表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想恋愛ばかりしていたら、金曜日に本物がきた。  作者: つなかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/113

第68話 Thursday Night:静かな店に残った影(豊サイド)

美月と航平が手を繋ぎ、店の前の細い路地に消えていったあと。

 「Bar Toyo」には、氷が溶ける音だけが静かに残った。


「……まったく、あいつらは」


 照明を一段落としたカウンターの上で、豊は静かにグラスを拭いた。

 美月の笑顔は柔らかく、航平の歩幅はいつもより少しだけ速かった。

 あのふたりの距離が、もう戻ることはないと感じる。


 悪い気分ではない。


 むしろ——胸が少し温かい。


 


 だが。


 カウンターの端に置かれた一枚の封筒が、豊の表情を変えた。


 封筒には上質で重みのある紙。

 差出人は──


「芦屋 健司」


 その文字を見るだけで、背中に薄いざわりが走る。


「……なんで今になって」


 封筒を開くと、中には招待状が入っていた。



『個展 “Trace of Light”

 芦屋健司 銀座・未来画廊

 — あなたにも、ぜひ来てほしい』



 裏には小さく一言。


『豊さんへ。話がしたい』


 その文字は、昔と変わらず癖のない静かな字だった。


(話、ね……)


 嫌な予感しかしない。


 手にした招待状を軽く揺らしながら、豊は深いため息をひとつ落とした。


「……美月には、関係ない話だ」


 そう言い聞かせても、胸の奥は重い。


 美月が知らない「玲子の過去」。

 芦屋が抱えていたもの。

 玲子が亡くなる前に豊へ伝えたこと。


 すべてが、明日を境にもう一度動き出す気がした。


 逃げるわけにはいかない。

 目をそらすほど無責任にもなれない。


「行くか……明日」


 静かにそう呟くと、招待状をポケットにしまった。


 店の照明を落とし、最後のロックをかける。

 冬の夜風が店の前を吹き抜けた。


 明日は金曜日。

 美月は恋のことで胸がいっぱいだろう。

 航平は大切な話をする日だ。


 ——その裏側で、豊は別の“金曜日”を迎える。


「玲子……俺は間違ってないよな」


 誰に届くわけでもない小さな声が、暗い店内に静かに沈んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ