨日はありがとう。美月がいると落ち着く》


 思い出しただけで、

 心臓がゆっくり、でも強く脈打つ。


 スマホを手に取ると、

 通知は増えていないのに、

 なぜか胸が期待でざわついた。


(……私、こんなに誰かからの連絡を待つことなんて、今までなかった)


 胸の奥がきゅっと痛む。

 それが恋だとようやく気づいて、

 昨日は眠れなかった。


「……好き、なんだ」


 小さく呟いてみる。

 言葉にすると怖いほど胸が熱くなる。


 恋ってこんなに苦しくて、

 でもこんなに嬉しいものなんだ。


 妄想恋愛では絶対に味わえない、

 “本物の重さ”が胸にあった。


 午前中はずっと落ち着かなくて、

 洗濯をしても本を開いても集中できない。


 何をしても、

 耳の奥で航平さんの声が聞こえる。


『ゆっくりでいいよ』


 あの時の目。

 優しくて、温かくて、

 でも……どこか切なさを含んでいた。


 思い出すたびに、

 胸の奥がぎゅうっとしめつけられる。


(……会いたい)


 その言葉が頭に浮かんだ瞬間、

 心臓が跳ねて、思わずクッションを抱きしめた。


「……そんなの、私から言えるわけないよ」


 頬が熱くなっていくのをごまかすように、

 深呼吸をひとつ。


 日曜日。

 航平さんはカフェを休んで、

 きっと写真の旅に出ている。


(今どこにいるんだろ……)

(どんな景色を見てるんだろ……)

(私も一緒だったら……なんて)


 妄想じゃなくて “現実の未来” を想像してしまって、

 慌てて首を振った。


 昼過ぎ。

 スマホが震えた。


 心臓が一気に跳ね上がる。


(まさか……)


 震える指で画面を見る。


《橘 航平》


 息が止まった。


《今日は北の方を少し回って撮影してるよ。いい写真が撮れたら送る》


「……っ」


 胸の奥に熱が一気に広がる。


(私に……写真を送るって……)


 たったそれだけのことなのに、

 涙が出そうになるほど嬉しい。


 震える指で返信を打とうとして、

 でも手が止まった。


(どうやって返せば……?

 嬉しいですって言ったら重いかな……

 でも、嬉しいし……)


 迷って、迷って、

 ようやく送った。


《見てみたいです》


 本当は

「すごく嬉しいです」

「早く見たいです」

「できれば会いたいです」

全て言いたかった。


 でも、小さな一言だけにした。


 送ったあと、心臓の音が耳の奥で響く。


 しばらくして、

 返事が届いた。


《じゃあ、夕方に何枚か送るよ》


「……っ」


 息が止まりそうになる。


 声に出して笑った。

 幸せすぎて、怖いくらいだった。


 夕方。


 陽ざしがオレンジに変わる頃、

 スマホが震えた。


《写真》 4件


 震える指で開く。


 光が水たまりに反射して、

 空の色が淡く映り込んだ一枚。


 誰もいない路地裏に、

 春の名残の花びらが散っている一枚。


 古い洋館の影が長く伸びた、静かな午後の一枚。


 そして、最後の一枚。


 ——夕陽に照らされたカフェのドア。


 航平さんの店。

 ゆっくり生きる場所。

 À mon rythme。


 その写真には、

 “誰かを待つような温度”があった。


(……これ、私に見せたかったの?)


 胸の奥が熱くなった。


 気づかれないように、

 そっと涙がこぼれた。


(好き……)


 心の中で何度も繰り返した。


 その瞬間、

 メッセージが届いた。


《美月が好きそうな色だと思って》


 画面がにじむ。

 涙で文字がぼやける。


 胸が苦しいほど愛おしくて、

 でも怖いくらい嬉しかった。


(……好き、だよ)


 本当はそう送りたかったのに、

 指が震えて送れなかった。


 だからかわりに送った。


《とてもきれいです》


 その裏に隠した意味は、

 本当はもっと深い。


(本当は……航平さんが好き)


 心の中で、そっとだけ認めた。


 日曜日の夜は、

 甘くて、苦しくて、

 今までで一番、孤独じゃなかった。

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